2020年の東京オリンピックに向けて都内の各所で再開発が進んでいるが、あらゆる意味で注目を集めているのが、JR山手線の「高輪ゲートウェイ」と東京メトロ日比谷線の「虎ノ門ヒルズ」という2つの新駅だ。
そのネーミングセンスばかりに目が向けられがちだが、これらの新駅開業によって乗客の利便性や東京の鉄道網はどう変わるのか。鉄道ライターの枝久保達也氏に話を聞いた。
虎ノ門ヒルズと直結する森ビルの“請願駅”
山手線の49年ぶりの新駅となる高輪ゲートウェイ駅は20年春に暫定開業し、本開業は24年度の予定だ。また、日比谷線の霞ヶ関駅と神谷町駅の間に誕生する虎ノ門ヒルズ駅は20年の東京五輪前に暫定開業し、22年度に最終完成予定となっている。立地は、同じ港区だ。
いずれも五輪のために突貫で計画されたものではなく、それぞれ長年かけて構想され、都市交通や周辺の再開発との兼ね合いを鑑みながら進められてきたものである。
虎ノ門ヒルズと直結する虎ノ門ヒルズ駅誕生の背景について、枝久保氏はこう語る。
「虎ノ門ヒルズ駅は、都市再生機構が進める虎ノ門再開発を牽引する森ビルの要望により誕生する“請願駅”になります。虎ノ門駅、神谷町駅の混雑緩和のためだけでなく、虎ノ門ヒルズ周辺へのアクセスをより効率化する狙いがあるため、新駅の建設費用の多くを森ビルが負担しています」(枝久保氏)
企業や自治体の要請によって設置される“請願駅”は珍しいものではない。例を挙げると、巨大ショッピングモールに隣接するJR武蔵野線の「越谷レイクタウン駅」や、さいたまスーパーアリーナの最寄りとなるJR東北本線の「さいたま新都心駅」などがある。では、虎ノ門ヒルズ駅は虎ノ門ヒルズを利用する人以外には、あまり用がないものとなるのだろうか。
「虎ノ門ヒルズ駅は銀座線の虎ノ門駅と地下道で結ばれる乗換駅になり、利用区間によっては時間短縮だけでなく運賃が安くなる場合もあります。さらに、臨海部と都心をつなぐBRT(バス高速輸送システム)のターミナル駅にもなる予定で、臨海部との交通の拠点としての利用が見込まれています」(同)
「高輪ゲートウェイ」を新設するJRの狙い
続いて、ネーミングが話題になった高輪ゲートウェイ駅誕生の背景を見ていこう。この新駅は、山手線の品川駅と田町駅の間に新設される。
「もともとは田町電車区と呼ばれたJR東日本の東海道線の車両を収容する車両基地の跡地で、新駅を含めてこの一帯の再開発はJRが主導して行います。JRがここまで大規模な開発を手がけるのは初めてのことで、いわばJRが自分たちの開発の拠点としてつくった駅ともいえます」(同)
そんなJRの威信をかけた新駅だが、山手線内で乗り入れもないため、既存の鉄道網への影響はあまりなさそうに思える。
「駅前すぐの京浜急行泉岳寺駅と連絡通路で直結して乗り換えができるようになるので、羽田空港へのアクセスは良くなるといえます。また、隣の品川駅はリニア中央新幹線の始発駅になるので、それらを考慮すると利用価値はさらに高くなります。JRは、このエリアを海外やほかの地域へのアクセスの拠点とする『グローバルゲートウェイ品川』というコンセプトで開発を進めており、それを踏まえて『高輪ゲートウェイ』という駅名になったわけです」(同)
ネーミングセンスに文句をつけるのであれば、そもそもJRが掲げたコンセプトを非難するべきだったのかもしれない。
新駅より注目すべき品川駅の進化
ほぼ時を同じくして開業される、2つの新駅。その存在意義について、枝久保氏はこう語る。
「結局、どちらも再開発に付随するかたちでの設置です。新駅が生きるも死ぬも、すべては再開発次第ということ。新線開業や新規乗り入れ開始ではないので、停車駅がひとつ増えることを除けば、新駅の利用者以外には直接関係はないですね」(同)
鉄道の利用者に対する影響という意味で注目すべきポイントは、駅単体から一歩引いて見ると浮かんでくるという。
「注目すべきは、2つの新駅が開業する港区の発展です。品川駅はリニア中央新幹線と東海道新幹線が交差するJR東海の戦略的拠点になり、JR東日本と京急電鉄は混雑緩和と利便性向上のため、品川駅の大改良工事に着手しました。地下鉄南北線を品川駅まで延伸する構想も浮上しています。今後、品川駅を中心に港区がどう化けるかは楽しみです」(同)
2つの新駅および品川駅の発展は、東京にどのような変化をもたらすのだろうか。
(文=沼澤典史/清談社)