なぜ開発元ではない任天堂などが計5千億円を受領?米社のポケモンGO売却で

スマートフォン(スマホ)向けゲームアプリ「ポケモンGO」を開発・配信する米ナイアンティックは、同タイトルを含むゲーム事業の大半を米ゲーム開発会社スコープリーに売却すると発表した。これに伴い任天堂を含む既存株主は38億5000万ドル(約5700億円)を受け取るが、「ポケモンGO」の開発・運営者はナイアンティックであり、「ポケットモンスター」の権利を保有しているのは任天堂の持分法適用関連会社である株式会社ポケモン(ポケモン社)。ポケモン社はナイアンティックの『ポケモンGO』の開発・運営に協力してライセンス料を受け取っているが、任天堂はナイアンティックの一株主という立場にすぎない。では、なぜ任天堂はナイアンティックのゲーム事業売却に伴い多額のお金を受け取るのか、また、その金額はいくらなのか。そして、任天堂は「ポケモンGO」に関して何をしたのか。任天堂はBusiness Journalの取材に対し
「Niantic社と共同開発・共同運営しているスマートデバイス向けアプリ『Pikmin Bloom』のサービスは継続いたします。なお、『Pikmin Bloom』のサービス継続以外に関しましては、コメントを差し控えさせていただきます」
との回答を寄せた。
日本では2016年7月に配信が開始され、わずか3日間で推定1000万ダウンロードを突破するなど社会現象とも呼べるブームをつくったスマートフォン向けゲームアプリ「ポケモンGO」。世界的なヒットタイトルとなったが、もともと位置情報関連サービスの開発を主とするナイアンティックはゲーム事業では「ポケモンGO」に続くヒットタイトルを生み出せず、22~23年に従業員の解雇などを実施。同社は3D地図を活用したロボット開発基盤などを提供する新会社を設立する一方、「ポケモンGO」を含むゲーム事業の大半をナイアンティックに残す。その上で、同社株式を、サウジアラビアの政府系ファンド、パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)が出資するSavvy Games Group傘下のスコープリーが35億ドルで取得する。事実上の事業買収とみられており、「ポケモンGO」の運営元はサウジ系企業となる。
IPホルダーの役割
「ポケモンGO」と聞くと任天堂が関係しているというイメージも強いが、持分法適用関連会社であるポケモン社がナイアンティックによる開発・運用に協力してだけであり、それゆえに「ポケモンGO」のヒットによる任天堂への業績の影響について同社は「限定的」との説明を行ってきた。では、任天堂は「ポケモンGO」に関して何をしてきたのか。ゲームプロデューサーの岩崎啓眞氏はいう。
「個別の事案の詳細は分からないので、あくまで一般論としてお話ししますと、まず『ポケットモンスター』の権利を有してるのはポケモン社です。ゲーム開発において通常、IPホルダーというのは、そのIPを使ったゲームの開発を行う会社に対して、『グラフィックのここについている星の形状が少し違います』『このアイテムをくるくる回した時に、ある特定の角度になった際にシンボル的なものが見えないと困ります』『そういう動きや見た目は避けてください』といった、グラフィックやオーディオ周りのチェックを行います。
また、タイトルのリリース後にグラフィックの追加やイベントをつくるというときには、ゲーム開発会社はすべてIPホルダーに対して企画書を提出し、内容を確認してもらって修正の指示を受けたりします。よって、ポケモン社についていえば『ポケモンGO』の共同開発者という立ち位置でしょう」
任天堂が利益を受け取るのは自然
では、なぜ任天堂はナイアンティックのゲーム事業売却に伴い、多額の利益を得ることになったのか。
「詳細は分かりませんが、ポケモンというのは任天堂のIPなので、そのIPを使ったゲームが生み出した利益の何パーセントかを任天堂が受け取るというかたちの契約があったとしても、おかしくはありません。結局のところナイアンティックは『ポケモンGO』を他社に売却するという話なので、売却によって受け取るお金の一部を任天堂が受け取るというスキームなのではないかと推察されます」(岩崎氏)
金融機関のファンドマネージャーはいう。
「任天堂はナイアンティックに出資する株主なので、その株が第三者に売却されれば任天堂にお金が入るということになります。また、もしナイアンティックのゲーム事業に一定の余剰資金があったのだとすれば、出資比率に応じて株主に分配されるということはあるかもしれません。いずれにしても任天堂は『ポケモンGO』で多額のリターンを得るわけで、ビジネスとしては成功したといえるでしょう。また、IPビジネスというのは成功すると多額の利益をもたらしてくれるものだという象徴的な事例ともいえます」
(文=Business Journal編集部、協力=岩崎啓眞/ゲームプロデューサー、ゲームライター)