台湾の大手銀行・中国信託商業銀行(台北市)は7月、日本の第2地方銀行・東京スター銀行を買収することで、同行の大株主と基本合意した。普通株式の大半を500億円強で取得。第三者割当増資も引き受け、総額700億円を拠出する。外銀による邦銀の買収は初めてだ。
スター銀行の株主である米投資ファンド、ローンスターや新生銀行、仏金融大手クレディ・アグリコルなどは、昨夏から財務アドバイザーの野村證券を通じて、中国信託銀行と交渉を進めてきたが、ようやく譲渡価格で折り合った。同行は金融庁に主要株主の交代に伴う認可を申請、年内に手続きの完了を目指す。
1999年に、スター銀行の前身・東京相和銀行が破綻して以降、投資ファンド間で転売が繰り返されてきた。最初はローンスターが買収し、次に国内の投資ファンド・アドバンテッジパートナーズに転売されたが、アドバンテッジはスター銀行の赤字転落によって配当を受け取れなくなり、買収に使った資金の返済が滞った。
そのため、融資の担保としていたスター銀行の株式で代物弁済した。ローンスターをはじめとする融資団は複数の国内銀行にスター銀行の買収を持ちかけたが、いずれも不調に終わった。中国信託銀行による買収の申し出は渡りに船だった。同行は買収後、アジアに経営の軸足を移し、日本企業のアジア進出を手助けするビジネスを手掛ける。
●邦銀のアジア進出
一方、大手邦銀は東南アジアの銀行に買収攻勢をかけている。三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)がタイ5位のアユタヤ銀行を買収する計画が、7月に明らかになった。同FG傘下の三菱東京UFJ銀行が11月から12月にかけてTOB(株式公開買い付け)を実施する予定。25.3%を保有する米ゼネラル・エレクトリック(GE)から全株を引き取る契約を結んでおり、最大75%の取得を目指す。アユタヤ銀行のオーナーで現在も25%を保有するラタナラック家と協力しながら経営に当たる。
タイに支店を持つ外資系銀行は、現地の銀行に出資できないという規制がある。三菱東京UFJ銀行のタイ支店をアユタヤ銀行が統合することで、この出資規制をクリアした。買収総額は4000億円超の見込み。同行にとっては、2008年に米金融大手モルガン・スタンレーに9000億円出資したのに次ぐ大型M&A案件となる。
邦銀がアジアの銀行の経営権を握るのは、今回の三菱UFJのケースが初めてだ。同行は12年10月、インドネシア国営インドネシア輸出入銀行と業務提携した。同年12月にはベトナム2位のベトナム産業貿易商業銀行(ヴィエテインバンク)の第三者割当増資を引き受け、発行済み株式の20%を握った。出資総額は631億円。三菱UFJは日本、米国に次ぐ収益の柱と位置づけアジア地区を強化する。
みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)は11年9月に、ベトナム最大の国営商業銀行、ベトコンバンクと資本・業務提携した。ベトコンバンクの株式の15%を取得し、ベトナム政府に次ぐ民間の筆頭株主となった。
三井住友銀行は今年5月、インドネシアの年金貯蓄銀行(BTPN)の一部株式を米投資ファンドのTPGキャピタルから取得することで合意した。出資比率は当初24.2%とし、インドネシアの監督当局の認可が得られれば、金融機関に出資できる上限の40%に引き上げる。最終的に出資額は1500億円になる見込みだ。
三井住友銀行は昨年12月、資本提携している香港の大手銀行、東亜銀行に350億円を追加出資し、持ち分比率を4.7%から9.5%に引き上げた。また、国内では7月、フランス金融大手ソシエテ・ジェネラルの子会社のソシエテ・ジェネラル信託銀行を100億円で買収するなど攻勢を強めている。
りそなホールディングスは5月、マレーシア2位の商業銀行、パブリックバンクと業務提携を結んだ。マレーシアへの進出や生産拡大を目指す、りそなの取引先をパブリック銀行に紹介する。
地方銀行も滋賀銀行、北陸銀行、横浜銀行、福岡銀行などがこの1~2年の間にタイ・バンコクに事務所を開設した。大手製造業の東南アジア進出を中小企業が追い、それを地銀が追う構図になっている。
●ASEAN向け投資の急成長、中国の脱生産拠点化
邦銀の海外事業は欧米や中国に進出する日系企業への融資が柱だった。だが、欧州経済の低迷と中国の賃金上昇、日中関係の悪化で、今後大きな伸びは見込めない。近年、東南アジア諸国連合(ASEAN)に工場を建てる日系企業が増えている。
国際通貨基金(IMF)の見通しではASEAN主要5カ国(インドネシア、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナム)の2013年の経済成長率は年率5.9%と試算している。日本貿易振興機構(ジェトロ)が8月8日に発表した「世界貿易投資報告」によると、今年上期(1~6月)の日本企業の対外直接投資額は、ASEAN向けが前年同期比55.4%増の102億ドル(約9800億円)で過去最高を記録した。対中国向けの2倍である。一方、中国向けは同31.1%減の49億ドルにまで落ち込んだ。生産拠点の脱中国が鮮明になった。
邦銀はバブルの時代に積極的な海外展開を図った。1990年当時、邦銀の支店はニューヨークだけで100店近くあった。だが、バブル崩壊で銀行は膨大な不良債権を抱え、先を争うように国内への回帰を急いだ。
あれから20年余たった今、再び邦銀は海外展開を加速させている。
(文=編集部)