回転寿司チェーン大手3社の戦略は実はこんなに違った…はま寿司はファミレス化、スシローは海外強化

●この記事のポイント
・回転寿司チェーン大手3社の戦略に大きな違い
・くら寿司は高級店「無添蔵」を東京・中目黒駅前に開業。スペシャリティー感あふれる高価格帯のメニューが数多く揃っている
・はま寿司は国内回転寿司市場における売上・店舗数No.1を目標に掲げ投資を加速
割安な価格で多くの消費者を惹きつける「くら寿司」が高級店「無添蔵」に力を入れている。5月には関東エリアで初の店舗を東京・中目黒駅前に開業。「江戸前盛り合わせ」(1980円)や「彩り海の宝石箱」(1980円)、「生本まぐろ中落ちセット」(1480円)など品質にこだわったスペシャリティー感あふれる高価格帯のメニューが数多く揃っているのが特徴だ。従来のお手頃価格の「無添くら寿司」を維持しつつ、別ブランドで高価格帯のブランドを展開するかたちだが、「回転寿司チェーン」と一括りにされがちな各社の戦略には、意外にも大きな違いや特徴があるという。専門家への取材をもとに追ってみたい。
●目次
都心という商業エリアの開拓を進める「くら寿司」
くら寿司は2005年から「無添蔵」を展開してきたが、これまで関西エリアの4店舗にとどまっていた。店内には回転レールはあるが「くら寿司」で人気の「ビッくらポン!」などのエンタメ要素は抑制され、「大人の隠れ家」を意識した落ち着きのある雰囲気が漂う店舗づくりとなっている。照明が明るく賑やかな「くら寿司」とは対照的だ。その日の朝に獲れた鮮魚を新幹線で輸送して当日に提供するなど、高品質なメニューがウリだ。
「くら寿司は東京の原宿や銀座などにグローバル旗艦店を展開しており、どの店舗も好調。その成功を受けて都心という商業エリアの開拓を進めていく戦略の一環に『無添蔵』も位置付けられていると考えられる。『高級店』と謳われているものの100~200円台のメニューも充実しており、『こぼれすぎいくら軍艦』(1200円)などの贅沢メニューもあるので、実態としては『高価格帯メニューもある、くら寿司』といえるのではないか。都心の店舗の場合、郊外と比べて開店・運営コストが高くなるので、高めの価格を設定しないと採算が取れないことから、高級店という形態をとったという面もあるだろうが、寿司専門店や居酒屋など他の業態と比較してみると、むしろ割安でお得感があるので、高い集客力が見込めると期待できる」(外食チェーン関係者)
回転寿司チェーン各社の方向性
回転寿司チェーンで多角化を進めるのは「くら寿司」だけではない。スシローを運営するFOOD & LIFE COMPANIESは大衆寿司居酒屋「杉玉」やテイクアウト店「京樽」を展開。一方、「はま寿司」を運営するゼンショーホールディングス(HD)は牛丼店「すき家」やファミリーレストラン「ココス」を展開する総合外食企業だが、今のところ寿司店業態は「はま寿司」のみであり、国内での店舗数拡大に注力しているとみられる。
回転寿司業界の勢力図をみてみると、25年3月当時の国内店舗数ベースで1位はスシロー(650店舗)、2位は「はま寿司」(639店舗)、3位は「くら寿司」(549店舗)。各社とも業績は好調で高い集客力を誇っているが、その戦略には大きな差があるという。
外食・フードデリバリーコンサルタントの堀部太一氏はいう。
「まず、スシローは海外事業を拡大しており、売上高に占める海外比率を40%にすべく中国・北米・インドネシアに事業を展開。海外調達・海外加工による流通の良さから海外でも高い収益力を維持しています。国内の活性化策としては省人化とデジロー導入で単価をアップさせています。調達も強化しており、水産資源活用に向けて養殖やフードテックに投資しています。
はま寿司は国内回転寿司市場における売上・店舗数No.1を目標に掲げ、そのための投資が進んでいます。一方で海外展開は主にアジアで進んでいますが、回転寿司に限らず現地の寿司チェーンのM&Aも進めています。
くら寿司は足元では国内事業が好調であり、インバウンド特化の旗艦店モデル(6店舗)を展開。価格の見直しも行っています。海外展開としては北米での出店を加速させており、今後の出店は海外店舗比率が高いです」
各チェーンのメニュー・価格戦略に差はあるのか。
「スシローはあくまでも『寿司』を強化して適正価格化が進んでおり、下限130円ながら幅広い価格帯になっています。集客商品もご馳走メニューのコスパ感と、あくまでも寿司としての打ち出しが強いです。はま寿司は110円のアイテム数が多く、引き続きお値打ち感を訴求しています。また、最近では麺メニューや唐揚げメニューなどサイドメニューが豊富で、安さ×ファミレス要素での集客が強いです。
くら寿司は低価格を維持していますが、既存店客数がやや不調で、そのため集客のためのコラボ(にじさんじ、ごぶごぶ、名探偵コナン、ミャクミャク)、客層を広げるためのプレゼントシステムなど、寿司以外の切り口での施策が続いています」
では、今後どのチェーンの戦略がよりうまくいくと予想できるか。
「海外では出店時のブランド力だけでなく、流通力でも差が出てきます。その視点で見ると、回転寿司に特化した流通システムをつくったスシローが強いです。はま寿司は海外においてもゼンショーのMMDシステムの活用を最大限活かせるのかが注目されます」
(文=Business Journal編集部、協力=堀部太一/外食・フードデリバリーコンサルタント)