マクドナルド再値上げでも客離れは起きない理由…他チェーンにない尊い価値

ハンバーガーチェーン「マクドナルド」が再び値上げする。過去3年で6度目となる今回の値上げでは、全メニューのうち4割が10~30円ほど引き上げられる。「マックフライポテト S」は190円から200円(税込み/店舗によって異なる)に、「チーズバーガー」は200円から220円に改定されるが、度重なる値上がりによってメニュー全体の価格が、割高な価格で品質にこだわりが強い「モスバーガー」や「バーガーキング」と同じ水準になりつつあるという声も出ている。だが外食チェーン関係者は「今回の値上げで目立った客離れは起きないだろう。マクドナルドの真の価値は別のところにある」との見方を示すが、多くの消費者を引き付けるマクドナルドの価値とは何か。また、今回の価格改定と同時に、「マックフライポテト」M・Lサイズの期間限定特別価格での販売や、「ハンバーガー」とサイドメニュー、ドリンクMのセットを500円で発売すること、人気メニューを100円で購入できるクーポンを公式アプリ上で日替わりで配信することなども発表されたが、価格戦略をどう分析できるか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
マクドナルドは2022年3月、9月、23年1月、7月、昨年1月に値上げを実施。今回の価格改定では前述のほか、「ハンバーガー」が170円から190円に、「チキンマックナゲット 5ピース」が260円から290円に改定される。
そんなマクドナルドの値上げを受け、競合するモスやバーガーキングとの価格差がなくなりつつあるという指摘も多い。たとえばマクドナルドとモスバーガーの類似商品の価格を比較すると以下のようになる(マクドナルド、およびモスバーガーの価格は改定後の価格。以下同)。
マクドナルド モスバーガー
てりやきマックバーガー:400円 テリヤキバーガー:430円
チーズバーガー:220円 チーズバーガー:280円
フィレオフィッシュ:400円 フィッシュバーガー:400円
チキンフィレオ:420円 チキンバーガー:360円
ダブルチーズバーガー:450円 ダブルチーズバーガー:440円
また、マクドナルドとバーガーキングの類似商品の価格を比較すると以下のようになる。
マクドナルド バーガーキング
ダブルチーズバーガー:450円 ダブルチーズバーガー:460円
てりやきマックバーガー:400円 スモーキーテリヤキバーガー:350円
フィレオフィッシュ:400円 フィッシュバーガー:400円
ちなみにバーガーキングのアプリ上では頻繁に実質値引きのクーポンが配信されており、また時間帯問わず提供されているセットメニュー「ALL DAY KING」では「フレンチフライ」とドリンクが付いた「BBQレタスバーガーセット」(550円)などが揃っている。
値上げしてもマックを利用し続ける層
マクドナルドの商品のクオリティーや値上げ後の価格などを勘案すると、価格妥当性はどのように評価できるか。飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏はいう。
「今回の値上げによって同業他社の商品価格に近くなり、マックの競争力が落ちるのではないかという声もあり、その可能性はもちろんありますが、利用者のニーズによって利用店は変わりますので、競争力の低下は軽微にとどまると予想されます。質を求める人が、マックの近所にモスバーガーやバーガーキングがある場合にそちらを選択する可能性は高まるでしょう。しかし、駅近くでサクッと食べたい人、1時間くらいの時間つぶしでカフェ代わりにどこかないかなと探している人、子供が『ハッピーセット』の景品を欲しがる人、値上げしたとはいえマックのほうが安く済むと思った人は、マックを利用するでしょう。こうした人々は10~30円くらい値上げしても、マックを利用し続けることでしょう。
私はときどきコメダ珈琲店に入ることがありますが、びっくりするのが学生と思われる若者の多さです。写真映えしそうなコメダのデザートとドリンクをオーダーしている人が多く、一人あたり1200円~1500円くらいは使っているように見えます。若者たちもコメダを利用する日もあるでしょうが、もちろんマックも利用しています。多くの人が時と場合、その時のニーズによってお店を使い分けています」
相対的には安いと思える範疇
前述のとおり、今回は商品の値上げと同時に日替わりクーポンのキャンペーンや500円の「ハンバーガー」セットの復活なども発表したが、全体としてみてマクドナルドの価格戦略はどう分析できるか。
「値上げは公式の発表にあるとおり『昨今のエネルギーコスト、物流費、人件費の上昇を受けてのもの』ということなので、仕方ないと思います。競合するモスバーガーも3月に入って値上げをしています。クーポンの配信やセットの復活は、単なる値上げだけだと印象が悪いので、少しでもイメージを和らげるためのバーター企画でしょう。かつての『ハンバーガー』が59円や100円で買えた時代を知っている人は、随分高くなったというイメージを持つでしょうが、それでも相対的には安いと思える範疇に落ち着いていると思います。
ただし、最近の値上げにより24年12月期決算では売上高・営業利益ともに過去最高となっており、お客さんに対して値上げの説得力が薄れてしまうかもしれません。あわせて賃金や初任給の引き上げも発表されていますので、人手不足といわれるなか、値上げによって得られる利益は人材確保や待遇改善に有効利用されていくのではないでしょうか」(江間氏)
マックの価値とブランド力
では、マクドナルドの真の価値とは何であると考えられるか。
「マクドナルドの価値はそのブランド力、イメージです。マックといえば『駅近くにあって、店内が広いので席が多く、お店の人からあまり干渉されずに長居しやすく、安くて、空いた時間にちょっと使える手軽なお店』といったイメージを持っている人が多いと思います。最近の値上げによって『安い』という部分が薄れつつありますが、そうはいっても同業他社や街場の飲食店に比べると、まだ安いですし、立地や広さ、メニュー内容など、やはり気軽に利用できるお店だと思います。
これがマックの価値でありブランド力だと思いますので、業界全体の中で『そこそこ安い』というポジションをキープできれば、お客さんは利用することでしょう。そこそこ安いという判断はお客さんがしますので、今後はどこまで許されるかを値上げしながら探っていき、折り合いをつけていくのだと思います。値段は上がるときもあれば、昔のマックみたいに下がるときもあるはずです。そのあたりをフレキシブルに対応していけば、お客さんに受け入れられ続けることでしょう」(江間氏)
外食チェーン関係者はいう。
「平日の夕方時にマクドナルドの店舗に行くと、『マックフライポテト』やスイーツを片手におしゃべりを楽しむ学生グループや、ハンバーガーに食らいつき空腹を満たす学生、高齢者、ノートPCを広げてオンライン会議をするスーツ姿の中年の男性・女性など、ほぼすべての世代が思い思いの時間を過ごしています。同一の店舗内でこれだけ幅広い世代のお客が混在して、それぞれが好きなように時間を過ごしている店というのは、意外になかったりします。また、お金がない学生であれば330円でドリンクとハンバーガーを食べることができ、よほど長居しなければスタッフから退店を促されることもありません。頻繁に投入される各種期間限定商品も魅力的なものが多いです。そして店内は適度にガヤガヤしているので、気を遣うことなく、おしゃべりできる雰囲気も備わっています。こうした光景にこそマクドナルドの価値が隠れているのかもしれません」
(文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)