CES 2026が示したフィジカルAI時代の到来と、かつてのロボット王国・日本の現在地

●この記事のポイント
・CES 2026で主役となったのは、画面を飛び出し「身体」を得たAIだった。韓国・中国勢はヒューマノイドを量産・実装段階へ進める一方、日本の存在感低下が鮮明になった。
・韓国はグーグルのAIを組み込み、人間を超える可動域を持つロボットで産業と家庭を狙う。中国は政府主導で低価格・量産を武器に世界シェア獲得へ突き進む。
・精密部品では今も強みを持つ日本だが、AIと完成品を握れなければ下請け化は避けられない。フィジカルAI時代、日本に残された時間は多くない。
現地時間1月6日から9日まで米ラスベガスで開催された世界最大級のテクノロジー見本市「CES 2026」。今年の主役がAIであることに疑いの余地はなかったが、これまでの生成AIブームとは決定的に異なる点があった。それは、AIが「画面の中」から飛び出し、人型の“身体”を得て動き始めたという事実である。
人型ロボット、すなわち「ヒューマノイド」は、もはや研究室やデモンストレーションの存在ではない。工場で働き、家庭に入り込み、都市インフラの一部となる――。CES 2026は、フィジカルAI時代の本格的な幕開けを世界に宣言する場となった。
そして、そこで浮き彫りになったのは、韓国・中国勢の圧倒的な進化と、かつて“ロボット王国”と称された日本の存在感の希薄化という、残酷な現実だった。
●目次
- 韓国:グーグルの知能を手に入れた「人間を超える身体」
- 家庭へ侵食する韓国ロボット:「家事ゼロ」という野心
- 中国:政府主導で進む「価格破壊」と社会実装
- スペック比較で見る「現在地」
- 影の薄い日本勢、それでも残る“強み”
韓国:グーグルの知能を手に入れた「人間を超える身体」
CES 2026における韓国勢の躍進を象徴したのが、現代自動車(ヒョンデ)傘下のボストン・ダイナミクスが公開した量産版ヒューマノイド「Atlas(アトラス)」である。
●360度回転する関節、「人間模倣」の終焉
新型Atlasの最大の特徴は、もはや「人間らしさ」を目指していない点にある。首や腰、各関節は360度回転し、背後の物体を身体ごと反転せずに腕だけで掴み取る。二足歩行という制約を受けながらも、人間より合理的に、効率的に動く身体構造が採用されていた。
ロボット工学が長年追い求めてきた「人間の完全再現」という目標は、ここで明確に否定されたと言っていい。
●グーグル連合がもたらした“脳”の進化
さらに決定的だったのが、グーグルのロボット向け基盤モデル「Gemini Robotics」の採用だ。複雑な自然言語指示を即座に理解し、周囲の状況を把握しながら作業手順を自律的に組み立てる。従来の産業ロボットとは一線を画す「考えて動く存在」へと進化していた。
ロボット工学の専門家でロボットエンジニアの安達祐輔氏は、次のように指摘する。
「Atlasは“ロボット”というより、身体を持ったAIエージェントです。ハードとソフトの優劣ではなく、AIモデルの性能が、そのままロボットの価値を決める時代に入ったことを象徴しています」
家庭へ侵食する韓国ロボット:「家事ゼロ」という野心
韓国勢の攻勢は産業用途にとどまらない。LG電子が発表した家庭用ロボット「LG CLOiD(クロイド)」は、CES会場で大きな注目を集めた。
5本指のマニピュレーターを備え、洗濯物の仕分け、食器洗い、簡単な調理補助までをこなす。LGはこれを「Zero Labor Home(家事ゼロの家庭)」と位置づけ、家電・住宅・ロボットを統合した生活OS構想を打ち出した。
これは単なるロボット製品ではない。家庭という最終消費空間を、プラットフォームとして支配する戦略である。
中国:政府主導で進む「価格破壊」と社会実装
一方、中国勢はまったく異なるアプローチで存在感を示した。彼らの武器は、国家主導による量産体制と圧倒的なコスト競争力だ。
●Zeroth「M1」:高齢者見守りを量産する発想
スタートアップZeroth(ゼロス)が展示した小型ヒューマノイド「M1」は、高齢者見守りや教育用途を想定したモデルだ。視覚・言語・動作を統合するVLA(Vision-Language-Action)により、日常会話を通じてユーザーの行動パターンを学習する。
注目すべきはその価格帯だ。量産を前提とし、40万円前後という現実的な水準が示された。
●Roborockが突破した「日本住宅最大の壁」
さらに象徴的だったのが、Roborock(ロボロック)の「Saros Rover」である。日本の住宅事情における最大の障壁――階段を、伸縮する脚と車輪を組み合わせた「脚輪型」構造で克服した。
生活空間の課題を、力業で解決する設計思想。これもまた、大量の試作と実証を短期間で回せる中国の開発体制があってこそ可能なアプローチだ。
スペック比較で見る「現在地」
CES 2026を通じて見えた中韓日3カ国の立ち位置は、以下のように整理できる。
韓国:米テック企業とのAI連合を軸に、ロボットを「プラットフォーム化」する戦略
中国:政府主導で量産と低価格化を進め、市場シェアの獲得を最優先
日本:特定現場向けの高信頼ロボットと、部品・デバイス供給に特化
ITジャーナリスト・小平貴裕氏は、こう警鐘を鳴らす。
「日本は、スマホ時代の部品メーカーと同じ立場に立たされつつあります。完成品とOSを握らなければ、いずれ価格決定権を失う」
影の薄い日本勢、それでも残る“強み”
日本勢がまったく何もしていないわけではない。クボタの自動農機、医療・物流向けの特化型ロボットなど、現場で確実に価値を生む技術は着実に進化している。
また、減速機、精密センサー、モーターといった基幹部品では、今なお世界トップシェアを誇る分野も多い。
だが、CES 2026が突きつけたのは、「それだけでは勝てない」という現実だ。ロボットの価値を決める主戦場は、もはや機械精度ではなく、AIと資本力、そして量産体制へと移行している。
かつてASIMOは、世界に「日本=ロボット大国」というイメージを植え付けた。しかし、CES 2026が示したのは、精緻なハードウェアだけでは勝てない時代の到来である。
AIという“脳”を誰が握るのか。その身体を、誰がどれだけの数、社会に送り込めるのか。この2点で後れを取れば、日本は再び「高性能部品を供給する下請け国家」に甘んじる可能性が高い。フィジカルAIは、次の10年の産業地図を塗り替える。その分岐点に、日本は立たされている。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)











