「非常勤講師の無期転換請求権は10年以上働いてから」という誤った解釈は、現在も慶應義塾大学、中央大学、東海大学が強硬に主張し、首都圏だけでも約20の大学が続けている。
これらの大学が根拠としているのは教員任期法と研究開発力強化法の特例だが、大学や研究機関で誤った運用が行われていることを受けて、厚生労働省も今年2月、「研究者、教員等であることをもって、一律に特例の対象になるものではない」と、関係する省などに適切な対応を求める通達を出した。
しかも教員任期法は、無期転換請求権が発生する条件を10年以上とする場合は、教員本人の同意が必要と定めている。同意もとらず、法的根拠もない慶應義塾大学などの主張が成り立たないことが、東京大学の判断や厚生労働省の通達によって明確になったといえる。
実は雇用契約を結んでいなかった
東京大学の決定には、もうひとつ重要な内容が含まれている。それは、約2800人の非常勤講師を労働者として認めること。これまでは業務委託というかたちで、雇用契約を結んでいなかったのだ。
東京大学を含む多くの国立大学では、2004年の国立大学法人化以前は、非常勤講師を直接雇用していなかった。「日雇い」というかたちで、非常勤講師に謝金を渡していた。
そうせざるを得なかったのは、法人化される前の国立大学では教職員は公務員だったので、複数の大学で教えることもある非常勤講師を直接雇用すると、禁止されている兼業が問題になるからだった。
法人化されたことで教職員は公務員ではなくなった。このタイミングで多くの国立大学は非常勤講師独自の就業規則や、非常勤の教職員に共通した就業規則を制定して、非常勤講師と雇用契約を結んだ。
ところが、就業規則の制定を怠ったのか、非常勤講師と雇用契約を結ばないまま、現在に至っている国立大学がいくつかある。そのひとつが東京大学だった。
労働契約を結ばないと非常勤講師にどのような不利益が生じるのか。まず、就業規則は適用されない。万が一業務で事故が起きたとしても、労災が適用されることもない。労働者として認められず、その報酬は物件費などと同じ扱いになる。つまりモノ扱いともいえる待遇で、非常勤講師は授業をしていたのだ。