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素泊まりで2万5千円、高すぎて「一線を超えている」の声…アパホテルの経営戦略

文=Business Journal編集部、協力=村田和子/トラベルナレッジ代表・旅行ジャーナリスト
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アパホテル・札幌大通駅前南(公式サイトより)

 夏の観光最盛期を迎えた北海道では、道内のホテルや旅館で宿泊予約が取りにくくなり、料金も急騰している。新型コロナが5類感染症に移行したことで観光客が戻り、外国人観光客も増えつつある状況に加え、7月下旬から道内各地で行われている全国高校総合体育大会(インターハイ)も、ホテル需要を逼迫させる要因となっている。

 なかでも、アパホテルの「札幌大通り南」の料金が高いとSNSを中心に話題になっている。一部では「ビジネスホテルなのに一線を超えている」といった表現で批判する声も出ているほどだ。

 需要が高まる時期に価格を高く設定するのは、経営的には当然とも思えるが、今回話題になっているアパホテル札幌大通り南では、8月11日・12日の宿泊料金がシングル・素泊まりで2万5000円(税込)などとなっており、ビジネスホテルとしては高く感じる。

 そこで、アパホテルの価格戦略について、トラベルナレッジ代表で旅行ジャーナリストの村田和子氏に話を聞いた。

――アパホテルは価格変動制ではありますが、今回の札幌大通り南のホテルの価格は適正だとお考えになりますか。

村田氏「現在、多くのホテルでは、需給バランスに応じて価格が変動する『ダイナミックプライシング』を導入しています。よって、価格変動すること自体は珍しくありません。宿泊は、翌日に持ち越して販売することはできませんから、ホテルサイドとしては常に稼働率100%を目指して価格を変動し、高く販売できるときには利益を確保することになります。

 アパホテルの戦略は、“売れるときにはしっかり儲ける”が徹底されており、企業経営としては優秀なのでしょう。ただ、同じ客室、同じサービスで提供価値が変わらないのに、価格の変動幅が大きいというのは、利用者から考えると納得感は得にくく、特にビジネスホテルで数万円となると『足元を見られている』と感じる方は多いでしょう。経営志向と顧客志向のバランスの問題で、アパホテルは、より経営志向が強いといえます。

 ただ、一度は必要に迫られて高い価格で宿泊しても、納得感、満足感が得られるかは疑問で、ファンやリピーターになりにくい一面はあります。特に企業スタンス(顧客志向、SDGsなど)を視野に入れて宿を選ぶ傾向も強まっていますから、企業理念や長期的な観点も踏まえて、企業ごとに戦略が分かれるところだと感じます。

 私見ですが、“日による価格の変動幅は小さく平日も比較的稼働が安定している宿”は、顧客志向の満足できる宿が多いと感じます。週末や繁忙期などを突出して高い料金で販売している宿は、たとえ平日の予約であっても、私は利用を避けることが多いですね。選択の余地があるなら、やはり顧客志向の宿に泊まりたいですから。

――今回は北海道の繁忙期とインターハイなどが重なったうえ、コロナ禍の反動という特殊需要もあったと考えられますが、今後の価格は落ち着くと考えられますか。もしくは、インバウンドの増加などにより、当面、高止まりするでしょうか。

村田氏「ホテルの開業も相次いでおり、状況によります。ただ、まだ中国からの旅行者が本格的に戻っていない現状を考えると、札幌を含めて都市部は、しばらく高止まり傾向が続くのではないでしょうか。

 国は3月に発表した新たな観光立国推進基本で、訪日外国人の目標数は据え置き、一人当たりの消費額を上げ、地方への誘客を進める旨を発表しています。これがうまくいけば、都市から地方への流れができ、都市部のホテル価格も少し落ち着くかもしれません。地方へもインバウンド効果が波及するので期待したいところです」

――今回の札幌のように、価格が高騰するタイミングでも、安く旅行をするコツや、宿の予約を取れる秘けつなどありましたら、ご教授ください。

村田氏「ダイナミックプライシングで、実は底値も非常にわかりにくくなっています。安く旅へといういう場合には、予約タイミングの工夫がポイントになります。ひとつは、やはり直前予約。空室のまま持ち越したら利益は0ですから、直前になると宿泊料金を下げるケースが多いので、そこを狙う。ただし、選り好みはできません。

 また、宿泊予約サイトなどでは、特定日や特定曜日に予約することで、ポイントが多く還元されることがあります。間接的ではありますが、予約するならうまく活用しましょう。

 ところで先日、テレビ番組に出演した際、札幌のビジネスホテルの価格高騰を受けて、『それならいっそ、札幌の奥座敷・定山渓温泉へ宿泊しては?』と提案しました。旅館が多く価格帯も様々ですが、食事や温泉を楽しめるという付加価値のあることが大きなポイントです。特に定山渓温泉は、温泉街へ宿泊した人のためだけに夜のイベント「定山渓ネイチャールミナリエ」(無料)も開催し、見ごたえ十分です。

 定山渓温泉は札幌では有名ですが、他の地域の在住者はなかなか視野に入れない場所です。同じように、各地に“地元では知られているけれど、全国的に知られていない穴場”があります。

 また、宿泊予約サイトはエリアで宿を絞り込むので、“実は電車でのアクセスは良いけれど、エリアの絞り込みで落ちてしまうホテル“は意外と多いんです。範囲を広げ、電車で少し離れた駅前なども探してみるといいのではないでしょうか」

 今回、アパホテル札幌大通り南の価格高騰がSNSをにぎわせているが、アパホテルでは無制限に価格を高騰させているわけではなく、“正規料金の1.8倍”を上限としている。村田氏が指摘するように、底値に制限がないことで「以前は4000円で泊まれたのに今は2万円を超えている」などの困惑を生んでいるといえる。

 また、ビジネスホテルとはいえ、そもそもアパホテルは「企業の管理職など上位5%のビジネスパーソンがターゲット」と公言している。つまり、“値段が高くても利便性の高いホテルに泊まりたい”と考えるお客を顧客としているわけで、需要が高い時期に数万円の価格になるのは、ある意味で当然なのかもしれない。

(文=Business Journal編集部、協力=村田和子/トラベルナレッジ代表・旅行ジャーナリスト)

村田和子/トラベルナレッジ代表・旅行ジャーナリスト

村田和子/トラベルナレッジ代表・旅行ジャーナリスト

1969年生まれ 1児の母。大阪市立大学生活科学部卒業。アパレル会社人事部を経て、人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)へ入社。マーケティング・販売促進・営業ナレッジ促進の仕事に従事する傍ら、2001年All Aboutスタート時より、「旅の便利・お得情報」のガイドとしてWEBにて執筆を開始。2005年にトラベルナレッジを設立。旅行ジャーナリストを専業とする。
WEB・新聞・雑誌・テレビ等の媒体で幅広く情報提供を行う(コロナ前実績年間100媒体超)。宿泊事業者向けのコンサルティングやアドバイザー、各種講演を行う。著書に「子どもの心と脳がぐんぐん育つ『旅育BOOK』」(日本実業出版社)。 

Twitter:@travel_k

Instagram:@murata_kazuko

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