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『セクシー田中さん』報告書、原作者に嘘の説明→総括「意図を全て取り入れた」

文=Business Journal編集部
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日本テレビ(「Wikipedia」より/Suicasmo)

 昨年10月期の連続テレビドラマ『セクシー田中さん』(日本テレビ系)で、原作者・芦原妃名子さんの意向に反し何度もプロットや脚本が改変されていたとされるトラブルが表面化し、芦原さんが死去した問題をめぐり、日本テレビは5月31日、社内特別調査チームがまとめた調査報告書を公表。ドラマの制作過程においてドラマ制作スタッフが芦原さんに嘘の説明をしたり、同社が芦原さんと契約書の締結を行っていなかった事実が記述されている一方、

「放送されたドラマは本件原作者の意図をすべて取り入れたものとなったと日本テレビも小学館も認識している」

「本件原作者が本件ドラマの内容が自己の意向にそぐわないものだとの理由で不満を抱えていたという事実はなかったとみられる」

と結論付けていることに疑問の声が広がっている。さらに、

「(原作者サイドとの早期の契約について)テレビドラマ的な良さは失われてしまう気がする」

「契約でがんじがらめとなりできなくなる」

「これで怖がっちゃいけない。安全にドラマを作る方法なんてない」

「『原作どおり』はあり得ないから、改変?は必然」

といった同社プロデューサーの意見も掲載されている。また、「在京各社元ドラマプロデューサー」の意見として、

「クリエイティブな件に関して契約書にするべきではない」

「中身に関して『できるだけ忠実に』と書いてあっても、できるだけというのは曖昧。だから、そんなものは契約書にならない」

「制作におけるチェックリストの作成も非常に難しい問題。そういうものができてしまうと、何でも規則みたいになる」

「放送局としてはまず第一に社員を守ることが仕事」

などと記載されており、議論を呼んでいる。

 調査チームは日本テレビおよび原作代理人である小学館の関係者にヒヤリング調査を実施。約90ページにおよぶ調査報告書と別紙からなる文書(以下、報告書)には、一連の経緯や事実認定、本件の分析・検証と総括、今後に向けた提言などが記載されている。

 同ドラマの制作が始まったのは放送開始の約6カ月前の昨年3月末。日本テレビは作成したプロットや脚本を小学館に送り、原作者からの指摘を受けて修正するという作業(ラリー)を繰り返すかたちで脚本づくりを進めた。その過程のなかで原作サイドから制作サイドに対して、ときに厳しい内容で「キャラブレ」などが指摘され、芦谷さんからは

「ツッコミどころの多い辻褄の合わない改変がされるくらいなら、しっかり、原作通りの物を作って欲しい。これは私に限らずですが…作品の根底に流れる大切なテーマを汲み取れない様な、キャラを破綻させる様な、安易な改変は、作家を傷つけます。悪気が全くないのは分かってるけれど、結果的に大きく傷つける。それはしっかり自覚しておいて欲しいです」

と書かれた文書が送られることもあった。

「本件脚本家はいきなりの話であって驚愕した」

 問題が表面化したきっかけとなったのは、昨年12月に脚本を担当する相沢友子さんによるInstagramへの以下の投稿だった。

「最後は脚本も書きたいという原作者たっての要望があり、過去に経験したことのない事態で困惑しましたが、残念ながら急きょ協力という形で携わることとなりました」

「今回の出来事はドラマ制作の在り方、脚本家の存在意義について深く考えさせられるものでした。この苦い経験を次へ生かし、これからもがんばっていかねばと自分に言い聞かせています。どうか、今後同じことが二度と繰り返されませんように」

 9話・10話の脚本は相沢さんが担当していない旨を説明したものだが、これを受け今年1月、芦原さんは自身のブログ上で経緯を説明。ドラマ化を承諾する条件として、制作サイドと以下の取り決めを交わしていたと明かした。

<ドラマ化するなら『必ず漫画に忠実に』。漫画に忠実でない場合はしっかりと加筆修正をさせていただく>

<漫画が完結していない以上、ドラマなりの結末を設定しなければならないドラマオリジナルの終盤も、まだまだ未完の漫画のこれからに影響を及ぼさない様『原作者があらすじからセリフまで』用意する。原作者が用意したものは原則変更しないでいただきたい>

 報告書によれば、原作にはないオリジナルドラマとなる9・10話のプロットについて小学館と日テレの間でやりとりが続いたものの難航し、小学館は日テレに対し「9,10 話は本件脚本家を完全に外してほしい」と要請。その結果、相沢さんは9・10 話の脚本を降板し、芦原さんが脚本を執筆した。

 日テレが芦谷さんが執筆した脚本を相沢さんに見せたのは昨年11月。

「制作サイドで作成した脚本は認められないこと、これを飲まないと放送できないことを伝えたところ、本件脚本家はいきなりの話であって驚愕した」(報告書より)

 相沢さんは9・10話の脚本から降りる旨を日テレに伝え、放送内で自身の名前をクレジット表記しなくていいと伝えたが、その後、相沢さんはクレジット表記をしてほしいと要請。日テレは小学館に相沢さんの名前を「脚本協力」あるいは「監修」などというかたちで入れてほしいとの要望したものの、小学館はこれを拒否した。

日テレ「必ず原作に忠実に」という条件を示されたという認識を持っていなかった

 芦原さんが日本テレビに「ドラマ化するなら『必ず漫画に忠実に』。漫画に忠実でない場合は本件原作者がしっかりと加筆修正すること」を条件として提示していたのかという点について、日テレは「条件は伝えられていなかった」との認識だった。一方、小学館は

「条件として文書で明示しているわけではないが、漫画を原作としてドラマ化する以上、『原作漫画とドラマは全く別物なので、自由に好き勝手にやってください』旨言われない限り、原作漫画に忠実にドラマ化することは当然」

という認識であった。

 また、「ドラマオリジナル部分については、原作者が用意したものを、そのまま脚本化する者を想定する必要や、場合によっては、原作者が脚本を執筆する可能性もあること」について、日本テレビは「上記のような条件を言われたことはなかった」との認識を示している。一方、小学館は日本テレビに対し「脚本が原作者の意図を十分汲まず、原作者の承諾を得られないときは、原作者に脚本を書いてもらうこともある」と伝えたとの認識であった。

「小学館からは、未完部分はドラマオリジナルのエンドでよい、という話であった」(日本テレビ/報告書より)

「未完部分は原作に影響を与えないよう、原作者が提案するものをベースにしたドラマオリジナルエンドで良いという趣旨で言った」(小学館/同)

 よって、日テレは小学館から「必ず原作に忠実に」「終盤は本件原作者が脚本を書くこともあり得る」という条件を示されたという認識を持っていなかったため、脚本の相沢氏にもその旨の説明はされていなかった。

「脚本家は今すぐ替えていただきたい」

 報告書のなかで注目されているのが、日本テレビ側の制作スタッフが小学館側に嘘の説明をしていた点だ。昨年10月、芦原さんはある撮影シーンについて不審な点があったため制作スタッフに問い合わせたところ、実際の撮影はその5日後に予定されていたにもかかわらず、スタッフは当該シーンは撮影済みである旨を回答。スタッフは「当該シーンの撮影のために2か月にわたってキャスト・スタッフが入念に準備を重ねていたため、撮影変更はキャストを含め撮影現場に多大な迷惑をかけるので避けたいと思って咄嗟に事実と異なる回答をしてしまった」という。この一件を受け、「本件原作者は『制作サイドから何を言われても信用できない』という思いを抱いた」(報告書より)。

 報告書には、小学館が日本テレビに送った、芦谷さんからの以下内容の意見・要望も記載されている。

「(オリジナルのセリフやり取りが挟まっている点について、)冗談とはいえ、ふつーに感じ悪いなと思ってしまう、一連のセリフの流れが意味不明、こんな短いシーンでも理論立てて説明できないキャラの言動の不一致が起こってしまう、他人をディスる言葉の扱い方と、文脈やキャラの言動の破綻が気になる、切り貼り挿入も前後の意味が繋がっていない」

「散々説明して来たつもりなので、流石にもう堂々巡り、なのでもうこれ以上のやりとりはしたくない」

「・脚本家は今すぐ替えていただきたい。
・最初にきちんと、終盤オリジナル部分は本件原作者があらすじからセリフまで全て書くと、約束した上で、今回この 10 月クールのドラマ化を許諾した。
・この約束が守られないなら、Huluも配信もDVD化も海外版も全て拒絶する。
・本件脚本家のオリジナルが入るなら永遠に OK を出さない。度重なるアレンジで何時間も修正に費やしてきて限界はとっくの昔に超えていた。
・B 氏が間に入ったというのを信頼して今回が最後と思っていたが、また同じだったので、さすがにもう無理である」

 上記からは芦谷さんが日テレにどのような感情を抱いていたのかが伝わってくるが、報告書は次のように総括している。

「放送されたドラマは本件原作者の意図をすべて取り入れたものとなったと日本テレビも小学館も認識している」

「本件原作者が本件ドラマの内容が自己の意向にそぐわないものだとの理由で不満を抱えていたという事実はなかったとみられる」

 この総括に対し、SNS上では「矛盾している」などの疑問の声もみられる。

「同様のケースは今後も起きるだろう」

 テレビドラマ制作関係者はいう。

「この業界では契約書が締結されないというのは普通のことであり、仮に契約書を締結していたとしても、どのレベルまでの改変を許容するのかどうかをあらかじめ契約書で明文化するのは困難なので、契約書を締結したからといって同様の問題の再発を防げるわけでなない。『必ず漫画に忠実に』『漫画に忠実でない場合は本件原作者がしっかりと加筆修正する』という条件について、日テレは提示された認識がないと言い、小学館は提示していたと言っているが、どこまで忠実にするのかを事前に定めることはできないし、脚本の内容がFIXしなければ最終的には著作権上の都合で原作者の意向に従う以外に方法はない。そもそも書面を取り交わしていなかったということなので“言った言わない”の次元の話。また、制作期間が6カ月ほどというのも一般的なので、制作期間的に問題があったわけでもない。

 報告書を読んだ感想としては、ここまで原作者が脚本の内容に指摘を入れてくるというのはレアなケースとはいえるだろう。小学館は途中で、脚本家を原作者の意向をそのまま取り入れてくれるような若手に交代する案も提示していたということだが、確かに最初から脚本家がそのようなタイプであれば、これほど揉めなかっただろう。原作に厳格に忠実であることを求める原作者と実績豊富なベテランの脚本家という組み合わせとなる以上、今回のような問題は防ぎようがない」

 別のテレビドラマ制作関係者はいう。

「小学館は芦谷さんからの脚本に対する意見や要望を柔らかくして日テレに伝え、さらに日テレはそれを柔らかくして脚本家に伝えていたため、結果的に芦谷さんの意図が脚本家に正確に伝わっていなかった可能性があるだろう。ただ、脚本家は日テレに対して、原作者からの要望を咀嚼して自分に伝えてくれるよう要求しており、また芦谷さんも日テレからの直接面談したいとの要望を断っているので、結果的にこのようなリレー方式のコミュニケーション形態とならざるを得なかった。

 報告書にはいろいろと再発防止に向けた提言が書かれているが、一連の経緯を読む限り、原作モノのドラマである以上、同様のケースは防ぎようがないし、おそらく今後も起きるだろう。事前に契約書を取り交わしたり、制作期間を長くしたところで、原作の著作権は原作者にあり、脚本の著作権は脚本家にあるので、双方が折れないという状況になれば、同様のトラブルは生じることになる。根本的な解決策としては、もう原作モノのドラマはつくらないようにするという以外にない」

(文=Business Journal編集部)

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