初夏から梅雨の時季となり、すっきりしない天気でも蒸し暑い日が増えた。気温が高くなると外出時に飲料、特に清涼飲料水を携帯する人が多くなる。
清涼飲料水では現在、ペットボトル容器が主流だ。缶や紙パック、瓶(びん)に比べてキャップを閉めれば飲み残しても保存できる利便性が大きい。在宅勤務の仕事でもデスク脇に置き、仕事の合間に飲むのはペットボトル飲料、という人も多いようだ。
飲料総研の調査によれば、カテゴリー別では、もっとも市場規模が大きいのは日本茶飲料となっている。ブランドも林立し、たとえば緑茶では「お~いお茶」(伊藤園)、「綾鷹」(日本コカ・コーラ)、「伊右衛門」(サントリー)、「生茶」(キリンビバレッジ)などがある。
暑くなると登場回数が増える麦茶では「健康ミネラルむぎ茶」(伊藤園)、「GREEN DA・KA・RA やさしい麦茶」(サントリー)の人気が高い。
その茶系飲料のペットボトルは、パーソナルユースと呼ばれる個人向けの場合、現在、200ml未満の小容量から680mlの大容量まである。なぜ、これほど容量が幅広いのか。メーカーに話を聞きながら考えてみた。
緑茶ペットボトルは「小容量」も支持される
まずは、茶系飲料が人気の理由を聞いてみた。
「特に日本茶や麦茶は長年の歴史がある飲み慣れた飲料で、日本の消費者の生活に根づいています。健康志向も反映して人気が再燃しており、数年前からカテゴリー別で首位だったコーヒー系飲料を逆転した、とみています」
「伊右衛門」「GREEN DA・KA・RA」などのブランドを持つサントリー食品インターナショナルの広報担当・東房善平さん(SBFジャパン コミュニケーション本部 広報部)は、こう説明する。
同社からは「伊右衛門『お茶、どうぞ』」のペットボトル緑茶が販売されており、容量は195mlだ(冷温兼用)。通常の500mlの4割以下の容量だが、想定以上に売れたという。
「コロナ禍で非接触志向が高まり、たとえば住宅展示場や自動車販売会社の接客など、これまで急須のお茶で、お客さまをもてなしていた場所からも引き合いが増えました。手軽に提供できて食器洗いも不要、という利便性が評価されたと考えています」(同)
得意先との商談でもペットボトル飲料を出すのが一般的だが、急須で淹れたお茶が好まれるシーンもあった。そうした場合も簡便化に移行せざるを得なかったのだろう。
麦茶ペットボトルは増量化が進む
「2012年に『GREEN DA・KA・RA』ブランドがスタートしましたが、10周年を迎える今年4月、『GREEN DA・KA・RA やさしい麦茶』は680mlを発売しています」(同)
「やさしい麦茶」は、この10年で増量化が進んでいる。
・2013年「GREEN DA・KA・RA やさしい麦茶」新発売=ペットボトル容量500ml
・2014年、500ml→550mlに増量 ※自販機向けは除く
・2015年、550ml→650mlに増量 ※同上
・2022年、650ml→680mlに増量 ※同上
なぜ、これほど容量が増えているのだろうか。
「大きなトレンドとして、消費者の方の健康意識の高まりで、有糖飲料から無糖飲料へのシフト(=非糖化/避糖化)が進んでいます。無糖飲料のなかでも麦茶は、ノンカフェインで“ごくごく飲める”けど、香ばしさがクセになって“飲み飽きない”という点も支持されるポイントだと思います」(同)
そうした消費者志向を見据えて、メーカー側が訴求した結果といえそうだ。
夏の水分摂取の意識は、より高まった
麦茶に限らず、最近のペットボトル容器は「600ml」も多くなった。消費者が500mlより600mlを選ぶ理由を、もう少し考えてみたい。
「平均気温の上昇とともに、物理的に飲む頻度・量が増えていることと、体調管理の手段として水分摂取の意識が高まっていることも挙げられます」(同)
近年は、夏場の熱中症リスク回避として、テレビの画面でも各地の最高気温の紹介とともに「こまめに水分補給を」のテロップが流される時代だ。
「麦茶については、もともとご家庭で多めに煮出しして飲むものでした。現在はペットボトルの麦茶(特に2Lの大容量)と煮出し・水出しの麦茶を併用する方が多いです」(同)
煮出しや水出しはコストパフォーマンスがよいが、同社の消費者調査では、「抽出して飲むまで2時間以上かかり、つくるのが間に合わない」という声が上がったという。そこで2019年『GREEN DA・KA・RA やさしい麦茶 濃縮タイプ』を発売した。この商品は濃縮された麦茶を缶から出し、水と混ぜるだけで1~2リットルの麦茶がすぐできるものだ。
消費者からは「濃さを調節できるので好きな味がつくれる」「水出し・煮出しのようにティーバッグを取り出さないのがいい」という声もあったという。夏は麦茶をごくごく飲みたいという意識は、昔も今も変わらない。2020年からのコロナ禍で在宅時間も増えた。麦茶に関しては、ペットボトルの大容量化以外に、手軽に簡単につくりたい意識も高まった。
「缶」や「チルドカップ」はコーヒー飲料がけん引
少し本筋から離れるが、この機会に飲料容器の歴史も紹介しよう。
まずは、自販機需要が高い「缶コーヒー」について。現在の同市場を広めたのは、UCC上島珈琲(当時は上島珈琲)といわれる。それまでも缶コーヒーはあったが、1969年に“完全な商品として開発した缶コーヒー”を発売。翌年の大阪万国博覧会で大人気となった。この商品は、同社創業者・上島忠雄氏の「もったいない」精神もあった。
当時、列車で各地を飛び回っていた上島氏は、駅の売店で瓶入りのコーヒー牛乳を買う。ところが一口飲んだところで発車のベルが鳴り、飲みかけのコーヒー牛乳を置いて、あわてて乗車。「もったいない」という思いを抱き、持ち歩きができて、いつでもどこでも飲める、瓶以外の形状を……と考える。これが同社の缶コーヒーが生まれるきっかけだった。
2000年代以降、「チルドカップコーヒー」の人気が高まった。プラスチック製カップにストローをさして飲むタイプが多く、取材では「カップで飲むコーヒーだと口紅がつくが、ストローなら口紅をそれほど気にしなくてよい」という女性の声も聞いた。この市場は、1993年発売の「マウントレーニア」(森永乳業)がけん引してきた。
200ml以下~1L容量が多い、紙パック容器も各社が出している。こちらは茶系飲料もある。また、瓶入り容器も多かったが、小瓶の牛乳も最近はプラスチック容器が増えた。
このように容器には「缶」「紙」「瓶」もあるが、現在はペットボトルが主流なのだ。
飲料の好みはどうなっていくか
清涼飲料市場は全体で5兆円を超える巨大市場だが、コロナ禍初年、2020年の実績は17億7850万ケース。前年比93.5%と落ち込んだ(「飲料総研」調べ)。コロナの影響で、ビジネス出張や観光旅行の自粛、学生からシニアまで各種スポーツ大会や発表会も中止となり、移動時に携帯されるペットボトル飲料も影響を受けた。2021年の実績は回復基調にあるが、コロナ以前(2019年)には戻り切っていない。
別の調査結果では、健康志向を反映して、国内市場全体での「無糖飲料製品」構成比は「2018年は約49%」(全国清涼飲料連合会調べ)と、半数が無糖になっている。
前述した麦茶人気でも紹介した健康志向だが、一方で消費者の選択意識は、その時の気分でも変わる。無糖の炭酸水が年々拡大する一方で、有糖のコーラやサイダーも一定の支持があり人気は落ちないのだ。ただし、糖質・カロリーゼロを打ち出す派生商品も増えるなど、健康志向に配慮する流れにある。
飲料メーカー各社を取材すると「夏の亜熱帯化」という言葉で説明を受けたりもする。これからの時期は、特に大容量が好まれそうだ。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)