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過酷労働で年収399万円…バス運転手の不足が深刻、業界存続が困難、運賃値上げ必須

取材・文=文月/A4studio、協力=戸崎肇/桜美林大学航空・マネジメント学群教授
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「gettyimages」より

 バス業界の運転手不足と長時間労働が深刻化しているという。2021年10月、公共社団法人「日本バス協会」が会員を対象に実施した調査によると、回答した885社のうち56%もの会社が「運転手が不足している」と回答。人手不足が続けば、必然的に運転手一人ひとりへの負担は増し、長時間労働を誘発しかねない。さらに状況が悪化してしまえば、路線の縮小や廃線も視野に入れなければならないだろう。

 現に18年に国土交通省中部運輸局がバス事業者に行った「バス運転者の人材確保対策に関するアンケート調査」によると、「運転手不足の影響で発生している問題」として、「受注機会喪失や増便断念」が55%、「運転手の休日の減少」が18%、「時間外勤務の増加」が14%という事態に。21年に労働局、労働基準監督署が行った監督指導では、バス業界3770社の事業場の約8割で労働基準関係法令違反が認められており、業界の悲惨な現状を物語っていた。

 そしてバス事業者がじり貧になると、運転手の健康状態も危ぶまれる。厚生労働省が公表した「過労死等の労災補償状況」(2021年度)では、脳・心臓疾患に関する事案の労災補償の支給決定件数が公開されていたのだが、「運輸業,郵便業」の件数は最大の59件。このうちバス運転手の事案がどれくらいを占めるのかは不明だが、自動車運転従事者の過重労働の深刻ぶりがうかがえる。

 公共交通の中核をなすバス業界が破綻すれば、我々の生活も一変してしまうかもしれない。バス業界や運転手の雇用改善に向けて、解決策はあるのだろうか。今回は交通政策に詳しい桜美林大学航空・マネジメント学群教授の戸崎肇氏に、バス業界が抱える問題点について解説してもらった。

長時間拘束、休みがとれない激務すぎるバス運転手

 バスの運転手が不足している原因はなんなのか。

「バス運転手は以前から長時間拘束を強いられてきました。運転手は早朝便から夜間便まで長時間運転し続けなければいけないので、生活サイクルが崩れてしまうのです。そのうえ休日出勤もあるため不規則な出勤スケジュールとなったり、休日がなかなか取れず、福利厚生も十分ではなかったりとネガティブな面が目立つので、多くの人が敬遠して人手不足になるのでしょう。

 また賃金構造が全産業のなかで低い傾向にあることも大きな原因。バス業界は、重労働であるにもかかわらず賃金が安いため、若者や子どもを育てる壮年世代は入りづらい構造となっています。しかもアイドルタイムを休憩時間に設定して、その間の賃金を支払わないケースも少なくありません。実質的な拘束時間が長いわりに賃金が見合っていない職業といえるのです」(戸崎氏)

 2022年に厚生労働省が発表した「賃金構造基本統計調査」によれば、「バス運転者」の平均年齢は53.4歳で、平均勤続年数が13年と高齢の労働者が中心であることがわかる。また年収は約399万円と、日本人の平均年収443万円と比べると低い水準となっている。都市部など物価が高い地域においてバス運転者を生業にして家族を養っていこうとすると、この給料では厳しいと嘆く声が出てくるのは容易く想像できる。結果的に働き盛りの世代が入ってこず、高齢の運転手がバス業界を支えることになるという。

「高齢者となると運転手の重労働に耐えられるかどうかが問題になってきます。無理な労働を重ねることによって生活習慣病になったり、慢性的に疲労に陥ったりすることで事故発生のリスクが高まるので、このままずっと高齢者頼みで業界を回すわけにはいきません。

 また以前でしたらトラックの運転手がバス業界に流入することも珍しくなかったのですが、現在は体力さえあればトラックのほうが稼げるケースが多いため、バス運転手のひとつの供給源が絶たれてしまっています。車の扱いに手慣れた運転手がバス業界に来なくなってしまっているのも、高齢者が支えている現状の一因になっていると考えられますね」(同)

 さらに、都市部よりも地方のほうが事態は深刻なのだそうだ。

「都市部はバスの需要があるので業界は成り立っていますが、地方になるとバスよりもマイカー中心の社会となります。一部の高齢者などにバスの需要はあるため社会的に意義はあるものの、単純に一企業の経営として考えると利用者が少ない路線を運行するメリットは希薄です。結果、地方では運行数を減らしたり、路線を廃止したりしてバスの利便性がいっそう低くなり、余計にマイカーを持つ人が増え、バス利用者が減るという悪循環に陥ってしまっています。我々が思う以上に都市部と地方のバスに関する格差は大きいのです」(同)

業界の立て直しには若者、女性の確保がカギになる

 バス業界が機能不全に陥れば、利用者の多い路線でも便数を減らすことはあり得ると戸崎氏は指摘する。では運転手不足を解消するためには、どんなアプローチが必要になるのか。

「まず言えることは運転手の賃金を上げること。そのためには、適切な運賃はどうすべきか見直しが必要になってきます。運賃の見直しには、国の認可が必要になるので簡単には行えませんが、公共交通を担うバス会社の社会的役割の大きさを考慮すると、運賃の値上げを前提とした議論を進めていくべきでしょう。

 また長時間拘束を考慮したうえで対策するのであれば、セーフティ・サポートカーS(衝突被害軽減ブレーキ、ペダル踏み間違い急発進抑制装置等を搭載した車両)の導入を進めるのも有効な手段です。もちろん今のバス業界の経営状態では苦しいかと思いますので、国が補助や支援を行い、購入を促していく必要がありますね」(同)

 そして若者や女性をいかにしてバス運転手として呼び込めるかどうかが、運転手不足打破の鍵になるという。

「バス運転手の平均年齢は高いため、体力があって長く働ける若者を集めることが今後の課題になってきます。そのためには、路線バスを運転できる大型二種免許を取得しやすくしてみるとよいのではないでしょうか。現状、免許取得には数十万円もかかりますし、ハードルが高いので、緩和することで多くの若者が集まりやすくなります。また若者と同様に、従来数が少なかった女性獲得も運転手不足問題を突破する要素になります。コストはかかりますが、運転手獲得のためには女性用のトイレや休憩所の設置を行い、女性が参入したくなる、働きたくなる環境を提供しなければならないでしょう。

 そして当面の課題としては、バス運転手のイメージ向上を図ることが重要になってきます。やはりキツイというイメージが先行しすぎているせいか、バス運転手になろうとする人は少ないので、バス運転手の社会的評価を高くし、子どもが憧れる職業になるようアピールしていくことが肝になってきます」(同)

 バス運転手という職業の地位向上と待遇改善を行っていくことが、新規運転手の獲得のための目下の課題となるようだ。

戸崎肇/桜美林大学航空・マネジメント学群教授

戸崎肇/桜美林大学航空・マネジメント学群教授

航空業界で8年半実務を積む一方、大学院で学び、1995年京都大学経済学研究科現代経済学専攻で博士号(経済学)を取得。学業専念のため退職後は、帝京大学、明治大学、早稲田大学、東京都立大学などで教鞭をとり、現職。国の審議会などの委員を歴任するなど、広く公的・社会的活動も行っている。専門は交通政策・観光政策全般。
a href="https://www.obirin.ac.jp/academics/business_management/teacher/r11i8i0000081cy8.html">桜美林大学 教員紹介 戸崎 肇

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