ある女性インフルエンサーがTikTok上で、ホテルや旅館のキャンセル料支払いを回避する方法として、いったん予約日を後ろ倒しするかたちで変更した後に、キャンセル料の発生日前にキャンセルするという手口を紹介。これに対しある民宿施設がX(旧Twitter)上に「ガチギレ」の投稿をして話題を呼んでいる。客によるキャンセル料逃れなどモラルを欠く行為によって宿泊施設側が損失を被る実態を追った。
問題となっている女性インフルエンサーによるTikTokへの投稿内容はこうだ。女性は一人二役で客と宿泊施設の従業員を演じ、以下の寸劇を展開。
客「すみません。明日の宿泊、キャンセルしたいんですけど」
従業員「かしこまりました。前日のキャンセルになるので、キャンセル料3万円かかります」
客「3万円もかかるんですか? どうにかなりませんかね?」
従業員「決まっていることですので」
客「予約を来週に変更するだけであれば問題ないですか?」
従業員「はい。それであれば問題ございません」
客「ありがとうございます。では来週お願いいたします」
(インフルエンサーが「次の日、もう1回電話をかけて」と説明)
客「すみません、来週の予約をキャンセルしたいんですけど」
従業員「あれ? もしかして昨日の方ですか?」
客「はい、キャンセルお願いします。まだ予約の1週間前なので、キャンセル料払わなくていいですよね?」
そしてインフルエンサーは自身のアカウントへのフォローを視聴者に呼びかけるという流れだが、これを看過できなかったのが、ある民宿施設だ。青森県の十和田・奥入瀬にある「温泉民宿 南部屋」は公式Xアカウント上に以下の投稿をポストしたのだ。
<これまでは全てお見通しで大目に見てきましたが、当館では本日より「日程変更」は「キャンセル→新規予約し直し」と扱いを厳格化します。規定通りキャンセル料を請求します。ふざけんな>
<コレにしろイオンにしろ上タンにしろ…相手への最低限の気遣いをせずに自分の欲求だけを押し通すと、周りが迷惑するし、その時は良くても結局は自分の首を自分で締める事になるんだからな!!良く考えろ>
<キャンセル料は準備食材や労働への対価と捉えがちですが、ウチの様な受入人数が少ない宿には、その為に断った他の予約の「機会損失」補填の意味が強いです。その一組だけで「満室」の日だってあります。だから繁忙期等に「とりあえず予約」と言われると凄くモヤモヤします…>
キャンセル料の実態
宿泊施設のキャンセル料に関する取り決めはまちまちだ。たとえば国内老舗ホテルの「ホテルニューオータニ東京」は3日前までは無料で、2日前は宿泊料の10%、前日は20%、当日は80%のキャンセル料が発生する。外資系ホテルをみてみると「マンダリンオリエンタル東京」は3日前から前日までが20%、当日が50%、無連絡での不泊は100%。石川県の有名旅館 「和倉温泉 加賀屋」は3日前~2日前が30%、前日が50%、当日は100%。チェーン系のビジネスホテルは前日までは無料で当日は100%というケースが多い(以上、宿泊プランや時期、予約方法、支払い方法などによって異なる)。
利用者と宿泊施設事業者間の契約上、宿泊予約をした場合は宿泊約款に同意したとみなされ、約款に定められたキャンセルポリシーにも同意したとみなされるため、もしキャンセル料を支払わなかった場合は契約違反となるため、宿泊施設側から損害賠償を求めて民事訴訟を起こされる可能性がある。
泣き寝入りが常態化
宿泊予約の変更というのは可能なものなのか。東京の老舗ホテル従業員はいう。
「ホテルや旅館によって違う。たとえば国内系の老舗ホテルであれば、そのホテルの公式サイトや電話などで直接予約したものに関しては予約変更が可能なケースが多い。ただホテル予約専用サイト経由の予約だと変更不可なこともあり、いったんキャンセルして再度予約するというかたちになるだろう。地方のチェーン系ではない小規模な旅館などは、その時期の客室の空き状況などに応じて柔軟に対応しているケースが多い」
では今回問題となっているTikTokに投稿された手口によるキャンセル料回避というのは可能なものなのか。
「可能なところもあるし、無理なところもあるが、さすがに前日の予約変更となればキャンセル料を求める施設が多いので揉めるだろう、という言い方が正しいのでは。そもそも変更を受け付けていないところや、直前の変更だとキャンセル扱いとなってキャンセル料を請求するところもある。小さな旅館だと、やはり客商売なので『子供が急に熱を出した』などもっともらしい理由を言われれば、前日でも変更を受け入れざるを得ないということも出てくる。
どこの旅館やホテルもキャンセル料を設定してはいるものの、特に小さな施設になればなるほど、予約者からキャンセル料を必ず取れるのかといわれれば難しいのが実情。もちろんきちんと払う客もいるが、いくら催促しても無視される場合もあり、そのたびにいちいちコストと労力をかけて法的手段を取ってもいられない。結局は泣き寝入りになってしまい、NG客リストに載せて次回以降の予約を断るというくらいの方法しか取れないケースも少なくない。
キャパが小さい旅館では、前日や当日にキャンセルが入ると空いた客室を埋めることもできないので、その客室分の売上がゼロになるばかりか人件費やエネルギー費、食材費などが丸々損失となるので大きな痛手を被ることになる」(同)
こうした泣き寝入りは大手ホテルでも起こるという。
「まだ電話で予約するお客さんも一定数おり、当日にキャンセルしたり姿を現さない場合、数万円のキャンセル料のために、いちいち法的手段を取ったり家にまで押しかけたりするのは割に合わないので、そこまではしないケースが多い。大きなホテルだと全体からみれば小さな損失なので吸収できるという面もある。
結構あるのが、外国人客が客室のモノを持って帰ってしまうというケース。さすがにテレビなどの大型家電が盗まれることはめったにないが、高価なバスローブやペン立て、ティッシュのケース、小さな調度品などが持っていかれることは珍しくない。海外の住所まで取りに行くわけにはいかないし、日本の警察に通報しても埒が明かないので、結局は泣き寝入りになる」(同)
(文=Business Journal編集部)