猛暑の屋外に冷風を届ける…ダイキンの「アウタータワー」が切り拓く新空調市場

●この記事のポイント
・ダイキンの屋外設置型エアコン「アウタータワー」が駅ホームやテラス席などで導入拡大。工事不要で移動できる一体型冷房として注目を集めている。
・コロナ禍で一時停滞したが、猛暑と熱中症対策需要を背景に再び販売が好調。レンタル業者を通じてイベントや公共空間への展開が進む。
・海外勢の低価格競争に対し、ダイキンは品質とデザインで勝負。空調専門メーカーとして「屋外の快適性」を新たな社会価値として提案している。
今年の夏も記録的な猛暑だったが、昨今、猛暑の常態化や熱中症対策の重要性が高まるなか、「屋外空間をどう涼しく保つか」が新たな社会課題となっている。ダイキン工業が2019年に投入した屋外設置型エアコン「アウタータワー」は、駅ホームやイベント会場など従来の空調が届かなかった場所に冷風を届ける新機軸だ。空調専門メーカーとしての技術力とブランド戦略を生かし、ダイキンは屋外空調という未開拓市場に挑んでいる。
●目次
スポットエアコンの進化と競争市場
アウタータワーの背景には、ダイキンが30年以上前から手掛けてきた「スポットエアコン」の存在がある。工場スタッフの作業環境改善を目的に広まったこの製品群は、当時まだ「熱中症」という言葉すら浸透していなかった時代に誕生した。
市場は長らく国内メーカーが中心だったが、2000年代半ば以降、低価格を武器にした海外メーカーが台頭。現在では年間10万台規模の市場のうち、半数以上を海外勢が占めると言われている。ダイキンにとっても、自社の強みを生かした差別化が求められる局面にあった。
屋外需要の発見…駅ホーム・テラス席に潜む冷房ニーズ
そこでダイキンが目を付けたのが「屋外空間」である。工場以外でも快適性が求められる場所は多い。特に、夏場に高温化しやすい鉄道駅のホームや、テラス席を持つ飲食店などは、冷房ニーズが明確だった。
ただし、従来の工場向け製品をそのまま持ち込むのでは不十分だ。屋外に馴染むスタイリッシュなデザインや、簡便な設置性が必要とされた。こうして2019年、「アウタータワー」が開発されたのである。
発売当初、アウタータワーは、駅構内やイベント会場を中心に導入が進んだ。しかし2020年以降のコロナ禍でイベント需要が激減。販売台数は一時的に落ち込んだ。
転機となったのは、2024年以降の社会活動の再開と猛暑の深刻化だ。各地で40度を超える日が続き、熱中症対策は社会課題として注目を集めた。その波に乗り、レンタル業者を通じた需要が急増。2025年も好調に推移している。
特徴と利点…工事不要で「動かせる冷房」
アウタータワーは「移動可能な一体型空調」である。ほとんどの業務用エアコンは室外機と室内機に分かれ、設置工事が必須だが、アウタータワーは置くだけで使用できる。必要な場所に迅速に配置でき、不要になれば撤去することもできるため、イベントや臨時スペースに向いている。
また、工場で使用されるスポットクーラーよりも冷却能力が高く、扇風機やミスト式送風機と異なり、確実に「冷風」を届けられる。暑さ対策が必須の場面において、設置工事が不要でスピーディに対処ができる空調機器である。
一方で、アウタータワーは決して「安価な大量販売」を狙った商品ではない。デザインにこだわり、人目に付く鉄道の構内やオープンテラスと言った場所をターゲットにした商品として位置付けており、今後もその方向性は変わらない。サービス体制も含めて、ブランド価値を重視する戦略で取り組んでいく。
レンタル業者との共創が市場を育てる
販売チャネルとして注目されているのがレンタル・リース業者だ。彼らはイベント会場や商業施設など多様な現場に多様な製品を提供している。アウタータワーは他社にない「設置・撤去が容易な業務用エアコン」として今後も用途が広がる可能性を持っているので、レンタル業者からは注目されている。
現状、アウタータワーは、工場用スポットエアコンに比べれば、まだ「知る人ぞ知る」存在だ。しかし、都市の熱環境が悪化し続ける中で、「屋外空調」というジャンルそのものが今後拡大する可能性は大きい。
特に鉄道インフラや公共空間、観光施設といった「不特定多数が集まる場」でのニーズは高まりやすい。加えて、企業が顧客体験価値を重視する時代において、「快適な屋外空間を提供できるかどうか」は企業の競争力に直結する。
「空調専門メーカー」が描く社会的使命
ダイキンは国内唯一の空調専門メーカーであり、空気に関する技術と知見を積み重ねてきた。その立場から生まれたアウタータワーは、単なる新製品ではなく「社会における空調の役割」を広げる挑戦だといえる。
猛暑が日常化するこれからの時代、屋外での快適性確保は人々の安全や生活の質に直結する。空調メーカーが持つ技術とブランドが、公共空間や都市インフラのあり方に影響を与える――そこにこそ、アウタータワーのビジネス的価値がある。
・差別化戦略の重要性
低価格競争に巻き込まれず、ブランド価値を高める方向性で市場を切り拓く。
・新市場の発見
既存顧客(工場)以外に目を向け、鉄道や飲食といった新しい用途を開拓。
・顧客との共創
レンタル業者など利用現場からのフィードバックを取り込み、改良を重ねる。
ダイキンのアウタータワーは、まだ小規模ながら「屋外を快適にする」という新しい価値を提示している。酷暑が社会課題となる今、同製品が示す方向性は、空調業界のみならず、都市開発やサービス業にとっても示唆に富むものである。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)











