百貨店大手の高島屋が、オンライン販売したクリスマスケーキが一部の顧客に崩れた状態で届いた問題で、高島屋は原因の特定は困難として今後の調査を行わない方針を発表したことが物議を醸している。
問題のケーキは、横浜のフランス料理店「レ・サンス」のシェフが監修し、埼玉県の菓子メーカー「ウィンズ・アーク」が製造、ヤマト運輸が配送を行っている。
菓子メーカーの製造工程、もしくは配送時の過程など、どこの段階でケーキが破損したかは定かになっていないが、約2900個を販売し、800個以上が破損したと発表。監修したシェフによると、5年前から同メーカーにケーキの製造を委託しているものの、過去に崩れるといった事故はないという。
ところが、高島屋は27日に会見を開き、原因の特定は困難であるとして、今後の調査は行わないと発表。消費者の期待を裏切ったことに対して謝罪しつつ、「生産から流通を含めまして、商品をお客様のお手元にお届けするまでが販売者。本件の原因を特定できるような管理体制を構築できなかったことも、弊社の問題であった」として、責任は高島屋にあると強調。
ところが、高島屋が再発防止策を講じると言いながらも、原因の究明を放棄したかのように見えることから、批判の声が多くあがっている。ケーキを監修したシェフも、お客に対して謝罪の意を表すとともに、高島屋に対して「幕引きせずに原因を特定してほしい」と訴えている。
企業の危機管理コミュニケーションの専門家で東北大学特任教授の増沢隆太氏は、早々に原因究明を放棄した高島屋の姿勢に疑問を投げかける。
増沢氏はかつて流通業界で、販売現場やロジスティクスの問題なども見てきた。またマーケティング担当時代はブランドマネージャーとして、製品やサービスのブランド価値維持向上を図っていたことから、今回の問題には特に注意を傾けているという。
――原因究明が困難だとしても、調査中止は早すぎるように思えますが、いかがでしょうか。
増沢氏「早すぎます。特に代表取締役という企業のトップがそれを宣言したという重さは重大で、通販トラブルが高島屋全体に批判が行く可能性が高いでしょう。結果としてトップの責任も問われることになると予想します」
――穿った見方をすれば、原因に思い当たる節があったとしても、注目が高まりすぎているため、消費者からの攻撃を懸念して、原因の特定を避けているようにも思えます。
増沢氏「消費者の批判や攻撃を避けたい気持ちはわかりますが、調査中止は避けるどころか批判を燃え上がらせるでしょう。『調査は継続するが、現時点ではまだ不明。さらに2週間後に再度経過報告をする』などと宣言すべきだったと思います。
――また、原因不明とすることで、うやむやな結末で早期の幕引きを図ろうとしているようにも思えます。
増沢氏「うやむや幕引きは無理です。2013年の食品偽装事件で阪急阪神ホールディングスが矢面に立たされた一方、その後あらゆる大手百貨店ホテルレストランで似たような行為があったことが発表されましたが、もはや誰も覚えていません。そこまで他社でも同事例が続発すれば、うやむやにすることは可能かもしれませんが、その場合も高島屋を上回る知名度、ブランド力のあるスキャンダルでないと無理です。
また2011年の“スカスカおせち”事件のように、間抜けなネーミングは記憶に残りやすいので、仮に今回の件が“ぐちゃぐちゃケーキ”などと名付けられたら、無名な店舗のおせちよりずっとインパクトが強く、長く記憶に残ると思います。
――本来、企業としてリスク管理の視点からして、きちんと原因究明して再発防止をすべきではないかと思いますが、今後の高島屋にとってマイナスに働く可能性はないでしょうか。
増沢氏「代表取締役専務は会社法上はトップなので、トップ自らが幕引き宣言とも取れる悪手を取った以上、経営責任は問われるでしょう。その前に『原因はいまだ不明。しかし鋭意調査を継続し、さらに2週間後に再度報告する』と発表し、補償をぐんぐん進めておけば、トップの人事にまで影響するかもしれない重大な事態は避けられた可能性はあると思います。
通販のため証拠確定がしやすいはずですから、今の内に対象者に無条件で補償をしてもたかがしれたコストではないでしょうか。トップの経営責任や今後の通販への影響も考えると、どこにリソース(お金)を使うべきかこそ、トップが戦略判断しなければならないことだと思います」
――原因を特定できないとすると、再発防止策も講じられないのではないかと感じますが、来年以降の売上に影響する恐れはないでしょうか。
増沢氏「今後、クリスマスケーキだけでなくケーキの通販はできないでしょう。売ればずっと長くネットニュースなどでいじられ、その記憶はさらに強固になります。その後の対応のまずさを含め、高島屋という日本有数のブランドを毀損することにもなりかねない今回の事件。いかに影響を少なくするか、経営陣の責任と舵取りはきわめて重いと思います。
スキャンダルを起こした側が一方的に終了宣言はできません。勝手に周囲は騒ぎ続け、批判は消えません。周囲があきらめる、飽きるくらいまで情報提供などしていくのが本当の企業危機対応ではないかと思います」
クリスマスという日本社会における一大イベントで、パーティーの主役となるケーキが台無しにされたお客にしてみれば、補償されればいいということにはならないだろう。高島屋は、きちんと原因を究明して、納得のいく説明をすべき責任があるのではないか。
(文=Business Journal編集部、協力=増沢隆太/東北大学特任教授)