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KFC、カーライルに買収され鶏肉の調達先が変更→チキンの質が低下の懸念?

文=Business Journal編集部、協力=稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長
ケンタッキーフライドチキンの商品
ケンタッキーフライドチキンの商品

 米投資ファンドのカーライル・グループは20日、ファストフードチェーン「ケンタッキーフライドチキン(KFC)」を運営する日本KFCホールディングスを買収すると発表した。日本KFCの筆頭株主は三菱商事であり、カーライルは三菱商事の保有する日本KFC株式を買い取り完全子会社化する。この発表を受け、もし仮に三菱商事グループのジャパンファームから鶏肉の調達先が変わると、「オリジナルチキン」のクオリティが下がってしまうのではないかと懸念する声がSNS上であがっている。調達先が変わる可能性はあるのか。また、もし変わった場合、「オリジナルチキン」のクオリティに変化が生じる可能性はあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 全国に1197店舗(2023年3月31日現在)を展開し、フライドチキン専門店チェーンとしては圧倒的な強さを誇るKFC。メニューとしては定番の「オリジナルチキン」1ピースが310円、「チキンフィレバーガー」が440円、「ポテトS」が290円、「ビスケット」が290円、「ナゲット5ピース」が480円、「コールスローS」が290円、「チョコパイ」が290円、「挽きたてリッチコーヒー」が270円、「チキンフィレバーガー」に「ポテト S」とドリンク類(M)が付いた「チキンフィレバーガーセット」が850円。「オリジナルチキン」や「ポテト」、バーガー類やドリンク類、「ビスケット」などを組み合わせた各種ボックス類なども販売されている。現在は今月28日までの期間限定で「チキンフィレバーガーセット」が通常価格より260円安い590円で提供されている。

 原材料価格やエネルギーコストの高騰を受けて外食業界で値上げが広がるなか、KFCは昨年2回にわたり一部商品の値上げを実施。「オリジナルチキン」は3月に260円から290円に、10月には290円から310円に改定され、1年の間に50円、約2割の値上げが行われた。

 また、以前からアプリとホームページ上でクーポン配信、ネットオーダーなどの機能を提供していたが、今年4月には新たなアプリとホームページをリリース。デジタル化にも力を入れている。

 こうした取り組みもあり、業績は好調を維持しており、2024年3月期の連結業績では売上高は前期比10.8%増の1107億円、純利益は74.0%増の43億円となっている。

三菱商事グループのジャパンファーム

 その日本KFCを買収するとカーライルは発表。約35%の日本KFC株を保有する三菱商事から買い取るほか、TOB(株式公開買い付け)で日本KFC株を取得し、9月をめどに完全子会社化する。

 このニュースを受けてSNS上で“ある懸念”が一部で広まっている。KFCのチキン商品はクオリティの高さに定評があり根強いファンを獲得しているが、KFCが三菱商事から離れることで、鶏肉の調達先が三菱商事グループのジャパンファームから他社に変更され、チキンの質が落ちてしまうのではないかという懸念だ。

 KFCのオリジナルチキンの質へのこだわりは強い。創業者カーネル・サンダースが1940年につくり上げたというレシピは、11種類のハーブとスパイスを配合したもので、一般的な製法であるフライヤー調理とは異なり、圧力釜で最高温度185℃で約15分かけて揚げるというもの。店舗内で1本1本、手づくりでつくられ、HP上では品質へのこだわりの強さについて次のように説明されている。

「ハーブとスパイスの配合を知っているのは、世界でたったの3人。スパイスは複数の工場で数種類ずつ配合され、店舗に向けて出荷されます。各店舗でそれらをブレンドして初めて、11種類のハーブ&スパイスが完成」

 ジャパンファームは1988年に日本KFCの認定工場第一号となって以降、日本KFCに鶏肉を供給している。南九州に総面積455万平方メートルに及ぶ広大な敷地を擁し、生産・処理・加工・販売までの一貫体制を構築。同社のチキン事業における年間生産処理羽数は4100万羽を超えている。

KFCはワンランク上の高品質なフライドチキンを提供

 調達先が切り替えられる可能性はあるのか。金融機関関係者はいう。

「あくまで現時点での推察ですが、ジャパンファームからの調達を継続すると考えるのが自然でしょう。カーライルの目的は、いったん日本KFCを非上場にして経営の自由度を高め、企業価値を高めて再上場させるか他社に売却することで利益を得ることなので、日本KFCの売上・利益にマイナスとなることは避けます。KFCの強み・集客力の要因の一つがチキンの質の高さであり、それがジャパンファームから仕入れる鶏肉によって支えられているのだとすれば、調達先を他社へスイッチする合理的理由はありません。長年にわたりKFCとジャパンファームは協力して質の向上などに取り組んできたので信頼関係も構築されており、調達先を変えて他社とゼロからそれを築くのは大変です。

 また、三菱商事も日本KFCを売却したがっていたので、カーライルとは敵対的ではなく良好的な関係のなかで売却に至っており、日本KFCからジャパンファームを引き上げる理由はないでしょうし、大口の取引先を失いたくないでしょう」

 では、もし仮に調達先が変わると、チキンの質が落ちる可能性はあるのだろうか。飲食プロデューサーで南インド料理専門店「エリックサウス」総料理長の稲田俊輔氏はいう。

「日本において『フライドチキン』という商品名で販売されている商品のほとんどが、KFCのそれに近いフレイヴァーを目指して開発されているといってよいと思います。そういった広い意味での類似商品のなかで、KFCはスパイスやハーブのフレイヴァー以外の『味付け』の部分では、最もシンプルな部類に入ると思われます。これは良質な原料を店舗内調理で提供しているKFCだからこそでしょう。味の好みは人それぞれとはいえ、個人的にKFCは他のファストフードチェーンや小売店と比較して、ワンランク上の高品質なフライドチキンを提供し続けていると認識しています。

 一般的な飲食店では鶏肉は輸入の冷凍品が使われることが多く、その最大の輸入元はブラジルです。ブラジル産冷凍チキンは国産に比較すると安価であり、品質も決して悪くはありません。しかしKFCのフライドチキンのようにシンプルな味付け・調理法が施される場合においては、やはりより品質の高い国産チルド品が持つ、味の面での優位性は明らかです。

 国産の鶏肉だけに限っていうと、私の感覚としては、かつてより品質の底上げがなされていると感じています。20年ほど前であれば、仕入れ先によっては時折、妙に臭みが強いものや肉質が水っぽいものが紛れていた記憶がありますが、現在ではそういうケースがほぼなくなりました。そういう意味では、鶏肉原料の仕入れ先変更自体は、特に大きなリスクではないのではないかと予想します。

 日本のKFCが世界のなかでも特においしいといわれることがあるのは、丁寧な調理オペレーションや緻密な品質管理によるものなのではないかと思います。ここが崩れることさえなければ、今後も品質に関しては安泰といえるのではないでしょうか。

 余談ですが、KFCのオリジナルチキンを最も確実においしく食べる方法があります。それは、確実に揚げたてすぐが手に入る開店時間と同時に購入してすぐ食べること。特にムネ肉系統の部位のおいしさは格別です。『これまで食べていたものは何だったんだろう?』とすら感じるかもしれません」

(文=Business Journal編集部、協力=稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長)

稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長

稲田俊輔/「エリックサウス」総料理長

料理人・飲食店プロデューサー。鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。和食、ビストロ、インド料理など、幅広いジャンルの飲食店の展開に尽力する。2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。現在は全店のメニュー監修やレシピ開発を中心に、業態開発や店舗プロデュースを手掛けている。近著は『食いしん坊のお悩み相談』(リトル・モア)。

Twitter:@inadashunsuke

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