JR駅の「みどりの窓口」が削減されていることが今、改めてクローズアップされている。地方紙も「公共交通機関として終わってる」といった厳しい声がSNS上であがっている現状を取り上げ、一部の「みどりの窓口」では混雑が発生して「60人待ち」「1時間待ち」なども発生していることが、大きな議論を呼んでいる。JRの決断の背景などについて、専門家の見解を交え追ってみたい。
JR東日本は2021年に「みどりの窓口」を25年までに約7割削減する方針を発表。21年時点で440駅にあったが、約140駅まで減る見通し。20年度時点で新幹線など近距離以外の乗車券も、「みどりの窓口」での購入は2割程度にとどまっていることもあり、JR東日本は固定費削減のため「みどりの窓口」の削減を進めている。JR東日本によれば、21年度から今年4月1日までの閉鎖数は231駅に上る。
鉄道ジャーナリストの梅原淳氏はいう。
「みどりの窓口が削減されているのは事実です。たとえば、首都圏のJR東日本の駅でも荻窪駅では2月29日限りでみどりの窓口が営業を終了し、3月1日からはオペレーターと話せる指定席券売機に切り換えられました。山手線内の駅でもかつては高輪ゲートウェイ駅を除く29駅すべて駅にみどりの窓口は設置されていましたが、現在大崎、五反田、恵比寿、原宿、代々木、新大久保、目白、大塚、駒込、田端、西日暮里、鶯谷、御徒町、神田、有楽町、浜松町、高輪ゲートウェイ(開設時から)の17駅では営業を行わず、特急券などは指定席券売機で購入することになっています。
本来でしたら指定席券売機に置き換えた駅でもオペレーターと話せるようにすべきです。しかし、実際に導入したJR西日本の話では、相当な数のオペレーターが待機しなくてはならないので、オペレーター対応の指定席券売機は利用者の多い駅に限定されると思われます。
みどりの窓口を削減している理由は駅の営業に要するコストの削減が理由となっています。JR東日本は2019(令和元)年度に1兆6954億7980万円の営業費用があったうち、駅員の人件費は金額は846億2488万円でした。鉄道は営業費全体に占める固定費の割合が高く、JR東日本も90パーセント前後あります。コロナ禍で収益性が悪化したためコストを削減しなければならないところ、流動費はほとんど削れないので固定費に手を付けざるを得ず、人件費のうち、指定席券売機に置き換えられるみどりの窓口の削減は以前から行われてきました」
削減の影響で一部の「みどりの窓口」では混雑が発生しているというのは事実なのか、JR東日本に聞いた。
「みどりの窓口の配置についてプレスリリースでお知らせをする2021年以前から、同様に繁忙期等において、特に首都圏の駅を中心に混雑が発生しているのは事実でございます。混雑している駅や時期等には、状況に応じて、案内社員の応援体制を構築することにより、お客さまのご用件を予めお伺いし、自動券売機のご案内及び操作をサポートするなどの対応をするとともに、引き続きインターネットやスマートフォンによるきっぷ購入の利便性をさらに向上していくこと等により、駅の窓口や券売機に立ち寄ることなく列車をご利用いただけるよう取り組んでまいります。
<参考>
チケットレス化・モバイル化を推進し、『シームレスでストレスフリーな移動』の実現に向けた乗車スタイルの変革を加速します」
予約システムが乱立
JR東日本はチケットレス化を進めており、ネット購入への移行が順調に進めば、一部の「みどりの窓口」で混雑が起きるといったことは起きなさそうだ。だが、SNS上では
<60、70こえてる老人にスマホ使いこなせって酷>
<スマートexとエクスプレス予約が乱立 こんなん わかる訳無い>
<UIが最悪の「駅ねっと」>
<えきねっとで新幹線のチケット取るのすんごく苦痛>
<えきねっと、とにかく使いづらいし難解>
など、予約システムの乱立や使いにくさを指摘する声も多数みられる。
現在、新幹線などの予約システムは主に以下の5つが存在する。
・えきねっと(JR東日本)
全国の新幹線・JRの特急列車、レンタカーなどがインターネットで予約できる。東北・北海道、上越、北陸、山形、秋田の各新幹線は、きっぷを発券せずに「新幹線eチケット」に紐づけた交通系ICカード、モバイルSuicaなどを自動改札機にタッチして乗車可能。一方、上記以外の東海道新幹線、山陽新幹線、九州新幹線、西九州新幹線はチケットレス対象外のため、紙のきっぷを発券する必要があるが、たとえば東海道新幹線の場合、予約に一部でも「JR東日本株主優待割引」「大人の休日倶楽部割引」「えきねっとトクだ値」「新幹線eチケットサービス」「えきねっとチケットレスサービス」などが含まれると、JR東海の駅では発券はできないため、JR東日本の駅で発券する必要がある。そして、JR西日本(北陸エリア以外の駅)、JR東海の駅の窓口、JR四国、JR九州の列車を予約しても、これらのJR会社のエリアの駅では発券できない。
また、「新幹線eチケット」のほかに、紙のきっぷの受取りが不要な在来線特急列車専用の「えきねっとチケットレスサービス」がある。乗車前のICカード紐づけはできず、また特急券であるため、乗車券は交通系ICカードやモバイルSuicaを利用する必要がある。
・エクスプレス予約(JR東海、JR西日本、JR九州)
年会費1100円(税込)が必要で、365日会員価格で乗れる。東海道・山陽・九州新幹線(東京~鹿児島中央間)専用のサービスのため、これ以外の新幹線では利用できない。チケットレスだが、エクスプレス予約専用ICカードが必要。
・スマートEX(JR東海、JR西日本、JR九州)
東海道・山陽・九州新幹線(東京~鹿児島中央間)専用のサービスのため、これ以外の新幹線では利用できない。チケットレスで、交通系ICカード(モバイルSuica、モバイルPASMO、モバイルICOCAなども含む)で乗車できる。
・e5489(いいごよやく)(JR西日本)
山陽・九州新幹線(新大阪~鹿児島中央)、西九州新幹線(長崎~武雄温泉)、北陸新幹線(敦賀~東京)をはじめ、JR西日本、JR四国、JR九州エリアの特急・急行列車(一部の快速列車含む)のほか、JR東日本・JR東海の対象エリア内の新幹線・特急・急行列車などが予約できる。主にJR西日本、JR四国エリア内の在来線の特急券はチケットレスが可能だが、別途乗車券が必要になる。また、北陸新幹線以外の新幹線は発券が必要であり、JR東海の駅ではJR東海エリアを含む予約のみ発券が可能。
・JR九州インターネット予約(JR九州)
九州・山陽新幹線を中心にJR九州・JR西日本の特急列車のきっぷをインターネットで予約できる。2024年度よりQRコードを使用したチケットレスサービスを導入予定。
以上、各予約システムにはチケットレス対応が可能かどうかや発券できるエリア・駅などに関してさまざまな制約があり、一般ユーザにしてみれば「わかりづらい」と感じるのは無理もない。
前出・梅原氏はいう。
「JR各社のインターネット指定席予約サービスは会社ごとに分かれていて各社の会員にならなければならない点を除くと、みどりの窓口に行ってきっぷを買う手間が省けるサービスです。しかし、独自のICカードでのタッチ利用時を除くと、一度発券した際には変更や払い戻しはみどりの窓口でなくては行えないのでやや不便です」
また、「えきねっと」をめぐっては以前から「使いにくさ」を指摘する声も多い。EC関連企業に勤務するSEはいう。
「トップページの『新幹線・JR特急列車を探す』で乗車駅と降車駅、日時などを入力して検索をかけると、経路や便名が表示されて『自由席』『指定席』『グリーン席』を選択するが、下に『乗車券の申込』『別途、乗車券が必要です』『新幹線をご利用になる場合(交通系ICカードではご乗車できません)』と表示され、さらに『乗車券を申込む割引なし 紙のきっぷのお受取りが必要です』『乗車券を申込まない』と表示される。普段から新幹線を利用している人であれば、『上のほうで選んだのはあくまで特急券の部分のみであり、それとは別に乗車券が必要。その乗車券もチケットレスはできないので紙のチケットを発券しなければならない路線なんだな』と分かるかもしれないが、新幹線に慣れていない人は、どうすればよいのか分からなくなる恐れがあるだろう。
また、購入手続きを進めていくと『このお申込みは、QRコードと受取コードが発行されません』『きっぷのお受取りには決済に使用するクレジットカードが必要です』と表示されるが、購入路線によってはネットで購入したのに、乗る際に改めて駅できっぷを発券しなければならず、しかもその際にクレジットカードが必要になるというのは、そもそもの仕組みとして煩雑。このほか、支払い方法の選択画面でカード払いのボタンの部分に大きく『ビューカードで決済するとviewプラスでJRE POINTがさらに貯まります!』と表示されるが、ユーザを『購入にはビューカードに加入する必要があるのか?』と戸惑わせてしまう要因になるので、UI的にはなぜここに大きくこのような表示をしているのか疑問」
「みどりの窓口」ではできない手続き
「みどりの窓口」削減をめぐって利用者の不満に拍車をかけているのが、いまだに「みどりの窓口」ではないと手続きできないものがあるという点だ。前出・梅原氏はいう。
「多数あります。その代表的な例は証明書がなくては利用できないきっぷで、ジパング倶楽部、学割、通学定期などです。ただし、この3月からJR東日本では『ネットde定期』のサービスに通学定期が組み込まれ、窓口での購入は入学時のみで学年が変わっても卒業まではインターネットで購入できるようになりました。
それから多種多様な割引きっぷも窓口でないと購入できないきっぷとなります。今後はこうしたきっぷはインターネット上で購入でき、利用する際はスマートフォン上に表示されるQRコードを駅の自動改札機にかざせば利用できるように改められる仕組みが必要です。JR各社ではまだ導入されていませんが、大手私鉄では小田急電鉄や南海電気鉄道で導入され、今後さらに広めなくてはなりません」
また、JR東日本はいう。
「みどりの窓口の配置を見直すとともに、一部の駅には『話せる指定席券売機』を設置し、オペレーターによる対応で割引乗車券の発売や、払戻し等の業務も行っております。また、4月1日よりお客さまご自身で指定席券売機にてご利用前の乗車券類の大半を払戻しいただけるようになるなど、みどりの窓口でしかできない手続きを削減しております。現在、『レール&レンタカー』の発売など一部みどりの窓口でしか取り扱えない業務もございますが、今後にかけてこれら業務のさらなる削減・解消を検討してまいります」