【総合商社の連結純利益】
社名 22年3月期実績 23年3月期見通し
(1)三菱商事 9375億円(5.4倍) 8500億円(▲9%)
(2)三井物産 9147億円(2.7倍) 8000億円(▲13%)
(3)伊藤忠商事 8202億円(2.0倍) 7000億円(▲15%)
(4)住友商事 4636億円(黒字転換) 3700億円(▲20%)
(5)丸紅 4243億円(90%増) 4000億円(▲6%)
(6)豊田通商 2222億円(65%増) 2100億円(▲6%)
(7)双日 823億円(3.0倍) 850億円(3%増)
注:カッコ内は前の期比増減率、▲は減少
大手総合商社5社は、資源価格の高騰で全社とも純利益が過去最高を記録した。豊田通商、双日も同様であり7大商社がすべて最高益となった。三菱商事は原料炭や銅など資源価格の上昇に加え、自動車関連やサケ・マスの養殖など非資源事業も伸び、3期ぶりに最高益を更新。純利益額で2年ぶりに商社トップに返り咲いた。
三井物産も鉄鉱石などの価格高騰で資源分野の利益が急増。伊藤忠商事は資源高に加え、情報・金融事業など非資源分野がコロナ禍からの回復需要を取り込んだ。三菱商事、三井物産の2Mの純利益は総合商社の歴史で初めて9000億円台となり、資源バブルを謳歌した。
一方、伊藤忠は「全部門で期初計画を上回る」(石井敬太社長)好決算となったが、資源の一過性の利益の差で2Mに負け、首位から転落した。住友商事は過去最大の最終赤字だった21年3月期から一転、石炭や鉄鉱石、銅などの市況回復が貢献し最高益。丸紅はチリの銅鉱山やオーストラリアの原料炭など資源分野の利益が大きく伸びた。上位3社は、これまで総合商社の最高益だった三菱商事の5907億円を大きく上回ったことが特筆されよう。
ロシア関連で損失続出
ウクライナ情勢の先行きが不透明な上に、資源高も一服するとの見方から、23年3月期は双日を除く6社が一転して減益を予想する。
最高益の裏側でロシア関連事業の損失処理も相次いだ。極東ロシアの液化天然ガス(LNG)・石油開発事業「サハリン2」に三井物産が12.5%、三菱商事が10%出資している。三井物産は純資産の減額を806億円、来年からガス生産を始めるとしてきた北極圏の「アークティックLNG2」をめぐり、債務保証の引き当てなど209億円の減損損失を計上。投資価値の引き下げに伴う純資産の減少分を含め、合計で1015億円の“損失”となった。三菱商事も「サハリン2」で減額500億円、自動車の販売金融などで損失130億円を出した。
原油開発の「サハリン1」に出資している伊藤忠は純資産の減額150億円を計上。住友商事と丸紅は関連会社がロシアにリースした航空機が戻らない可能性を織り込むなど、それぞれ580億円(うち航空機リース分は500億円)、134億円の損失を出した。住商は出資先のリース会社が航空機34機をロシアの航空会社(エアライン)に貸し出している。
「仮に(ロシア関連事業を)全損しても大きな影響はない」(伊藤忠の石井社長)などと今後の損失も限定的とみる強気の見方がある半面、「23年3月期はウクライナ侵攻の影響がより強まる懸念はある」(商社担当のアナリスト)。
丸紅は5月6日、決算を発表済みだが、柿木真澄社長は「サハリン1」について「できれば戦時下なので撤退したい気持ちがある」と述べた。ただ、事業継続を表明した政府方針に触れ「われわれとしては従っていかざるを得ない」と苦しい胸の内を吐露した。それでも柿木社長は「新規の(資源)ビジネスをロシアでやることは頭から消え去っている」とした。
ウクライナ侵攻の行方や世界経済の先行きがまったく読めないだけに、「ロシア・リスク」をどう排除するかについて、経営者の先見性が問われている。
(文=有森隆/ジャーナリスト)