“日の丸半導体”ルネサスの事例
ルネサス エレクトロニクスは、2010年4月1日に日立製作所と三菱電機の共同出資会社であるルネサス テクノロジを、NECエレクトロニクスが吸収合併することによって誕生した。初代社長には日立出身の赤尾泰氏が就任したが、業績は低迷し、2013年9月30日には、旧革新機構、トヨタ自動車、日産自動車など9社に買収された。そして、約70%の株式を保有する旧革新機構が筆頭株主となった(2018年末時点の保有比率は33.37%)。
ルネサスは2013年6月に、オムロンの会長だった作田久男氏を会長兼CEOとして招聘した。作田氏は工場の縮小、売却、閉鎖など凄まじいリストラを断行した。その結果、2014年3月期には、ルネサス設立以来、通期で初めての黒字化を実現し、その後、営業利益率は10~15%を叩き出すまでになった(図4)。
2016年6月に社長兼CEOに就任した呉文精氏は、2017年2月に約3200憶円で米インターシルを買収し、2019年3月には約7300億円で米Integrated Device Technology(IDT)を買収した。つまり、ここ2年で1兆円を超える資金を買収に投じた。
ところが、呉CEOは3月29日の記者会見で、「国内外14カ所ある工場のうち13カ所の停止を検討している」「まず国内の主要6工場で4~6月に平均で1カ月稼働を停止する想定だが、停止期間を短縮できる見込みもあるという。7月以降は未定だが工場によっては最大2カ月ほど停止する」などと述べたという(3月30日付日本経済新聞より)。
ルネサスは、1兆円を超える買収を行う一方で、前代未聞の半導体工場の停止を行うという。その経営はまったくちぐはぐで、正気の沙汰とは思えない(2018年3月28日の拙著記事『ルネサスが隠す、異例の2カ月工場停止の“不都合な理由”…経営危機下で巨額買収の暴挙』)。
経産省が関与するとこうなる
経産省が関与し、旧革新機構等が出資すると、どうなるかということを図5に示そう。
1999年までは、日立製作所、三菱電機、NECが、それぞれ別個にDRAM等のメモリやデジタル家電用のSoC(System on Chip)の半導体ビジネスを行っていた。1996年には、3社合計で2兆6800億円の売上高を記録した。
ところが、1999年以降に経産省が旗を振って、まずNECと日立のDRAMの合弁会社エルピーダを設立した。エルピーダには、のちに三菱の技術者も加わった。次に、2002年にNECエレクトロニクスが分社化された。さらに、2003年には日立と三菱の合弁会社ルネサス テクノロジが設立された。この会社はロゴが赤かったことから、“赤いルネサス”と呼ばれた。
“赤いルネサス”は2010年4月に、NECエレクトロニクスに吸収合併されて、ルネサス エレクトロニクスになった。この会社は“赤いルネサス”と区別するためにロゴが青かったことから、“青いルネサス”と呼ばれるようになる。その“青いルネサス”は、業績不振のために旧革新機構等に買収され、直近では前代未聞の工場停止を行おうとしているわけだ。
結局、日立、三菱、NECの3社は最終的にエルピーダと“青いルネサス”に集約された。そして、エルピーダが経営破綻した結果、最後に残ったのは“青いルネサス”だけである。その2018年の売上高は、1996年のピーク時の28%(7573億円)しかない。
経産省と旧革新機構が関わるとすべてダメ
JDI、エルピーダ、ルネサスに共通しているのは、まず、複数社が統合していること、経産省が関与していること、エルピーダ以外は旧革新機構が出資していることである。
変化の早い電子デバイス企業において、政府が介入し、複数社が統合され、旧革新機構等が取締役を送り込むと失敗に終わるということは、もはや動かしがたい事実である。上記3社の事例がそれを物語っている。
ここで、心配になってくるのが、NANDフラッシュメモリを開発・製造している東芝メモリである。東芝メモリは親会社の東芝が債務超過に陥り、上場廃止を免れるために、米ベインキャピタルを筆頭とする日米韓連合に買収された。
この日米韓連合のなかには、旧革新機構から新設分割するかたちで設立されたINCJと日本政策投資銀行が含まれている。最近、日米韓連合のなかの米アップル、米デル、米キングストン、米シーゲートの株式を、INCJや政策銀が買い取ると報じられている。官製ファンド等が経営にかかわるとロクなことにならないのは、実証済みだ。頼むから、INCJと政策銀は、カネは出しても口は出さないでいただきたい。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)
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