小売業界最大手、イオンを率いる岡田家の御曹司、岡田尚也氏が3月1日、フランス発祥の有機食品などのオーガニック専門スーパー、ビオセボン・ジャポンの社長に就任した。
岡田尚也氏はイオンの岡田元也社長の長男で、岡田卓也名誉会長相談役の孫だ。1983年生まれの35歳。大学卒業後は海外で働き、2015年1月にイオンリテールへ入社。ミニ食品スーパーを展開する「まいばすけっと」の店長を経て15年11月、イオンのオーガニック事業プロジェクトチームに加わった。
16年11月、ビオセボン・ジャポンの営業部長に就任。店長として営業現場を経験して今回、社長に昇格した。設立以来、社長を務めていた土谷美津子氏は、イオンリテール取締役執行役員副社長、近畿カンパニー支社長に就任した。
元也氏は、かねて「世襲は私で終わり」と口にしていたが、額面通り受け取る向きは少なかった。
創業者の卓也氏は、長男の元也氏をグループのコンビニエンスストア・ミニストップの店長に就け、小売業の最前線を経験させ、その後、トップに引き上げた前例があるからだ。
元也氏も尚也氏を「まいばすけっと」の店長を経験させてから、元也氏の肝いりの事業であるビオセボン・ジャポンの社長に据えた。オーガニック専門店という新規事業で成果を上げれば、グループの中核であるイオンリテールと持ち株会社イオンの経営陣に入る可能性が高くなる。
仏ビオセボンと共同出資で有機食品専門店を設立
イオンは16年6月、フランスでオーガニック食品スーパーを展開するビオセボンと折半出資してビオセボン・ジャポンを設立した。出資比率はイオン50%、ビオセボンの親会社が50%。ビオセボンは08年の設立で、有機栽培した野菜や加工品の専門店。欧州で100店以上を運営する。
16年12月9日、ビオセボンの国内1号店「麻布十番店」がオープンした。これに先立ち同月8日、店舗をマスコミに公開。元也氏とビオセボンの創業者、ティエリー・ブリソー氏が共同記者会見を開いた。
元也氏は「フローズン、オーガニックのどちらの分野でもリーディングカンパニーになる」と宣言し、同時にこんなコメントもした。
「価値観が変わっていることに対し、小売りが応えきれていない。メーカーも同様。冷凍食品では割引販売ばかり、売っている商品も旧態依然として炒飯だとか。イオンでワールドダイニングシリーズが大きなヒットとなったように、コンセプトが変わっている。これに積極的に応えていかなくてはいけない」
元也氏の言葉を要約すると、日本産品の安全で高品質という相対的優位性は揺らぎつつある。それにもかかわらず日本の多くの農業生産者やメーカーには、その危機感が乏しい。だから、イオンは自らオーガニック食品の展開を手掛けざるを得ないということだ。
さらに、プレミアムな冷凍食品で勝負できる時期になったと判断していたからこそ、「フローズン、オーガニックの分野のリーディングカンパニーになる」と高らかに宣言したのである。
イオングループの冷凍食品の目玉は高級食品ブランド「ピカール」。価格帯は1000円近くと冷凍食品にしては割高だが、フランスでは国民食といわれている。
元也氏は、次世代の食品スーパーとして立ち上げたオーガニック専門店の1号店店長に尚也氏を据えた。そして今年、尚也氏はビオセボン・ジャポンの社長に就き、経営者としてデビューした。
日本はオーガニック後進国である。トップを走るのは米国。米国の17年のオーガニックの市場規模は494億ドル(約5.4兆円)。独仏では1兆円規模である。一方、日本の市場規模は欧米より1ケタ小さく、17年には1785億円だった(矢野経済研究所調べ)。
オーガニック食品は割高なことが普及の足枷になっている。有機野菜は通常の野菜の5割増しが普通だ。
ビオセボン・ジャポンは、麻布十番店を出店したのを皮切りに、東京都内は中目黒店、外苑西通り店、碑文谷店、東武池袋店、赤坂店、富ヶ谷店、神奈川県内に新百合ヶ丘店、横浜元町店、小田急藤沢店の計10店を展開中。いずれも富裕層や外国人など健康や食の安全を重視する人々が多く住む地域だ。
イオンはグループ全体で現在15億円の有機野菜の売上高を2020年に100億円に伸ばす目標を掲げる。その中核を担うビオセボン・ジャポンは数年後に国内で50店程度まで店舗網を拡大する。
オーガニック事業の強化のためにイオンは18年12月、仏ビオセボンに出資した。同社が保有する自社株(19.9%分)を取得し、加工品の共同開発を行うほか店舗運営のノウハウを手に入れる。
元也氏の思い入れが強いオーガニック事業を尚也氏が担う。普通の野菜と価格競争ができるような商品を常時、コンスタントに供給できるかどうかで勝負が決まるだろう。イオン3代目御曹司の尚也氏は、結果を出すことができるのだろうか。ビオセボン・ジャポンがオーガニック食品のリーディングカンパニーになれば、元也社長後継者の座が視野に入ってくる。
(文=編集部)