寿司屋で「梅」より高価な「竹」を多く売る方法…アンカリング効果の活用より検証
A)「竹プラス」を出す(妥協効果)
「竹プラス」は「竹」と中身(品質)は同じですが、食器を高級にしたり「期間限定」を名乗ったりすることによって、より高額になっています。図1は、価格軸と品質軸のマップ上に3種類の盛り合わせをプロットしたものです。「竹プラス」は賢い消費者には選ばれないため、無関係な選択肢、つまりオトリ商品となります。「竹」の「梅」に対する弱みは高価格なことですが、「竹」と同品質でさらに弱みが大きい「竹プラス」が存在することで、「竹」の弱みが和らぐ効果があります。劣った属性(価格)の範囲を広げることによって、それほど悪くないと感じさせることから、妥協効果あるいはレンジ効果と呼ばれます。
B)「梅プラス」を出す(魅力効果)
「梅プラス」は「梅」と中身(品質)は同じですが、食器を高級にしたり「期間限定」を名乗ったりすることによって、「竹」と同じ価格になっています。図2は、価格軸と品質軸のマップ上に3種類の盛り合わせをプロットしたものです。「梅プラス」は賢い消費者には選ばれないため、無関係な選択肢、つまりオトリ商品となります。「竹」の「梅」に対する強みは高品質なことですが、「竹」と同価格なのに品質が低い「梅プラス」が存在することで、「竹」の強みが引き立つ効果があります。優った属性(品質)に関して、より劣ったオトリを加えることで、一層魅力的に見えることから、魅力効果あるいはフリークエンシー効果と呼ばれます。
C)妥協効果>魅力効果
「梅」に対する「竹」の選好を増加する妥協効果と魅力効果ですが、どちらの効果がより強いでしょうか? プロスペクト理論などで提唱されているように、人間は利得増加よりも損失回避を重視します。「梅」に対する「竹」の弱みは損失、「梅」に対する「竹」の強みは利得と解釈できるため、弱み(高価格)を和らげる妥協効果は強み(高品質)を増強させる魅力効果より強くなります。
D)妥協効果+魅力効果
妥協効果と魅力効果の相乗効果を狙って、図3のような「竹」より高価格かつ低品質な「オトリ」商品を販売したら、「梅」に対する「竹」の販売比率をもっと増やせるのではと考える読者もいるのではないでしょうか? 両方の属性(品質と価格)の値を同時に操作した「オトリ」商品だと、人は品質の違いと価格の違いとをトレードオフにかけて、頭の中でさまざまな計算をするため、妥協効果や魅力効果が弱まってしまいます。どちらか片方の属性値のみを変えることによって、商品間の優劣がより明確となり、妥協効果あるいは魅力効果が強く出ることが実験で確認されています。
(文=阿部誠/東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授)