国税庁の資料を調べてみるとワインの輸入量は、ワインブームの巻き起こった1997~98年をピークに、その後は減少傾向だったが、2009年ごろから再びじわじわと増加している。輸入量のみならず、国産ワインの消費量も増加傾向にある。
また、一般社団法人日本ソムリエ協会の発表によると、去年のソムリエやワインエキスパートといった資格の受験者数・資格保有者数は、06年以降で最大に達している。これらの資格を保有している人は、必ずしもフランス料理店やイタリア料理店で働いているわけではなく、一般の社会人も少なくないという。つまり、ワインの味やうんちくに通じる人が増えてきているのだ。
「確かに1年前と比べると、高いワインを選ぶ人が増えました」そう語るのは、新宿のフランス料理店でワインを提供しているソムリエのA氏だ。
この店は高級店ではなく、気軽にフランス料理を楽しめる店をコンセプトにしている。客層は、会社帰りに立ち寄る20~30代のサラリーマンや、OLなどの女子会がメインだ。
「最近のお客様はけっこうシビアで、料理の値段を上げると客数に大きく影響してしまいます」
実際に料理だけ比べると、客単価は1年前に比べても、そこまで大きな差はない。しかし、食事を終えて会計時に客が店に支払う総額は、前年よりも10~20%ほどアップしたという。
その要因となっているのがワイン代だ。
「以前グラスワインを頼んでいたお客様の中でも、ちょっと奮発してボトルで注文する方が増えてきました」
フランス産の高級ワインよりは、4000~5000円程度の手ごろな価格のボトルワイン、アメリカやチリなどの、いわゆる「ニューワールド」のものが人気だという。
●景気の後押し、自分の好みのワインを選ぶようになってきた消費者
この状況をA氏はこう分析する。
「確かに景気が上向いてきた、ということもあると思います。仕事がうまくいった、などの時に“ワインを開けよう”という人も増えてきていますから。懐が温かいため、奮発しようという人もいるでしょう。その意味では、アベノミクスの後押しもありますね。ただ、消費者のワインに対する考え方も変わってきたということが、一番大きいのかもしれません」
10年くらい前までは、ワイン=高価な贅沢品、というイメージが強かった。しかし近年、味も良く、低価格帯のワインが輸入されるようになった。そこでさまざまなワインを味わい、単なるスタイルで高級ワインを飲むのではなく、コストパフォーマンスまで意識して「好きなワイン」を選ぶ消費者が増えてきた。
その結果、店が選んで提供するグラスワインではなく、自分の好きなワインを選ぶことができるボトルで注文をし、食事と共に楽しむという客が増えてきたのではないだろうか、というのだ。
これは、レストランなどの外食時に飲むワインに限った話ではないという。9月3日付日本経済新聞によると、ワインの売れ筋の価格帯が2000円台以上に上昇してきており、「消費者がワンランク上を求めて来る」と指摘している。
ワインのような嗜好品は、景気が悪くなれば大きなダメージを受ける分野だ。しかし失われた20年の間に、徐々にワインは日本社会に浸透。輸入メーカーや販売店の努力により、消費者はワインの味を覚えていった。それが最近のアベノミクスなどの影響により、消費者の財布が潤ったことで、一気に花開いたのではないだろうか。
そのため今回のワインの盛り上がりは、一過性のブームではなく、ワインが日本に根付いたことによる現象としてとらえるべきなのかもしれない。
(文=斉藤永幸/ライター)