半導体大手、ルネサスエレクトロニクスが国内外の13工場で生産停止を検討している。6月末にはグループ従業員の5%に当たる1000人近くの希望退職も募る予定だ。
まず、国内9工場のうち、シリコンウェハーに電子回路を刻む「前工程」を行う6工場で最大2カ月間、操業を止めると3月29日に発表した。茨城県の那珂工場や熊本県の川尻工場などが対象となる。
4~5月の大型連休を起点とする1カ月と、8月の夏休み期間の1カ月間、工場を停止する予定。正式に発表されたのは、4~6月に最大1カ月停止するというもの。従来、夏休み期間などに1週間ほど休業することはあったが、1カ月の生産停止は極めて異例だ。
国内工場の従業員は1万人規模。操業休止の間は一時帰休とすることになり、給与の8割程度の休業手当を支給する。7月以降の稼働については未定である。
ルネサスは3月20日に定時株主総会を開き、呉文精社長は生産調整について「検討しているのは事実」と認め、「需要が回復しないリスクに備え、コストを削減する」とその狙いを説明した。
ルネサスの2018年12月期の連結決算(国際会計基準)の売上高は前期比2.9%減の7565億円、営業利益は同33.0%減の681億円、純利益は50.0%減の509億円だった。中国景気の減速で企業の設備投資が減速しており、エアコンやファクトリーオートメーション(FA)向けの半導体需要が減った。中国の自動車市場がマイナス成長となった影響を受け、主力の車載用のマイコンの販売が振るわなかった。
だが、中国の景気の“変調”による逆風は、ルネサス1社の問題ではない。半導体や電子部品など幅広い業種に影響が広がっている。
ルネサスには、これ以外にも固有の事情がある。
日本の顧客比率の高いルネサスは、成長市場への進出が不可欠だ。17年2月、アナグロ半導体に強い米インターシルを約3200億円で買収した。19年3月30日、データセンター向けの製品に強みを持つ米インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)を約63億ドル(約6930億円)で買収する手続きを終えた。対米外国投資委員会(CFIUS)の承認を得た。買収資金は銀行から調達する。有利子負債は18年末に1929億円だったが、この買収で9000億円を超え、50%台だった自己資本比率も30%前後まで悪化する見通しだ。
2社合わせると1兆円を超える巨額の買収案件となる。総資産が9678億円(18年12月期末)のルネサスにとって、会社の形が変わるような一大変革期となる。
しかし、世界的な半導体市況の下落もあって、IDTの買収は「割高」とアナリストは指摘する。当然のことだが、ルネサスは多額ののれん代を抱えることになる。
米格付会社、S&Pグローバル・レーティングは3月28日、ルネサスの長期格付けを「トリプルB」から「トリプルBマイナス」に1段階引き下げた。