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高島屋ケーキ破損の原因…輸送段階ではなく製造工場や冷蔵庫で問題の可能性

文=A4studio、協力=久保田精一/サプライチェーン・ロジスティクス研究所代表
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イメージ画像(「gettyimages」より)

 昨年12月のクリスマス、大手百貨店の高島屋がネット販売した冷凍クリスマスケーキが、大きく崩れた状態で配達された問題は記憶に新しい。SNS上ではぐちゃぐちゃに崩れた無残な姿のクリスマスケーキの写真とともに、「もう高島屋ではケーキ頼みません」といった声が続々とあがっていた。昨年12月27日に高島屋が開いた会見では、販売された2879個のうち807個で破損が確認されたと報告された。しかし、調査を行ったもののトラブルが起こった発生原因の特定は不可能だと説明。高島屋は謝罪していたが、解せない回答だと感じた人も多かったことだろう。

原因がうやむやのまま風化させてはいけない

 この件について、発生原因について考察・解説したX(旧Twitter)上のあるポストが注目を集めた。ポスト主はケーキなどの食品の製造工場で働いていたとみられる工場勤務経験者で、主に配送中のトラブルが原因ではないかと指摘。クリスマスケーキの入った箱をタワー状に積み上げていき、きっちり決められた個数をトラックに積み込まなくてはならず、配達員たちの立場からすると失敗が許されない余裕のない状況になるとのこと。ポスト主によれば、こうしたプレッシャーのある状況から、アルバイトの配達員などであれば、ミスをしてしまったとしても責任を負いたくないがために報告せず、そのまま配送を続行してしまうケースが少なくないというのだ。

 このポストに対して他ユーザーからは、バイトの配達員に責任を負わせることは難しいのではないかという声が多く、「短期バイトだったら、絶対に報告しないで逃げ切りを図るのが見え見えなのだが」「特にこの時期は短期バイト、学生バイトが多く採用されるからあるあるですね。もう、ケーキを通販する事自体が無理なんよこの時期に」という意見も。また、「『悪い話を報告できる雰囲気を作る』ことが大事。悪い話を報告して怒鳴られたり給料下げられたりしたら、悪い話は上がって来なくなります。 こういう話って、その組織の本質が出るのよね」というような、ミスを報告できない職場環境を改善すべきという声もあった。

 昨年の話とはいえ、クリスマスは毎年訪れるわけで、真相は藪の中というモヤモヤしたままでは、冷凍ケーキを注文することを躊躇してしまう人は多いだろう。そこで、サプライチェーン・ロジスティクス研究所代表で物流コンサルタントの久保田精一氏に、今回のトラブルの発生原因や、食品の製造・配送における問題点について聞いた。

ケーキ破損は輸送段階ではなく倉庫内作業時に起きた可能性

 まず今回の冷凍クリスマスケーキの破損原因について久保田氏はいう。

「まず、Xで指摘されているような、輸送途上での事故である可能性は低いと考えています。というのも通常、破損した荷物であれば外側の梱包にも傷が付いていることがほとんどで、中身だけが破損しているケースというのはほぼないからです。そのため梱包が破損していれば、ドライバーが気付いてきちんと報告するはず。また配送されている荷物は、消費者に届くまでの輸送の履歴を追跡するトレーサビリティシステムがあり、車両単位で特定することが可能です。今回の件で高島屋が原因を特定することができなかったということは、輸送の段階では問題なかったという可能性が高いでしょう。

 ドライバーが荷物の破損に気付いたもののミスを隠していたという可能性は、あまり考えられません。貨物自動車運送事業輸送安全規則という法律では、トラックドライバーの事故歴や健康状態など、ドライバーの情報をまとめた名簿である運転者台帳を作成することが義務付けられています。ですから一般的には、まったくの未経験や日雇いのドライバーはほとんどいません。特に冷凍冷蔵車のドライバーの場合、アルバイトであるケースはあまり考えられませんので、一時の責任逃れでミスを隠すようなケースはほとんどないはずです。

 また仮に、ドライバーの責任で荷物を破損してしまったとしても、運送業ではそういった破損事故は常に起こり得ることですので、事故処理の対応にも慣れている場合が大半です。特に今回の高島屋のクリスマスケーキを運送していたヤマト運輸など大手運送会社では、そういった破損事故の際の対応方法や保険補償制度などについてきっちり取り決められているはずですので、ヤマト運輸側のミスや落ち度で破損した荷物を、そのまま配達したというのは考えにくいのです」(久保田氏)

 では、原因として考えられることは何か。

「製造工場やケーキを保存する冷蔵庫内で、何かしらの事故や管理ミスが起こったという可能性が考えられます。クリスマスケーキのように数が限られていて、物量がそこまで多くない物の場合、庫内で運ぶ際は手作業で積んだり、フォークリフトを使ったりして運ぶことが多いです。まだ冷凍されていない不安定な生もののケーキを、積み込み作業する段階でのミスの可能性はあるのではないでしょうか」(同)

 ちなみに高島屋の会見では、ケーキ製造後の冷凍期間を前年は2週間かけていたところ、今回は約1日に大幅短縮したことも発表していたが、その冷凍期間短縮とケーキ破損の因果関係までは明らかにされていない。

食品輸送はもう限界? 消費者側もリスクを理解して注文を

 物流業界では「2024年問題」という課題がある。これは働き方改革関連法によって、今年4月からトラックドライバーの時間外労働の規制が厳しくなり、労働時間が短縮されることが原因で輸送能力の不足が起こるとされている問題だ。ドライバーの人手不足が以前から叫ばれている物流業界だが、食品輸送の状況はどう変化していくのだろうか。

「2024年問題によって、クリスマスケーキやおせちなどシーズンものの商品が配送される繁忙期には、現在の人手不足の状況にさらに拍車がかかる懸念があります。それ以外にも、日本全国の冷凍冷蔵倉庫のキャパシティが少なくなってきているというのも、食品輸送が厳しくなると予想される原因の一つです。日本各地にある冷凍冷蔵倉庫は概ね1970年代から80年代に建てられた古いものが多く、老朽化が進んでいます。建て替えが進んでおらず、冷凍冷蔵倉庫のような寒さの厳しい場所での勤務は体力が必要なため、倉庫内で働く人材も不足している状況なのです」(同)

 また、今回の事件が大きく報道されたことについて久保田氏は、SNS特有の性質も絡んでいるのではないかと推察する。

「通常の運送事故であれば、補償契約に基づいて消費者に返金対応することで損害賠償を行い解決することが多いのですが、今回は破損の起こった件数が多く、破損したケーキを受け取った方々がSNS上にどんどんアップしたことで、大きく報道されてしまったのだと思います。SNSの性質上、こうした被害が拡散されることはやむを得ないことでしょう。

 しかし商品が届いたら破損していたという事例は、日々数え切れないほど起きています。特にクリスマスケーキやおせち、寿司など見た目や盛り付けにこだわった食品は、もともと配送すること自体が難しい商品です。そうした商品を購入する消費者側も、ある程度は崩れて届くかもしれないというリスクを理解したうえで、購入するということを念頭に置いておくべきかもしれません」(同)

 近い将来、ますますの輸送能力不足が懸念される状況において、「きれいな状態で届いて当たり前」という認識でいると、いざトラブルが起こった際に過剰に失望してしまうことになりそうだ。

(文=A4studio、協力=久保田精一/サプライチェーン・ロジスティクス研究所代表)

久保田精一/サプライチェーン・ロジスティクス研究所代表

熊本県生まれ。物流分野を中心にコンサルティング活動に従事。著書に、『「物流コストの算定・管理」のすべて』(創成社刊、共著)ほか。城西大学非常勤講師、流通経済大学客員講師。中小企業大学校でトラック運送業向けの指導にも当たる。日本物流学会正会員。
サプライチェーン・ロジスティクス研究所の公式サイト

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