こうした動きは合理化や働き方改革の一環なのだろうか。両社に問い合わせてみた。
「『12版▲』『13版』等、新聞の『版』につきましては、回答を差し控えさせていただきます。働き方改革につきましては、お客様へより豊かな情報を提供できるよう、働きやすく、働きがいのある会社を目指し、これからも進めてまいります」(朝日)
「紙面の起版については編集方針に関わるものであり、回答は控えさせていただきます」(日経)
新聞社が労務コストを減らす一方で、働きやすい環境づくりを目指すなかで、このような動きが起こっているのだろうか。
「版」をめぐる深夜の攻防
1月1日、年が明けてすぐにNHKが天皇退位にともなう新元号の公表を4月1日に行うと速報した。0時15分から始まるニュース番組開始前、『ゆく年くる年』で全国の年越しの風景が生中継されているときだった。
その日の朝刊各紙を確認すると、朝日は3面(13版●)でこのニュースが加えられ、日経の13版にはこのニュースは載らない一方、14版では1面に掲載されていた。産経新聞は最終版(15版)の一つ前である14版の1面トップでこのニュースを報じ、マイクロソフトのウィンドウズ更新の必要性などにも触れていた。ちなみにこのニュースは、年明け直後には産経新聞社のニュースサイトに流れていた。そして毎日新聞は最終版1面に掲載することで対処した。
年が明けてすぐ報じたNHK、詳しい内容を最終版よりも前の版に書き込んだ産経。他の新聞はそれを追いかけて一報を載せるしかなかった。NHKには岩田明子記者、産経には阿比留瑠比記者など、安倍晋三首相と深い関係にある記者がいるため、このようなことが可能になったのかもしれないが、他の新聞は年明けすぐの速報に面食らったのではないだろうか。
新聞制作の合理化が進むと、こういった事態に対処することが難しくなってくる。1面しか速報を掲載する場所がなく、とりあえず第一報を1面に載せる。あるいは他の面をいじって対処する。新年の速報騒動が、新聞の「版」の重要性をわかりやすく示すことになった。
現実的には、夜中までニュースが動き、紙面に入れなければならないような重要な事態が起きることはあまりない。この大みそか深夜の動きが、例外的だっただけである。
深夜まで紙面をなんどもつくり直して版を重ねることは、はたして合理的なのか。人件費だけではなく、何度も刷版をつくるのにもコストがかかる。そのコストもばかにはならない。そういった場合、早い時間で校了してそれを最終版としても、よいのではないだろうか。いずれにしても、新聞社が厳しい状況に置かれていることは、紙面を見ても確かだろう。
(文=小林拓矢/フリーライター)