日本生命、営業部門でAI活用…顧客との関係の深さを可視化、顧客満足度向上

●この記事のポイント
・日本生命、全社的なAI導入・活用に取り組み
・顧客とのコミュニケーションにLINE WORKSや公式LINEを積極的に活用し、顧客との関係の深さを可視化
・生命保険の加入を考えていそうなお客様を営業職員端末に表示
生命保険業界トップの日本生命保険が、全社的なAI導入・活用に取り組んでいる。営業現場では2023年にNFC技術活用のワンタッチコミュニケーションツール「MEET」を導入したことをきっかけに、顧客とのコミュニケーションにLINE WORKSや公式LINE を積極的に活用し、顧客との関係の深さを可視化。データに基づく営業活動を進めることで、顧客満足度の向上につなげているという。具体的にどのような取り組みを進め、どのような効果を出しているのか。日本生命への取材をもとに追ってみたい。
●目次
営業職員とお客様の距離感が近づく
日本生命が営業部門におけるAI活用に本格的に取り組むに至った背景について、同社DX戦略企画部部長の加藤氏は次のように説明する。
「弊社は全国に支社が約100支社、営業拠点が約1500拠点あり、約5万人の営業職員がおります。お客様の数は国内グループ全体で約1500万名ほどに上り、単純計算で営業職員一人当たり200人以上のお客様を抱えていることになります。もちろん契約情報などは会社として管理していますが、個々の営業職員が普段お客様と接するなかで知った情報や、営業職員がどのような活動しているのかというのは、本人や上司など現場でしか把握されていませんでした。そうした部分の知識・情報が会社としてストックされてないという課題がありました。
そこにコロナ禍があり、データを活用していかなければならない状況となったことが一つの契機となりました。例えば、従来はお客様から情報いただくときにはアンケートシートのような紙に記入していただいていましたが、時間もかかるし、営業職員が紙でストックしておく必要がありました。そこで2023年にMEETというNFCツールを導入して、そこにお客様がスマホをかざせば営業職員とつながるLINE WORKSや弊社の公式LINEに登録できるようにしました。公式LINEを通じて各種キャンペーンのご案内などを流せるようになり、営業職員にとっても便利で、お客様にも負荷をかけないとかたちになりました。
MEETで得たお客様の情報は会社としてストックするようにしてます。LINE WORKSにご登録いただいているお客様が約740万人で、弊社の公式LINEアカウントは約400万人、メールで営業職員とつながっているお客様も200~300万人ほどいらっしゃいます。このうち重複分もありますが、1000万人以上のお客様とこうしたデジタルツールを介してつながっているメリットは大きく、たとえば生命保険や結婚式場、結婚指輪などを検索しているお客様など、LINEヤフー様が保持するお客様の行動データをもとに生命保険の加入を考えていそうなお客様に興味を持っていただきやすいアンケートを配信し、その回答結果を連携された職員が保険商品をご案内するということが可能になっております。
これによって、営業職員とお客様の距離感が近づくという効果が出ています。お客様の世帯の方々の保険加入状況やご年齢などさまざまな情報に加えて、営業職員が面会している頻度や、営業職員が弊社の営業用スマートフォンN-phoneを使ってお客様といつ、どれくらい通話したのかといった情報などもシステム上でストックされており、お客様と営業職員の関係の深さを可視化することが可能となっています。営業職員はシステムを見れば、『このお客様はそろそろ自動車保険の満期を迎えるから保険を提案してみよう』と動けますし、関係の深さごとにお客様を抽出することもできるので、まだ接点が薄いステータスのお客様を抽出してリスト化し、『今週は距離があるお客様との距離を詰める1週間にしよう』といった行動も可能になってきます。営業職員が個別のお客様へのアクションを考える際には、お客様ごとに『こういう活動をすればよいのではないか』といった行動のレコメンドを複数、受けられる機能もあります」
顧客満足度の向上が最重要
営業現場でのAI導入によって、どのような効果が出ているのか。
「今まで見えていなかったものが見えてきた、という部分が非常に大きいと思います。これまでは『営業成績は上がっているけど、理由がいまいちよく分からない』ということもありましたが、その理由がある程度、可視化されるようになりました。弊社が定期的に行っているお客様満足度調査の結果も上昇しています。将来につながるという意味でも、お客様の満足度が上がっているという点が重要だと考えております」
営業部門では、これ以外でもAIの活用が進んでいるという。
「職員の教育という面では、個々の職員の知識の習熟度みたいなこともデータ化しており、Nラーニングという教育版CDP(データ基盤)を作って、一人ひとりに対して『今、あなたにおすすめの教材はこれですよ』といったレコメンドを行うことで、個別の最適化学習を進めようとしています。そのCDPに会社が職員に提供する教材をすべて入れておけば、職員はそこで提示された自分に最適な教材にアクセスすることができます。
また、お客様に許諾を得た上でお客様との面談の際の会話を録音して、要約やToDoリストが自動で出てくるような取組の検証も進めています。これまでは営業職員がお客様との面談の内容を口頭で上司に報告したりしていたものが、システム上で一瞬で共有できるようになり、『では次はこういうアクションをとろう』といった検討がしやすくなるといった効果が期待されます。
このほか、損害保険の自動車保険は基本的に1年更新なので、そのタイミングで他社から弊社に契約を切り替えてもらえる可能性があるのですが、お客様からご提供を受けた他社の保険証券を読み取って『お客様にこういう切り返しの提案をしてみてはどうか』とAIが提案してくれるような仕組みの構築にも挑戦したいと考えております」
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)











