ソニーは8月6日、大株主の米ヘッジファンド、サード・ポイントが提案した映画などエンターテインメント事業を分離して米国市場で上場するという提案を拒否したと正式に発表した。この発表を受けて株価が急落した。分離案の受け入れによる株主価値の向上(=株価上昇)を見込んだ買いが、事前に入っていたからだ。
ソニーは臨時取締役会で、「今後の成長にエレクトロニクス事業とエンタメ事業の一体運営が必要」と全会一致で決議し、サード・ポイントに通告した。サード・ポイントは、エンタメ事業の分離上場案を拒否したことについて「失望した」との声明を発表した。一方で、ソニーがエンタメ事業の経営情報の開示を拡大する方針を示したことは評価。今後も「ソニーの経営陣と対話を続けていく」とした。ひとまず対話路線のように見えるが、サード・ポイントは、まったくあきらめてはいない。
ソニーとサード・ポイントの攻防は、遡ること5月14日、米国のアクティビスト(物言う株主)として知られるダニエル・ローブ氏がソニーに送り付けた一通の書簡が発端だ。サード・ポイントの最高経営責任者(CEO)のローブ氏は、ソニー株の6.3%を保有していると表明するとともに、ソニーが80~85%出資するかたちでエンタメ事業を分離し、米国で上場すべきだと提案した。上場で得た資金を不振のエレクトロニクス事業の再建に注ぎ込めば、ソニーの株価は大幅に上昇するという論法である。
これらの提案は6月20日開催のソニーの株主総会の議案にはならなかったが、総会直前にサード・ポイントはソニー株を6.9%まで買い増したとアピール、これを受けてソニー株が急騰したことは記憶に新しい。
エンタメ事業の分離上場の提案を拒否されたローブ氏は、次にどんな手を打つのか。ソニー株式をさらに買い増して、取締役の刷新など圧力を強めることになるとの見方が強い。最終的には高値で売り抜けることになるが、どこまでソニーの株価を吊り上げようとしているのかといった手の内は、一切見せていない。
●サード・ポイントの手法
そんな折、米ヤフーの株を大量に取得したサード・ポイントが、保有株を米ヤフー側に買い取らせて莫大な利益を得たことが明らかになった。
ローブ氏は2年前に米ヤフー取締役会のメンバーの変更を要求するため同社に電話を入れたところ、ロイ・ボストック会長(当時)に「一方的に電話を切られた」と述べている。ここからローブ氏と米ヤフー経営陣のバトルの幕が切って落とされた。
当時、米ヤフーは創業者のヤン氏ら役員が離反し、米電子決済大手・ペイパル社長のスコット・トンプソン氏を最高経営責任者(CEO)に招いていたが、ローブ氏はトンプソン氏を退任に追い込んだ。
米ヤフーは委任状争奪戦を終結させるためにローブ氏ら3人を取締役に任命することに同意。取締役会で主導権を握ったローブ氏は、経営陣の入れ替えを断行。ライバルの米グーグルの副社長だったマリッサ・メイヤー女史を新CEOにスカウトした。
ここからローブ氏はヘッジファンドの本領を発揮する。米ヤフーの株価上昇を見計らったかのように、今年7月22日、サード・ポイントが保有している株式4000万株を米ヤフーに買い取らせ、650億円の利益を得た。それ以前に同社株を売却して得た利益や、なお保有している2000万株の含み益も含めると、サード・ポイントが米ヤフーへの投資で得る利益の総額は10億ドル(1000億円)前後に上る計算になる。
米ヤフー株は、大規模な自社株買いで株価が上昇した。このタイミングで、保有していた同社株を買い取らせて莫大な利益を得た後、ローブ氏を含む3人はヤフーの取締役を辞任した。
ソニーの平井一夫社長兼CEOはサード・ポイントへの返信書簡で、「エンタメ事業はソニーの戦略に不可欠で、将来の成長の重要な原動力だ」と強調。エレクトロニクス事業との相乗効果を追求する方針を改めて示した。
ソニーの経営陣の頭痛の種は、「ローブ氏が、ソニーの前CEOのハワード・ストリンガー氏と気脈を通じている」との噂があることだ。これがもし本当なら、単なる「物言う株主」の提案でなくなるからだ。
(文=編集部)