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急成長したアイス「パルム」の差別化戦略…安納芋やモンブランが売り切れ続出

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
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パルム
小売店の店頭で存在感を高めた「パルム」

 通勤や出張など、人の流れが通常生活に戻った。各業界や事業活動の成果も「コロナ前2019年比で××%」といった数値が目につく。だが、なかにはコロナに関係なく伸び続けた業界もある。全国各地の小売店で購入できる「家庭用アイスクリーム」市場だ。

 業界団体の(一社)日本アイスクリーム協会が発表した「アイスクリーム類及び氷菓販売金額の推移」では、2022年度(2022年4月1日~2023年3月31日)は「5534億円」(前年比105.2%)と過去最高を記録。コロナ禍の2019年から21年までの同数字は順に「5151億円→5197億円→5258億円」で、最新の22年度数値が5534億円となった。

 また、売れ筋ブランド上位10(別統計のハーゲンダッツを除く)は、業界メディア「アイスクリームプレス」の統計では下記のとおりだ。例年、ロングセラーブランドが強い。

【2022年度の売れ筋アイスTOP10】
順位 売れ筋ブランド メーカー 金額(伸長率)
1 エッセルスーパーカップ 明治 275億円(100%)
2 ジャンボモナカ 森永製菓 211億円(102%)
3 パルム 森永乳業 182億円(111%)
4 パピコ 江崎グリコ 165億円(101%)
5 ピノ 森永乳業 159億円(99%)
6 ガリガリ君 赤城乳業 149億円(97%)
7 クーリッシュ ロッテ 135億円(111%)
8 あずきバー 井村屋 103億円(105%)
9 爽 ロッテ 102億円(119%)
10 ジャイアントコーン 江崎グリコ 100億円(92%)
(出所)売上金額・ランキングは「アイスクリームプレス」推計。2022年度=2022年4月~2023年3月

 そうした市場で注目されるのが、森永乳業の「パルム」(ブランド表記は「PARM」)だ。上位ブランドのなかでも伸びが著しく、首位の「エッセルスーパーカップ」が今年で発売29年、2位の「ジャンボモナカ」のチョコモナカジャンボが同51年なのに対して、パルムは2005年の誕生(発売18年)と比較的新しい。

 なぜ急成長したのか。ブランドの担当者に聞きながら消費者心理を考えた。

「エッセルスーパーカップ」と「チョコモナカジャンボ」
「エッセルスーパーカップ」(左下)と「チョコモナカジャンボ」(中央上)

発売時から「大人」に向けて訴求した

「最近のパルムはマルチパック(6本入り)よりもノベルティ(1本入り)が好調です。コロナ禍で在宅勤務が進んだ2021年度から、お店の手作りジェラートを意識した『パルムジェラート』を展開するなど、新たな訴求もお客さまにご支持いただいています」

 森永乳業・マーケティング統括部 冷菓事業マーケティング部の平安杏(ひらやす・あんず)さんは、こう話す。以前は一口アイスの「ピノ」(1976年発売)も担当した。

 ピノから30年近く後に生まれた「パルム」だが、その特徴は何か。

「一貫して『大人』をターゲットにしてきました。発売2年前の2003年から開発に着手しましたが、当時のアイス市場は子ども向けが主流だったことから、その差別化を図ったのです。“大人が満足できるシンプルでちょっと贅沢なチョコバーアイス”というコンセプトは発売時から変わりません。乳業メーカーとして質の高い乳原料にこだわり、口の中でチョコとアイスが同時に溶けるのも意識しています」(同)

 そうした上質感も消費者に受け入れられた。以前の取材では「日本人の舌は繊細なので、年々それをご評価いただいています」という話も聞いた。

平安杏さん
パルムブランドを担当する平安杏さん

「春夏」と「秋冬」で訴求するフレーバーの違い

 ところで、最近のアイスは期間限定品を頻繁に投入して消費者の購買意欲を促す。パルムも「赤パルム」と呼ばれる定番品(通年販売)以外に、さまざまな限定品を発売してきた。

「春夏秋冬の四季ではなく、大きなくくりでは春夏と秋冬に分けて期間限定品を発売します。パルムの特徴である食感、“なめらか”で“やわらか”を意識して濃厚だけど食べ飽きない味、素材とチョコとの一体感をどう感じていただくか、をめざしています」(同)

 今年発売された期間限定品は、下記のとおりとなっている。春夏向けにはショコラミントとジェラート。秋冬向けには安納芋、モンブラン、ピスタチオ&ラズベリーで訴求した。競合ブランドでも発売される夏のチョコミント(パルムではショコラミント)や秋の安納芋は人気味となっている。総じて夏はさっぱり系、冬は濃厚系が支持される。

【2023年に発売したパルムの期間限定品(発売日 商品名 特徴 種類)】

・4月3日 パルム・ショコラミント ミントアイスに生チョコソースをマーブル状に充てん、セミスイートチョコで包み込んだ 1本入り(ノベルティ)

・6月12日 パルム・ジェラート白桃 なめらかな白桃ジェラートと果汁コーティングを組み合わせた 1本入り(ノベルティ)

・8月21日 パルム・安納芋 なめらかな安納芋アイスをホワイトチョコでコーティングした 6本入り(マルチパック)

・9月4日 パルム・モンブラン なめらかなモンブランアイスにマロンソースを充てん、ホワイトチョコでコーティングした 1本入り(ノベルティ)

・10月9日 パルム・ダブルチョコ ピスタチオ&ラズベリーショコラ ピスタチオペーストを使用したアイスをラズベリーチョコ&ピスタチオ入りのセミスイートチョコでコーティングした 1本入り(ノベルティ)

 ところで、SNSでは「パルムの安納芋はあっという間に消えた」「いろんな店を見たけど買えなかった」という声もあった。メーカーとして、どんな販売施策を打ち出したのだろうか。

「ご購入いただけなかった方には申し訳なく思っています。昨年より多く数量を準備しておりましたが、需要が想定をはるかに上回る状況となり、なかなかご購入いただけないお客さまも多くいらしたものと思います」 (広報担当)

 安納芋は昨年も限定フレーバーで発売して人気を呼んだ。具体的な数量は非公表だが、前年よりもハイペースでの売れゆきだったという。

アイス市場では競合する森永乳業と森永製菓

「森永のアイス」といえば、森永乳業の「ピノ」「パルム」、森永製菓の「チョコモナカジャンボ」「バニラモナカジャンボ」が有名だ。兄弟会社だが、アイスクリームでは競合する。

 一般消費者にはわかりにくい、両社の成り立ちを簡単に紹介しよう。事業としては森永製菓が先で、創業者・森永太一郎氏が1899年に「森永西洋菓子製造所」を設立。森永乳業の前身は乳製品の製造を主な事業目的とする「日本煉乳株式会社」で1917年創業。その後、森永製菓との合併分離を経過して、1949年に森永乳業として設立された。

 実は、売上高では乳業が製菓の約3倍ある。商品開発の特徴はどうか。

「社名が象徴していますが、森永製菓はお菓子を祖業とするメーカーなので、消費者の方を楽しませるような仕掛けが得意です。一方の森永乳業は酪農家との付き合いが深く、乳(にゅう)へのこだわり、ぬくもりといった視点を持っています」(関係者)

 森永乳業のアイスには前述の2ブランド以外にも「モウ(MOW)」や「森永れん乳シリーズ」など、乳へのこだわりを感じさせる商品がある。

森永乳業の本社が入るビル
森永乳業の本社が入るビル

パルムが数字を伸ばした3つの要因

 さて、歴史の長いロングセラーブランドが多いアイス業界で、パルムが成長した理由を3つの視点で考えてみたい。

(1)「子どものおやつ→大人のスイーツ」の波に乗った
(2)「ピノ」とのすみわけ
(3)ハーゲンダッツ未満のごほうび需要

(1)では、パルムの開発時に少し紹介したように、かつてアイスクリームは「子どものおやつ」の需要が中心だった。一定以上の年齢なら、小学校の近くにあった駄菓子屋さんで買った思い出もお持ちだろう。それがメーカーのマーケティングと商品開発、流通の変化と販売戦略、生産者のこだわりなどの複合要因で「大人のスイーツ」に変わっていった。

(2)は、同社の先輩ブランド「ピノ」とのすみわけだ。カップアイスが主流の時代に誕生した一口アイスのピノは、現在も人気。近年はマルチパックのパッケージを2つ使用した「ピノガチャ」など、消費者を楽しませる仕掛けも行う。パルムは味の深め方などで勝負する。

(3)は、パルムの持つ立ち位置だ。ブランドとして「デイリープレミアム」を掲げる。筆者はパルムを“ハーゲンダッツ未満のごほうび”と位置づけてきた。通常のアイスよりは高いがハーゲンダッツに比べれば安い。以前の消費者取材では、「明日は休日という夜にパルムを食べるのが、1週間働いた自分へのごほうびです」(40代女性)という声も聞いた。

アイス業界、気温と売れ筋の関係は?

 今年の夏は一段と暑かった。7月、8月の盛夏におけるアイスの調査数字は出揃っていないが、長年にわたり業界では「最高気温が25度を超えるとアイスの売れゆきが加速する」「28度ではクリーム系がよく売れる」「30度を超えると氷菓系にシフトする」といわれてきた。

 この傾向は現在もそうなのか。本稿の最後に「気温と売れ筋の関係」を考えたい。

「厳密な統計結果はなく、傾向の話になりますが、まずアイス市場はクリーム系のボリュームが氷菓よりも圧倒的に多い市場です。その上で、最高気温が25度を超えるとクリーム系のなかでも口溶けの軽い商品や、氷菓系商品の伸びが見え始めます。また、30度を超えると氷菓系の伸長が加速する傾向にあります」(平安さん)

“昨日は曇りで肌寒かったが、今日は日が差して気温が上がった”など、数字だけでない体感や気分もあるだろう。業界では「冬アイス」と呼ばれる暖房の効いた室内で食べるアイスも浸透した。最盛期=盛夏は言うまでもないが、書き入れ時のお盆時期に台風の直撃などで数字が落ち込んでも、冬に数字を伸ばして盛り返した年もあった。

 国内アイス市場の今後は「金額ベースでは成長したが、数量ベースではそう大きく伸びない」といわれる。とはいえ、生ケーキに比べると手軽に買える価格の優位性もある。今後値上げしても、どんな付加価値で消費者に支持されるかが、各ブランドの課題だろう。

(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

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晴天で気温が高くなるとアイスの売れゆきは伸びるという(写真はイメージ)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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