傘下にヤフーやPayPay、ZOZOを持つ、Zホールディングス(HD)が、最短15分で食料品や日用品を配達する事業を始めた。ZHDはIT企業というイメージが強いが、出前館やアスクルなども傘下に持つ。
今回はヤフーとアスクル、出前館が組んで「Yahoo!マート by ASKUL」(ヤフーマート)という事業を始めた。出前館のアプリから注文ができ、注文を受けた商品を配送専用の店舗で袋詰めして、出前館の配達員が届けるという仕組みだ。扱う商品は、アスクルにあるレトルト食品や飲料品、トイレットペーパーなどの日用品で、約1500種類におよぶ。
ZHDは2021年7月末から、食料品や日用品を配達する「PayPayダイレクト by ASKUL」を実験的に行ってきた。日本経済新聞の記事によると、15分という「すぐに来る」サービスが受けていることもあって、利用者一人当たりの利用頻度は3.7日に1回と頻度が高かったという。また、Impress Watchによると、一人当たりの月間最高注文が70回、月間最高注文金額が17万円と多くの利用があった。
22年度中にヤフーマートを数十店舗規模で出店し、都内23区すべてのエリアと他の一部エリアでのサービス拡大を目指すと発表している。ZHDとしては、自社が持っている商品ラインアップと販売網、そしてPayPayのキャッシュレスサービスを使ってプロモーションをしてくることが予想されるので、グループ企業全体の強みを活かし相乗効果が出せる美味しいビジネスということになりそうだ。
ダークストア
コロナ禍とITの進歩が同時に起きるなかで、消費者のものの買い方が大きく変わった。そのなかでも、このところ「時間」を付加価値として売るサービスが目立つが、「ダークストア」が話題になっている。これは消費者が買いに行くような一般的な店舗ではなく、インターネットで注文を受けて、生鮮食品や食料品を扱う宅配専門のスーパーのことを指す。小売業だが、実際に直接買える店を持つのではなく、スマホで注文を受けてから商品を集めて配達するというビジネスモデルが基本だ。
このダークストアという名称は、「実店舗がなく、どこにあるのかわからない」という「ダークなストア」というところから来ているそうだ。もともと欧米や中国では人気があり、急成長した。日本では東京の渋谷でオニゴー(OniGo)という会社がこのダークストアのサービスを提供している。この会社のホームページを見てみると、「10分で届く宅配スーパー」とあり、何より面白いのが、会社案内のところに「Qコマース事業」すなわちクイックコマース事業を展開しています、とある点だ。
具体的には、生鮮食品、食料品のモバイルオーダー、即時配送サービスと説明してあるが、インターネット通販を表すECではなく「クイック(=すぐ)に宅配します」という意味で「クイックコマース事業」だと自社を定義している。
コロナで外出もままならない、なるべく外に出たくない、届けてほしい、という需要が増えてきているなかで、ウーバーイーツや出前館のような飲食店のデリバリーアプリは、かなり浸透してきた。食品スーパーの宅配については、日本でも西友やイトーヨーカ堂など、ネットで注文することはできる店舗が増えている。スマホで簡単に日用品や食材が買える、というビジネスモデルは、消費者の間にも浸透してきた。こうなると競争も激しくなり差別化ポイントを作ることが急務になる。
通常であれば「価格を下げる」「配送料無料キャンペーンを行う」「品揃えを増やす」といった施策が取られがちだが、そのような「モノを売る」という考え方ではいずれ他社に模倣され、陳腐化してしまう。
一方、このオニゴーの特徴は「10分で届ける」と“時間”を売っていることだ。まだサービスが提供できる地域は限られているようで、メールアドレスを登録しておけばサービスが開始されたら連絡が来るとのことなので、10分で届けるということにこだわっている。
多くの宅配スーパーは、夕方を過ぎた場合の注文は翌日配送となるため、この便利さは格別だ。「自宅で忙しく仕事をしている時に、パパッとスマホで注文して届けてくれるのであれば、少しくらい高くてもいいから利用したい」と思う層が増えている。私も料理をやるのでわかるのだが、つくり始めてから「あ、玉ねぎ買い忘れた」など気づいた時などにはとても便利だ。
オニゴーのアプリは「商品は実店舗とほぼ同じ価格を実現しております。オニゴーの配達料は、お買い上げの金額に関係なく、一律300円です」と謳っており、「時間を大切にする」「時間を買いたい」「手間をかけたくない」という価値観を持っている層をターゲットにしていることがうかがえる。加えて、営業時間が午前10時から午後10時までと長いこと、さらに定休日がない。注文後はアプリ内でのチャットで「お届け状況」を把握できるので、かなり便利だ。人口が密集している地域でこれから広がりそうなサービスだ。
新規事業開発のポイント
ダークストアは、小売業以外にも企業の物流拠点としての場所を指すこともあるが、オニゴーは「小売業」だといえる。品揃えや値段も一般的な小売店とほぼ同じで、大きく違うのは「すぐ届けます」という1点のみ。コロナにより外出したくない、うちでご飯を食べたい、時間を大事にしたいという3つのニーズの高まりを見逃さず、サービスを開発できた。
スタートアップ企業や大企業の新規事業では、「自社で何ができるか?」を考える前に、「消費者から何が求められているのか?」というニーズから逆算して、自社の製品やサービスを開発することが重要だ。そのためには、顧客の属性や地域といった目に見えるセグメンテーションだけではなく、「顧客が何を重んじるのか?」という価値観や、「普段どんなライフスタイルなのか?」という行動を洞察する「インサイト」でセグメンテーションをして、ターゲット層を決めていくことが必須だ。
これができてくると、ダークストアのようなスーパーニッチの市場を見つけることができ、そこに製品を出せば、ライバルがいないので、価格ではないところで顧客に選ばれることになる。つまり、値引き不要で価格競争とは“違う場所”で勝負ができるのだ。企業の新規事業やスタートアップ企業などの「スモールスタート」には必須のアプローチになる。
その意味でもオニゴーは、さまざまな業態や業種の企業が参考にできる事例だ。
(文=理央 周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長)