28年間値上げしなかった裏には、血の滲むような企業努力があったのだろう。では、なぜ、値上げに踏み切ったのか。人手不足による人件費の上昇や原材料の高騰で採算割れとなったからにほかならない。
外食業界関係者の間では、「改正酒税法」が値上げの引き金となったとの見方で一致する。スーパーなどでは改正後、すぐにビール価格が上がった。居酒屋などの飲食店も卸業者から仕入れるビールの価格が上昇することになる。
値上げ後、客離れに歯止めがかからず
当初は、アナリストの間で「値上げで利益率がアップする」との前向きの評価が多かった。だが、客離れは会社側の想定を超えていた。外食各社とも客離れを警戒し、定番メニューを据え置いて、価格が高めの商品だけを値上げするなど、おしなべて慎重な姿勢を取ったが、全品均一価格の鳥貴族はこうした方法を取れなかった。
また、鳥貴族は値上げの悪影響を相殺するような販促キャンペーンなどの対策を講じなかった。宣伝文句は「全店舗うぬぼれ中!」だった。消費者のサイフのひもの堅さを読み違えた。
18年7月期の単独決算の純利益は、前年同期比32%減の6億6200万円。客数は減っても値上げが寄与し、既存店売上高は4%程度の増加を見込んでいたが、ふたを開けてみれば3%超の減少となった。
今期に入っても苦戦が続いている。18年8月から19年2月までの既存店の売り上げ(平均)は前年同期比7.5%減、客数は6.8%減、客単価0.7%減。値上げによって客単価を引き上げ、客数の落ち込みを吸収するという戦略が甘かった。
上場を機にテレビへの露出が高まり、テレビ効果でターゲット層以外の客が一時的に増えたが、それが値上げを潮に去っていった。
だが、値上げから2年目に突入しても来客の減少に歯止めがかからない。業績悪化の原因を値上げのせいにばかりにできなくなった。
1月19日付日本経済新聞は、「株式市場では根本的な『店舗力』の低下が懸念されている。消毒用アルコールの誤使用、元店長による従業員の盗撮。相次いで不祥事が発生し、消費者からの信頼が低下した。急速な店舗網の拡大で戦線が伸びきり、人材教育やオペレーション体制が追いついていけない可能性がある」と、市場の懸念を伝えた。
鳥貴族は、仕事帰りの会社員たちで賑わう焼き鳥店のイメージを一新した。女性客を呼び込むために、おしゃれな店にしようと「鳥貴族」と名付けた。「お客様を貴族のようにもてなす」との思いが込められている。それが一時的な成功による「うぬぼれ」から、“普通の焼鳥屋”になってしまったのではないのか。創業の精神に立ち戻ることができるのか。
(文=編集部)