シンガポール居留で大企業の経営ができるのか
潮田氏がシンガポールに移住したのは2015年と報じられている。その前年にLIXILの前身であるトステム社を創業した父、健次郎氏が死去している。健次郎氏の死亡に伴い、洋一郎氏の姉が相続税の申告漏れを指摘され、60億円強を追徴された。
洋一郎氏が日本の税制に疑問を感じたことは自らも明言してきたことである。シンガポールは住民税がなく、所得税の最高税率は22%でしかない。日本人の富裕層が多く移住していることで知られる。
しかし、日本の税制では「10年ルール」というのがあり、海外に10年以上居住を続けないと、その資産の相続税や贈与税の免除が適用されない、ということになっている。15年に移住した潮田氏は2025年まで日本に本格帰国できないはずだ。その間、日本に年間半年以上滞在すると、日本の居住者として本邦の課税適用の対象となってしまう。
さて、年の半分までしか滞在できない日本で、年商1兆8000億円、従業員数6万人以上という大企業のCEO職の責任を果たせると、潮田氏は昨年11月にCEOに復帰したときに本当に考えていたのだろうか。経営者の「覚悟と責任」を潮田氏がどのように認識しているのか、機会があればぜひインタビューしたい。
2世経営者の趣味の広がりが
潮田氏は瀬戸氏の前には、日本GE会長だった藤森義明氏をCEOとして招聘し、これも短期かつ唐突に解任している。潮田氏は藤森氏を招請した2011年以降は、LIXILで指名委員会議長だったが、創業2代目として実質的にオーナーが意思を行使したのと同じようなことだった。
経営に創業家が直接乗り出さなくとも関与を続ける形態はいくらでもある。問われるのはその関与モデルの是非ではなく、個々のケースでそれがうまく機能しているかである。
潮田氏は資産家の子息として育ち、大変な趣味人となったことで知られる。それこそ東西の古典から茶道、建築にいたるまで文化への造詣が深く、フィランソロピー(文化への啓蒙、援助)活動も活発にやっている、文化スポンサー的な立場の人だ。関西ではこれを“大旦那”と呼ぶ。
潮田氏のそんな側面と絡めて、同氏の経営への関与を“趣味人経営”と評する報道もあった。そう評されるとき、それは潮田氏の文化的趣味を“道楽・数寄(風流の道)”ととらえ、同氏のLIXIL経営への取り組みもしょせんは同氏の道楽の一つと断ずる見方だったであろう。
確かに潮田氏は2012年に取締役会議長に上り詰め、いわば経営の第1線から距離を置いた。しかし、外部から藤森氏、瀬戸氏と続けてスター経営者を招聘して、自らはオーナーのごとく院政を敷いてきた。
2氏を連続して更迭したことで、もう次にスター経営者を外部招聘できなくなったことから、昨年暮れに急遽自らがCEOに復帰しなければならなくなった。この時も、指名委員会の議長本人が自らをCEOに指名するという、利益相反的な行動をごり押ししてしまっている。正常なガバナンスとは言えない、やりたい放題のオーナーもどきだった。
この時のトップ人事の不透明性を海外機関投資家から非難され、今春その是非を問う臨時株主総会の開催が決まると、潮田氏はさっさとCEOを辞任してしまった。そして、6月の定期株主総会での取締役辞任も表明して、臨時株主総会の開催をつぶしてしまう。
ひとたび公の席で説明責任を果たさなければならない状態が発生すると、その責任をあっさり投げ出してしまった。まるで自分のほかの趣味と同様に軽く対応したその様は、「道楽経営」「海外居住者のパートタイム経営」などと謗られても仕方がないのではないか。
次回記事では、潮田氏の3大問題の3点目を解説し、瀬戸氏のCEO復帰の正当性を指摘する。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)
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