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未使用の休暇を積み立て…ライフネット生命、独自のナイチンゲールファンド休暇

文=鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表
未使用の休暇を積み立て…ライフネット生命、独自のナイチンゲールファンド休暇の画像1
ライフネット生命保険 人事総務部マネージャーの関根和子氏

 企業の福利厚生の充実は、求人や社員の定着率に影響を与えるといっても過言ではない。福利厚生プログラムを扱う企業もあまたあるが、導入ともなると高額の提携料が必要な場合もある。中小企業にとっては福利厚生の充実は「分かっているけど、資金もなければ人もいない」というのが現状ではないか。

 資金も労力もかからず、インフラ整備もしなくていい、さらに従業員に喜ばれる――。そんな夢のような福利厚生が、ライフネット生命保険のライフサポ-ト休暇だ。2016年に創設された同制度は従業員に非常に好評ばかりか、会社にとってもメリットが大きいという。同社の人事総務部マネージャー、関根和子氏に聞く(以下、敬称略)。

ナイチンゲールファンド休暇とは?

――2019年から新たな特別休暇が登場するのですね。

関根 はい。下記にまとめたように16年に設けた特別休暇制度は、ナイチンゲール休暇、エフ休暇で、19年度に追加した特別休暇制度はナイチンゲールファンド休暇、ダブルエール休暇があります。

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――年次有給休暇は、労働基準法で業種・業態にかかわらず、正社員・パートなどの労働者の区分もなく一定の要件を満たしていれば、全ての労働者に与えられています。堂々という表現は変かもしれませんが、病気になったら通常は有休を使います。なぜ医療関係の休暇に特化する必要があったのですか?

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関根 年次有給休暇の有効期限は使い切らなくても2年間と労基法で決まっています。たとえば、がんのような重篤な病気が疑われると、診断確定までに時間もかかるし、いざ入院となると一定の準備期間も必要です。その後の治療プランのための休暇となると、軽く10日以上は休暇が必要です。さらに入院するとなると、社歴の浅い社員にとっては、あっという間に有給休暇は使い切ってしまい、その後は欠勤扱いになってしまいます。

 そこで本人の治療や家族の看病を応援する意味で、19年からは医療に特化した特別休暇を設けました。たとえば、入社半年の社員ががんに罹患した場合、有休の10日にナイチンゲール休暇の3日間、ダブルエール休暇の12日間、さらにナイチンゲールファンド休暇の12日間の合計37日間は確保できることになります。コロナ感染拡大以降は、ナイチンゲール休暇をコロナ感染やワクチン接種後の副反応で休む場合に使う社員もいます。

――ナイチンゲールファンド休暇は、他の休暇とどう違うのでしょうか。

関根 この制度は、全社員のナイチンゲール休暇の未使用分の休暇を会社側が一定期間積み立てて、がんの患者に付与するためです。いわば助け合い休暇というわけです。そもそも生命保険はお互いが助け合うという相互扶助の精神で成り立っています。この精神を人事制度に応用し、社員がお互いに支え合う制度をつくることを目的としています。

――保険業界だけではなく、他業界でもあまり類をみない休暇だと思います。社内の反響はいかがでしたか?

関根 社員からは「安心して働ける」「家族からも社員のことを大切にしてくれている会社なんだねと言われた」などの声があがっています。病気治療のために使っていただく以外に、休職の準備のために使うことも可能です。このファンドを導入してから、人事部に病気の相談をしてくれる社員が増えてきました。治療や就業をサポートしたいという人事部のメッセージをくみ取ってもらえて、嬉しいですね。

 病気のことを誰にも明かさずに辞める決断をしてしまうのではなく、事前に人事部に相談をして欲しいです。この制度ができたことで、病気を理由にした突然の退職はほぼ無い認識です。制度利用のお問い合わせをいただいた時は、気軽に話してもらえるように、自然体で話を聞いています。利用時は、人事部に申し出ていただき、診断書を提出してもらっています。

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命の危機のある病状に拡大して運用

――最近ではメンタルが不安定な方も増えてきていますし、がん以外にも長期入院をする場合もあります。ケガや交通事故の可能性もあります。こうした疾病などは対象にはされないのでしょうか。

関根 がんだけで事足りるのかという議論は当然出ました。半面、病気に対しての線引きは重要だと考えもしました。そこで人事部と産業医で相談し、対象を命の危機のある病状(心疾患、脳疾患、メンタル関係、その他)に拡大して運用しています。規定上はがんに特化していますが、重篤な病気が対象ということは社内にアナウンスしています。

――20年、21年には19年度の休暇を継続し、さらにアニバーサリー休暇を加えたのですね。アニバーサリーとは何ですか。

関根 これは従業員本人の価値観で特別な日とした記念日で1日間となっています。パートナーとの記念日やお子さんのお誕生日など、いろんなアニバーサリーがあることを痛感しました。

――助け合う制度としてはいいのかもしれませんが、人事部にとっては、実際は業務的に面倒だったりするのですか。

関根 それがまったくありません。内規の慶弔休暇の欄に「その他、会社が定めたものとする」と加筆した上で、当該特別休暇に関する内規を参照させる形で定めればいいだけです。費用も特にかかりません。一人ひとりの有給休暇の管理はきちんとしていますが、余った特別有給を会社が預かるという意味では、管理が軽減された部分は多少なりともあるように思います。

――次年度以降の特別休暇のアイディアなどはありますか。

関根 次年度に限らず、社会環境変化によって社員に働きやすい環境のサポートとなる特別休暇の検討を行っていきたいと考えています。当社の社員の平均年齢が30代~40代の子育て層です。しかしながら、ヤングケアラーが話題になっているように、当社にも早くから親の介護をしている社員がいます。コロナの感染拡大に伴い、当社もリモート出社を行っていますが、家族とともに実家に戻り、親の介護をしながら、リモート業務をこなす社員もいます。介護は特別休暇の対象ではありませんが、介護も課題として、より働きやすい環境の提案と整備を社員とともに創っていけたらと思っています。

終わりに

 ライフネット生命の数々の特別休暇は、費用も手間もかからず、すぐにでも実行できそうな印象を受ける。しかしながら、果たして導入さえすればうまくいくのかとなれば、個人的には懐疑的だ。

 同社の特別休暇が形骸化せず機能したことには、2つの理由があると考える。第一に、会社が一方的に決めて実行したのではなく、社員から声があがり、年単位で進化させてきたこと。第二に、何度か同社に取材に行って感じたことだが、経営陣と社員の距離が近く、社員同士も仮に意見が違っても互いの意見を尊重している企業風土があることだ。つまり、風通しがいい企業体質だからこそ、さまざまなアイディアが出て、実行され、助け合いの精神が根付くことになったのではないか。 

(文=鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュを設立。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで活躍
介護相続コンシェルジュ協会HP

Twitter:@kscegao

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