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『ルールを変える思考法』著者・川上量生氏インタビュー

ドワンゴ川上会長に聞く、ニコ動成功の理由と、社会を不幸にするネット世論のおかしな構造

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 ただ、どうしてマスプロモーションするのかというと、それは話題を喚起するためですよね。ソーシャルメディアでも、そういう口コミが起こって話題が喚起されるためには、マスプロモーションを活用することは必要だと思います。

●わけのわからないニコニコ動画

–話題を喚起し、どんどん伝搬していくという観点で言うと、ドワンゴが運営するニコニコ動画もその性格を帯びていると思いますが、そもそもニコニコ動画を始められたきっかけはなんですか?

川上 ニコニコ動画については、結果として当初のイメージと少し違ったかたちとなりました。『ルールを変える思考法』の本文中にも書いたのですが、ニコニコ動画は、結果的に「動画」で勝負することになったものの、当初は「生放送のサービスをやりたい」と考えてスタートした企画だったのです。動画共有サービスの分野ではすでにYouTubeがサービスを確立させていましたので。試行錯誤を繰り返している中で、現在の方向性に落ち着いたわけです。

–ニコニコ動画が多くのユーザーの支持を獲得している理由として、「わかりそうで、わからないもの、わけがわかりにくそうな部分を持っている点」を挙げていらっしゃいますが、サービスが成功するためには、「わけがわかりにくそうな部分」が必要だということでしょうか?

川上 これも本で触れているのですが、僕は「コンテンツとは、わかりそうでわからないものである」と定義しています。そうすると、「わかりそうで、わからないもの」であろうとすること自体が、コンテンツの目的にもなり得るということです。

 ニコニコ動画の運営方針が、大会議、ニコファーレ、超会議と、ユーザーからみても「わけがわからない」と批判されることも多かったのですが、僕らはわけのわからなさそのものに価値を置いていた部分もあったのです。

 今の大ヒット作品というのは、基本的にわからないものですよね。村上春樹さんの小説にしても、スタジオジブリの作品にしても、決してわかりやすいとは言えない。わかりやすいものは大ヒットしないとも言えるのではないでしょうか。

–ニコニコ動画の立ち上げ当時、ここまで爆発的にユーザーが広がるということは、ある程度想定されていたのですか?

川上 1〜2年はかかるだろうと思っていたところまで、1カ月で達してしまい、あっという間に軌道に乗りました。想像以上にインターネットが社会に広がり、かつインターネットの進化のスピードが速くなっていたためです。これが、「面白いものはすぐはやる」というインタ―ネットの特性です。

●いい方向に向かっていないネット世論

–そうした社会へのインターネットの広がりにより、ネット世論といわれるものが社会を動かすケースも増えています。川上さんは「ネット世論は、あまりいい方向に向かっていない」と指摘されていますが、なぜそのようにお考えなのでしょうか?

川上 ネット世論が世の中を動かすという流れにだんだんなってきていますが、それはあまりいいことではないと思います。実際、世間の思いとは裏腹に、インターネットは世の中をよくする方向には向かっていません。

 例えば、あるプロ野球球団が試合に負けた時、「監督の采配が悪い」などとさまざまなメディアに叩かれます。そして、その球団のファンも怒り、「俺が監督をやったほうがうまくいく」と思うわけですが、冷静になって考えてみれば、そんなはずがないことは、誰でもわかるはずです。

 原発問題などの社会問題についても同じ構造が見られます。誰もが「自分が考えていることが正しい」と思い、「すぐに稼働を止めなければいけない」「いや、止めるべきではない」「自分の主張が正しいのに、どうしてほかのみんなはわからないのか?」とネット上で主張する。現在のネット世論はそういう状態にあります。

 つまり、ネットユーザーが求めていることは、プロの存在を否定して、「素人が運営する国」であり、これはどう考えても最悪の国、最悪な社会体制ですよね。誤解を恐れずに言えば、プロが全部決めて密室でやったほうがいいに決まっています。でも、密室だと信用できないから、公開=透明化して、世論で社会を動かそうとしているわけですが、それではただの欲望で社会を動かすことにほかなりません。「消費税は上げるな。なぜなら上げてほしくないから」。極論すれば、そういう理由ですべてが決まっていくわけです。

 腐敗防止と監視のための透明性は、チェック機能としてはある程度必要だと思いますが、細かいことまでみんなの意見を聞かなければ決定できないというのは、社会体制としては間違っています。本当に腐敗がある部分もあるかもしれませんが、日本は世界の中でも腐敗が少ない国で、大半のことはきちんと決められています。しかし、透明化圧力が増すことで、ネット世論がよりおかしな方向に進んでいくということが、今起こっているわけです。

–つまり、プロが意思決定する部分とネット上の世論が、バランスよく共存する必要があるということでしょうか?

川上 共存はしないと思います。専門家の間で透明性のある議論をすることは大事だと思います。でもそれはそういう組織、あるいは場をつくればいいのであって、社会全体に広げることにどれだけの意味があるでしょうか? 社会全体に広げるというのであれば、どの部分をチェックするのか、もう少し明確にしなければいけません。

 われわれ一人ひとりがあらゆることを学習し、日本の意思決定に全員が関わるというのはおかしいし、社会的な分業をしたほうがいい。実際みんな職業を持っているわけですよね。社会はもともと分業しているのに、一部で民主主義という名の下に、分業したものに対して全員が指図するという構造はおかしいですし、不幸なことです。

 最近、ニコニコ生放送でも将棋対局の生中継に力を入れていますが、例えば人間対コンピュータの対戦などで、人間側の次の一手を視聴者アンケートで決めるよりも、羽生善治さんにすべてを決めたもらったほうが絶対強いですよね。

–つまり、素人が何人集まってもプロには勝てないと。

川上 素人は、簡単な理屈、わかりやすい説明、それだけで判断してしまいます。まず「自分は判断できる」という誤解を解くべきです。繰り返しになりますが、「俺が監督をやったほうがうまくいく」というモードになることは、すごく危険であり、そのことにみなさんがもっと意識を向けるべきです。

「ネット上でみんなの意見を聞くことが正義だ」という勘違いは不幸なことです。プロ野球の試合で、ファン投票を経ないとスターティングメンバーを決められないという事態は、プロ野球にとって幸せなことでしょうか?

●ネット炎上の構造

BusinessJournal編集部

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