格安な価格と豊富な種類のアイテムで人気の大手アパレルチェーン「しまむら」社員の平均年収が689万2000円(同社の有価証券報告書より)で、看護師の約508万円(厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」より)を上回っていることが一部で話題を呼んでいる。アパレル業界平均の約2倍で、日本人の平均年収458万円(国税庁発表「令和4年分民間給与実態統計調査」より)も大きく上回っているが、SNS上では「しまむら」社員一人当たりの業務量やパフォーマンスの高さを考えれば、決して高くはないという声もみられる。同社本部の社員はどのような業務を行っているのか。また、かなりのハードワークなのか。そして、この年収額は業務内容や重さに見合った水準と考えられるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
全国に1415店舗(2024年2月期末)を展開する「ファッションセンターしまむら」は、「ユニクロ」(797店舗/24年8月末時点)、「ジーユー(GU)」(472店舗/同)を抑え、アパレルチェーンの国内店舗数(ブランド別)としては1位。圧倒的な低価格のPB(プライベートブランド)商品やJB(ジョイント・ディベロップメント・ブランド)商品、インフルエンサーやキャラクターとのコラボ商品などに強みを持ち、高い集客力を維持している。
「しまむら」を運営する株式会社しまむらの業績は好調だ。18年~20年2月期こそ3期連続の減収減益となったものの、そこから回復し、24年2月期の売上高は前期比3.1%増の6350億円、営業利益は3.8%増の553億円、純利益は5.4%増の400億円。売上高営業利益率は8.7%で、ユニクロとGUを運営するファーストリテイリングよりは低いものの、無印良品を運営する良品計画と同水準であり、小売企業としては高い水準となっている。
「売り切れ御免」型
そんな「しまむら」社員の年収が一部で話題となっているが、SNS上では、
<しまむらの本社社員は凄い働き方してるから。月曜は前週の分析、週中は何社あんねんってほどの仕入れ先とのやりとりとかPB企画や生産。そしてオーダー。週末は売り出しの確認とか初動の調査もやってるでしょ。土日も店舗行ったりでいつ寝てんのって思う>
といった声もみられ、同社社員の働きぶりも注目されている。
アパレル業界でトレンドリサーチやコンサル事業などを手がけるココベイ社長の磯部孝氏はいう。
「チェーンストア本部の重要かつ主な業務は、どの商品を店舗に展開するのかを検討・決定することですが、『しまむら』は一店舗あたり300~350坪くらいの広さに4~5万アイテムほど商品を並べ、それが1400店舗以上あるため、チェーン全体では膨大な商品数となります。年間の仕入れ予算は3000億円以上で、仕入先は500社以上に上ります。さらに『しまむら』の特徴として『売り切れ御免』型という点があげられ、売り場の鮮度を保つためにある商品の在庫が切れると同じ商品を補充するのではなく、別の新しい商品を棚に並べるため、他のチェーンと比べて品番数、デザイン数、型数が多くなります。また、SPAモデルというよりは取引先からの買い付けが中心の集荷タイプの性格が強いため、決定すべき商品数も取引先との商談数も非常に多くなってきます」
あらゆる面で自前主義
前述のとおり小売企業としては高い営業利益率を誇る「しまむら」の経営面での特徴とは何か。
「『しまむら』のような常に格安販売をするEDLP(エブリデー・ロープライス)型の企業は、あまり値下げをしませんが、それでもシーズン末期に売れ残った商品を売り切るためなどに値下げをしなければならないケースもあり、一定程度の値下げロスが生じてしまいます。同社はさまざまな施策によって、その値下げロスを低く抑えられるようになってきていると聞きます。
また、『しまむら』の経営的な特徴としては『会社も人も買わない』という方針を掲げ、物流システムなども含めてあらゆる面で自前主義を貫いている点があげられます。そのため、基本的には社員の中途採用を行わず、2~3年のスパンで部署を異動するジョブローテーションを行っています。それを実現可能にしているのが社内の業務マニュアルの存在です。常に社員が改善提案を行い、マニュアルの内容が更新・追加されていき、部署が変わってもマニュアルを読めば業務を行えるようになっています」(磯部氏)
では、689万2000円という「しまむら」社員の平均年収をどう捉えるべきか。
「どう評価すべきかは非常に難しいですが、全上場企業約3800社の23年度の平均年収は651万円なので、それより少し上ということになります。また、以前から重労働かつ低賃金というイメージを持たれているアパレル業界の平均年収は350万円ほどだといわれているなかで、この水準の年収を出しているというのは、業界のリーディングカンパニーであるという『しまむら』の自負の表れであるとも感じます」(磯部氏)
(文=Business Journal編集部、協力=磯部孝/ファッションビジネス・コンサルタント)