たび重なる値上げで現在は310円(税込み/以下同)となっているケンタッキーフライドチキン(KFC)の「オリジナルチキン」。フライドチキン1個で300円超えという価格をめぐって「もう庶民は手が届かない」「皇族の食べ物」といった声が上がるなか、スーパーのオーケーでは「ロースカツ重」や「肉旨!メンチカツ明太弁当」が322円で販売されており、ボリューミーな弁当類を格安な価格で買えるとして、両者を比較するとKFCの価格の高さが際立つといった声もあがっているようだ。何が価格の差を生んでいるのか。また、KFCの「オリジナルチキン」の価格をどう評価すべきか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。
全国に1197店舗(2023年3月31日現在)を展開し、フライドチキン専門店チェーンとしては圧倒的な強さを誇るKFC。多くの固定客を惹きつける要因となっているのが、秘伝のレシピだ。創業者カーネル・サンダースが1940年につくり上げたというレシピは、11種類のハーブとスパイスを配合したもので、一般的な製法であるフライヤー調理とは異なり、圧力釜で最高温度185℃で約15分かけて揚げるというもの。店舗内で1本1本、手づくりでつくられ、HP上では品質へのこだわりの強さについて次のように説明されている。
「ハーブとスパイスの配合を知っているのは、世界でたったの3人。スパイスは複数の工場で数種類ずつ配合され、店舗に向けて出荷されます。各店舗でそれらをブレンドして初めて、11種類のハーブ&スパイスが完成」
メニューとしては定番の「オリジナルチキン」1ピースが310円、「チキンフィレバーガー」が440円、「ポテトS」が290円、「ビスケット」が290円、「ナゲット5ピース」が480円、「コールスローS」が290円、「チョコパイ」が290円、「挽きたてリッチコーヒー」が270円、「チキンフィレバーガー」に「ポテト S」とドリンク類(M)が付いた「チキンフィレバーガーセット」が850円。「オリジナルチキン」や「ポテト」、バーガー類やドリンク類、「ビスケット」などを組み合わせた各種ボックス類のほか、期間限定で「ごま油香るパリパリ旨塩チキン」(330円)なども販売されている。
現在は今月16日までの期間限定でキャンペーン「2種選べる1100円パック」を展開中。「オリジナルチキン」「骨なしケンタッキー」「ビスケット+ポテトL」「クリスピー」から異なる2種を選べるというもので、単品積み上げ価格と比較して最大で840円オトクとなっている。
原材料価格やエネルギーコストの高騰を受けて外食業界で値上げが広がるなか、KFCは昨年2回にわたり一部商品の値上げを実施。「オリジナルチキン」は3月に260円から290円に、10月には290円から310円に改定され、1年の間に50円、約2割の値上げが行われた。
ちなみにハンバーガーチェーン「マクドナルド」と類似商品の価格を比較すると以下のようになっており、内容や量に違いがあるため単純比較はできないものの、KFCに割高感があるのは否めない。
KFC マクドナルド
チキンフィレバーガー:440円 チキンフィレオ:410円
ポテトS:290円 マックフライポテトS:190円
ナゲット5ピース:480円 チキンマックナゲット 5ピース:260円
挽きたてリッチコーヒー:270円 プレミアムローストコーヒーSサイズ:120円
「地域一番の安値」を掲げるオーケー
キャッチコピーとして「高品質・Everyday Low Price」「地域一番の安値」を掲げるスーパーマーケット、オーケーは「競合店対抗値下げ」を行うなどし、安さや品揃えの豊富さで定評がある。昨年8月に発表された「JCSI(日本版顧客満足度指数)」(公益財団法人日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)の2023年度第1回調査・スーパーマーケット業種で、顧客満足度1位を獲得するなど、数多くのユーザーから支持を集めている。1円でも安く顧客に提供するため納入業者に対する値下げ要求が厳しいことでも知られており、「値下げ分の負担を納入業者に要求した」として公正取引委員会が昨年の春ごろに調査に乗り出していたことが発覚したことも記憶に新しい。
小売チェーン関係者はいう。
「オーケーでは大手メーカーの商品が5~6割引きで売られているケースも珍しくなく、陳列棚では『希望小売価格より●割引き』といった表示が並んでいる。ただ、野菜や肉、魚などの生鮮食品は他チェーンと比較してそれほど安いというわけではなく、メーカーから仕入れる既製品の価格を低く抑えて集客の武器にしつつ、生鮮食品でやや利幅を大きくして利益を確保しているのかもしれない」
そんなオーケーで人気なのが店内調理の各種惣菜や弁当、パンなどだ。大きなピザ1枚が500円台、「二層仕立てのメンチカツ 5個入り」(214円)をはじめ揚げ物や和惣菜が200円台などで買え、さらに弁当類も以下のように安価で販売されている。
「ロースカツ重」322円
「肉旨!メンチカツ明太弁当(ごまソース使用)」322円
「国産チキンカツタルタル丼」322円
「具だくさん海老野菜天重」430円
ビジネスの構造上の違い
ちなみにオーケーの「肉厚フライドチキン(骨無し)」は2個入りで301円となっており、コスパ的にKFCと比べてオーケーのほうが優れているという声が出てもおかしくはないが、なぜこのような価格差が生じるのだろうか。
「KFCの『オリジナルチキン』は“同チェーンの顔”ともいえる商品だけに、非常に手間暇をかけてつくられており、その点でスーパーの総菜よりはクオリティが高いということになる。ただ、店内で食べるならまだしも、『揚げた鶏肉』という商品の特性上、テイクアウトなどで時間がたつと油でべちゃっとなってしまい、価格ほどの価値があると多くの消費者が考えるのかは微妙なところだろう。
また、スーパーにとって総菜類というのは集客を左右する非常に重要なアイテムであるため力を入れつつ価格も安く抑えるが、スーパーの場合は店内で取り扱う無数の商品と合わせて店全体で利益が出せればよく、惣菜類の利幅が小さくても他の商品カテゴリーでカバーできる。一方、KFCは限られた商品ラインナップのなかで利益を確保する必要があり、一部の商品だけ採算を度外視して安くするというのが難しい。
このようにビジネスの構造上の違いにより、コスパという面だけみればファストフードチェーンはスーパーの総菜には勝ちにくい。『KFCでオリジナルチキンを買うくらいならオーケーでカツ丼を買ったほうがオトク』というのは、その通りということになる。もっとも、KFCの『オリジナルチキン』には根強いファンが一定数おり、フライドチキン専門チェーンは事実上KFC一強状態なので、KFCとしては多少値上げしても客離れが起きないという計算があるのだろう」
外食チェーン関係者はいう。
「KFCが『オリジナルチキン』の高いクオリティ維持に注力している点は確かだが、それがどこまで顧客に伝わるのかは結局は顧客次第。また、店舗数でみるとマクドナルドの約3分の1くらいの規模のため、マクドナルドと比較すると原材料調達や店舗搬入前の食材加工、IT投資などあらゆる面で規模の経済が効きにくく、結果的にそれが価格差に反映されることになる。たとえばマクドナルドは1月にフライドチキンをパティに使う『マックチキン』を180円で発売したが、KFCの440円の『チキンフィレバーガー』と比べても全然遜色がないという評判も聞こえてくる。商品の種類数もマクドナルドのほうが多く、オリジナルチキン一本足のKFCが厳しい戦いを強いられている面はあるだろう」
(文=Business Journal編集部)