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アクセンチュア、“日本のシステム”を呑み込む?ゆめみ合併と共同出資攻勢の狙い

2025.10.30 2025.10.30 00:22 企業
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アクセンチュア本社(「Wikipedia」より)

●この記事のポイント
・アクセンチュアが「ゆめみ」買収や共同出資型IT子会社を通じ、日本企業のDX中枢を掌握し始めている。
・背景には、日本企業の人材不足と内製化停滞があり、アクセンチュアの総合力が独壇場化を後押しする。
・一方で企業の技術主権喪失や依存リスクも高まっており、主導権を握るガバナンス設計が今後の鍵となる。

 10月28日、アクセンチュアはDX支援・内製開発支援の老舗ベンチャー「ゆめみ」の合併を正式発表した。アクセンチュアは今年5月にゆめみを完全子会社化しており、今回、完全に経営を統合することになる。スマートフォン黎明期からモバイルアプリの開発で知られるゆめみは、「エンジニアが経営に参加する文化」を持つ内製化支援の象徴的存在だ。この合併は単なる人材獲得ではなく、日本企業の“IT主権”をめぐる構造転換の分水嶺になりつつある。

 アクセンチュアはここ数年、大企業や中堅企業とのIT子会社への共同出資・業務提携・合併をたて続けに仕掛けている。5月にはゼネコンの前田建設工業を傘下に持つインフロニアHDと共同出資し、IT子会社を設立。10月にはセブン&アイHDとのデジタル戦略提携を発表し、グループ中核の「セブン&アイ・ネットメディア」への出資も取り沙汰された。
そこにゆめみ合併が加わることで、アクセンチュアは「開発・運用・体験設計・経営実装」の全工程を押さえる構えを見せている。

 戦略コンサルタントの高野輝氏に、アクセンチュアの狙いについて分析してもらった。

●目次

「共同出資×内製支援」モデルで、企業の“中枢”に入り込む

「アクセンチュアの日本戦略を一言で表すなら、『内製支援を通じた中枢掌握』だ。これまでの受託開発やコンサルティングとは異なり、近年は企業のIT子会社そのものに出資・参画する動きが目立つ。

 その狙いは三つある。

(1)デジタル人材の確保と育成
 日本企業は慢性的なDX人材不足に悩む。共同出資により、IT子会社に所属するエンジニアをアクセンチュアの研修体系やプロジェクトで鍛え上げ、同時に優秀人材を自社ネットワーク内に取り込む。
 特にゆめみ買収によって、アジャイル開発・デザインエンジニアリング・生成AI応用など、「モノを作れる」人材基盤を獲得した意義は大きい。

(2)レガシー刷新と案件獲得
 日本の大企業の多くは老朽化した基幹システムを抱える。IT子会社を通じて内部事情を把握すれば、システム刷新・データ統合・AI導入などの大型DX案件を継続的に受注できる。
 企業側も「外部委託」ではなく「共同事業」という名目で社内調整を通しやすくなる。

(3)長期的な収益源の確立
 コンサルから運用までを一気通貫で支援できるため、契約期間は年単位から十年スパンに拡大。一度入り込めば、エコシステム全体がアクセンチュア仕様で固定化される構造ができあがる。
 この結果、アクセンチュアは単なる外部パートナーではなく、企業のIT意思決定の一部を担う存在に変わりつつある。

“独壇場化”の背景――なぜアクセンチュアだけが成功しているのか

 このような動きが加速し、アクセンチュアが「独壇場」と化している背景には、日本企業特有の構造問題と、同社の戦略的強みが重なっている。

【日本企業側の事情】

・DXの遅れと人材不足
 多くの企業が古い基幹システムに縛られ、DXを進めたくても実行できない。自社で採用・育成するには時間もコストもかかる。そこで“最短距離で結果を出す”アクセンチュアを頼る動きが広がっている。

・IT子会社の機能不全
 親会社の保守運用に追われ、技術革新や事業開発を担う余力がない。その結果、「子会社ごとリプレース」するような形でアクセンチュアが入る余地が生まれている。

【アクセンチュア側の強み】

・戦略から実装までの総合力
 戦略コンサル、クラウド移行、アプリ開発、AI実装、デジタルマーケティングまでを1社で完結できる。クライアントにとっては「ワンストップでDXが進む」構造だ。

・M&Aのスピードと胆力
 日本企業が慎重に検討を重ねる間に、アクセンチュアはM&Aを年数件ペースで断行。ゆめみやALBERTなど、国内の優秀企業を次々と吸収し、技術と人材をグローバルネットワークに統合する。

・文化の翻訳力
 アジャイルやデザイン思考など、欧米発の開発文化を“日本の現場に適した形”に翻訳し、現場社員を巻き込みながら定着させる。「押しつけ」ではなく「融合」を演出できる点が、他の外資系コンサルとの差別化要因だ。

 こうした要素が組み合わさり、アクセンチュアは「日本のDX課題を最も理解し、最速で成果を出す企業」としての地位を固めた。

ゆめみ買収の意味――“文化”を買ったアクセンチュア

 アクセンチュアのゆめみ買収は、数字以上に象徴的な意味を持つ。ゆめみは「上司を選べる」「副業・リモート自由」といったユニークな組織文化を持ち、社員の自己決定と創造性を重んじてきた。そのカルチャーを、アクセンチュア ソング(顧客体験部門)に取り込むことで、同社は「戦略×創造×実装」の三位一体体制を完成させる。

 特に注目されるのは、プロダクト開発のスピード感だ。大手企業の意思決定が数カ月単位で進む中、ゆめみは数日で試作し、顧客体験を検証する。アクセンチュアはその俊敏性を武器に、クライアント企業の「実行力」まで巻き取ろうとしている。

 高野氏はこう指摘する。

「アクセンチュアは“人材を吸収する”のではなく、“文化を導入する”という発想に転換している。ゆめみの買収は、単なる規模拡大ではなく、開発文化のリプレース(置き換え)を狙ったものです」

事例に見る「共同出資」戦略の実像

セブン&アイHDとの業務提携
 10月に発表されたセブン&アイとの提携では、グループのデジタル戦略を全面的に強化。特に、電子マネー「nanaco」や会員アプリを軸にしたデータ基盤の再構築、リアル店舗とECの統合運営(OMO)などが進む見通しだ。アクセンチュアがIT子会社に出資すれば、小売業界のデジタル標準を握ることになる。

インフロニアHDとの共同子会社
 インフロニアHDとのJV(共同出資)では、建設現場のデジタル化を推進。BIM/CIM、IoT、生成AIによる工程管理、安全管理の効率化など、社会インフラDXのデファクトスタンダードを狙う。同時に、建設業界のIT化人材を囲い込む“教育プラットフォーム”としての側面も持つ。

 これらはいずれも、単なる受託ではなく、経営・技術・人材をセットで融合する“事業開発型DX”といえる。

依存リスク――「アクセンチュア化」する企業

 だが、高野氏は「成功の裏で、構造的なリスクが急速に拡大している」と警鐘を鳴らす。

1.内製力の形骸化
 JVにアクセンチュアの人材が常駐すると、実務も意思決定も外部主導になりやすい。名目上は“共同開発”でも、実態は“アクセンチュアが開発・運用を牛耳る”ケースもある。

2.ベンダーロックイン
システム設計・CI/CD・監視運用がアクセンチュア仕様で固められ、途中で他ベンダーに切り替えるのが難しくなる。
一度依存すれば、保守コストが固定化し、「抜け出せない構造」が生まれる。

3.情報・ノウハウの流出懸念
出資関係を通じて、企業の業務プロセスやデータが外部と共有される。将来的に、他業界・他社での活用や競合優位性への影響もあり得る。
「DXを“外部化”すればスピードは出ますが、同時に“主権”は失われます。
問題は、スピードと主権のバランスをどう取るかです」(高野氏)

「飲み込まれる」か、「共進化」か

 アクセンチュアは、DX人材・プロセス・テクノロジーを総動員し、日本市場の構造的課題を代替的に解決している。その意味では、アクセンチュア依存は“問題”ではなく“必然”ともいえる。

 だが、高野氏は次のように強調する。

「アクセンチュアを“委託先”ではなく、“共創パートナー”として設計できるかが分かれ目です。契約・アーキテクチャ・データの3領域で主導権を握れば、共進化は可能です」

【企業側が取るべき3つの戦略】

1.アーキテクト職能を社内保持
 システム設計の最終判断者(Chief Architect)を社内に置き、外部提案を常にレビューする体制を築く。

2.FinOpsとSREを内製化
コストと信頼性の可視化を自社で行い、「どこに支払っているか」「何に時間がかかっているか」を把握する。

3.データ主権の確保
契約上、データとコードの所有権・アクセス権を明記。
いつでも別ベンダーが引き継げるようにする。

アクセンチュア時代の“主権”をどう守るか

 アクセンチュアの戦略は冷徹だが合理的だ。DX人材の希少性、内製化の遅れ、システム老朽化――これらの課題を同時に解く手段として、「共同出資×M&A×内製支援」というモデルを展開している。

 このままでは確かに、日本企業のIT中枢はアクセンチュアに“飲み込まれる”かもしれない。だがそれは、企業が主導権を放棄したときに起こることであり、逆に共創とガバナンスを設計すれば、“依存”を“飛躍”に変える余地も十分にある。

 DX時代の覇権争いは、もはや「どのベンダーに頼むか」ではない。「誰が設計図を握るか」の戦いである。アクセンチュアの攻勢は、その問いを日本企業に突きつけている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント)