この問題について東京大学教職員組合と首都圏大学非常勤講師組合は、2017年6月から東京大学と交渉を重ねてきた。この間、約8000人いる非常勤教職員について、5年以上勤務すれば無期転換請求権が生じることを大学に認めさせた。そして今年1月にようやく非常勤講師の雇用問題も解決に至ったのだ。
東京大学と同様に、非常勤講師と雇用契約を結んでいない大学は、東京藝術大学など10大学程度はあるとみられている。これらの大学も、非常勤講師と早急に雇用契約を結び、5年以上勤務した場合に無期転換請求権を認めるべきではないだろうか。
労働基準法違反に気づかない人事担当者
無期転換請求権については、労働契約法を普通に理解すれば間違えるはずがなさそうだが、なぜ東京大学をはじめ、多くの大学で誤った解釈が横行してしまったのか。その原因は、大学の経営陣や労務担当者が、労働法規に無知であるためだという。特に国立大学の場合は、人事労務担当の理事が、文部科学省からの天下りであるケースが少なくない。
首都圏大学非常勤講師組合によると、多くの大学と交渉してきた中で、5年以上働いた場合の無期転換請求権を認めない大学のほとんどが、労働契約法を正しく理解していなかったという。
さらに目立つのは、罰則規定もある労働基準法90条に違反した状態で、大学の就業規則を作成もしくは変更している大学が多いことだ。90条では就業規則を作成または変更する場合、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない、と定めている。違反した場合は30万円以下の罰金が科せられる。
東京大学は、改正労働契約法の施行後、非常勤教職員を5年で雇い止めする「東大ルール」を新たに制定するという就業規則の変更を行った。しかしその際、労働者の過半数代表者を決める選挙で、非常勤教職員と非常勤講師には選挙権も被選挙権も与えていなかった。
就業規則の変更が違法に行われていた場合、就業規則だけでなく三六協定などの労使協定がすべて違法で無効となってしまう。東京大学は組合から指摘されてその間違いに気づいたのだ。
東京大学は誤ちを認めて改善したが、無期転換請求権の扱いや非常勤講師との契約について違法な状態を続けている大学はまだまだある。首都圏大学非常勤講師組合では「東京大学の判断に準じて速やかに改めるよう各大学に求めていく」と話している。誤った法解釈による非常勤講師への不当な処遇は、速やかに改められるべきものだろう。
(文=田中圭太郎/ジャーナリスト)