少し前のことになるが、コンビニの前で時間を潰していたところ、1台のトラックがやってきた。店に商品を配送するトラックだったが、驚くべきはその納入量の少なさであった。運び込まれる、数少ない番重(搬入用の薄型コンテナ)のなかには食パン1袋だけというものもあった。これなら、コストコでまとめ買いする主婦の買い物のほうが荷量は多いのではないかと思うほどだった。
こうした光景が目に焼き付いていたこともあり、その後、「セブンイレブン、店舗への配送1日4回から3回に」「ヤマト、宅配便の翌日配送可能エリア縮小」といったニュースを見ても、なんら驚くことはなく、ドライバーの負担や環境への配慮を勘案し、好意的に捉えていた。トラックドライバーの時間外労働の上限が960時間に制限されるという、いわゆる「物流の2024年問題」も間近に迫っており、今のうちから準備を進めることも大切であろうと。
よって、「アマゾン、翌日配送エリア拡大」(7月7日付日本経済新聞)という、他社とは真逆のアマゾンの動きに大変驚いた。記事によると、「宅配の仕分けなどを担う拠点を2023年中に3割増の全国50カ所以上に拡大」「直接契約でトラック運転手を確保」などによって、注文の翌日に荷物が届くエリアを拡大していくとのこと。運転手に関しては、起業した事業者に一定の荷物量を保証し、20~40台の軽貨物輸送で運営した場合、約1200万~2500万円の利益が見込める起業支援プログラムなどにより確保していくとのことであった。
こうした逆境に真っ向から立ち向かうアマゾンの戦略を、みなさんはどのように思われるだろう。
日本でセブン-イレブンが開業したのは1974年、ヤマト運輸が宅急便のサービスを開始したのは1976年であり、ともに50年の歳月が過ぎようとしている。コンビニが狭い売り場かつバックヤードしかないにもかかわらず、これほどの数の商品を取りそろえられる要因は、鈴木敏文(セブン&アイ・ホールディングス元会長)氏をはじめ、セブンの創業メンバーがドミナント戦略(集中出店戦略)により、抵抗する問屋を説得し、店舗への多頻度小分け配送を実現させたことにある(1店舗への納入量は少なくても近隣に店舗が集中しているため、まとめて配送することが可能)。
こうした配送は単に在庫を抑えるだけでなく、鮮度の良い商品を消費者に届けることにも大きく貢献している。また、ヤマト運輸もコンペティタ、業界団体、運輸省(現国土交通省)といった強力な抵抗勢力を小倉昌男元会長自らが先頭に立ち、ねじ伏せ、全国規模の宅配を実現させている。
こうしたパイオニアたちはもはや一線にはいないが、もし彼らがいたなら、どのような意思決定を下すだろうか。確かに、一般にサービス低下と捉えられる今回の動向に対して、日々、2024問題をはじめ、人手不足がメディアで大きく取り上げられる昨今、消費者から大きな抵抗はなく、コストも削減されるだろう。よって、現経営陣の判断が間違いであるとはいえないが、それでもなおパイオニアたちなら、サービス低下には徹底的に抗い、何か別の手段を講じるのではないかと思えて仕方がない。
そうした手段が、今回のアマゾンのように逆境に対して真正面から挑むようなものであるかは定かではないものの、飛ぶ鳥を落とす勢いのGAFAをはじめとする米国企業と、利益こそ出ているものの成長の鈍化が目立つ日本の大手企業との差は、こうした点にあるのではないか。