同社は現在推進中の中期経営計画で、最終年度の15年度にスバルの世界販売台数90万台達成を目標にしている。ところが、この目標台数はスズキの271万台、マツダの134万台、三菱自動車の111万台(いずれも14年3月期予想)にも及ばず、国内大手乗用車メーカー8社中最下位だ。販売力は最下位にもかかわらず、なぜ4位の収益力を誇ることができるのか。
その理由ついて自動車業界関係者は「選択と集中の成果だ」と次のように説明する。
「『てんとう虫』の愛称で親しまれた『スバル360』開発により成長した同社にとって、軽自動車は祖業に等しい。ところが、54年に及ぶこの祖業(軽自動車開発・生産)から撤退し、世間を驚かせたのが12年2月のことだった。業界関係者の驚きはもとより、NHKが『スバル、軽生産の歴史に幕』と報じるなど、大手メディアがこぞって取り上げていた。
同社は軽自動車からの生産撤退に伴い、軽自動車の開発を担当していた技術者を基幹車種『レガシィ』など中型車の開発に振り向けると共に、軽自動車の生産拠点だった群馬製作所本工場(群馬県太田市)を、トヨタと共同開発したスポーツカー『トヨタ86』と『スバルBRZ』の生産拠点に転換したが、軽を3台生産するより、『レガシィ』を1台生産する利益のほうが高い。過去のしがらみに捉われない合理的な判断だった」
富士重の海外生産拠点はインディアナ工場(米国インディアナ州)1カ所のみ。海外生産比率は約20%で、マツダと共に輸出比率が高い。
しかし、リーマンショック以降の円高に苦しみ、12年3月期まで4期連続の最終赤字に沈んだマツダに引き換え、富士重の「スバル」は「レガシィ」をはじめ「インプレッサ」「フォレスター」など主力車種の販売が北米市場で伸び続け、リーマンショックの影響を受けた09年3月期こそ営業赤字だったものの、翌年3月期以降は営業黒字を続けるなど、マツダと対照的な収益力を見せている。
「スバル」の国内生産比率が約80%を占める一方、海外販売台数比率は77.5%に達し、このうち北米市場は78.7%も占めている(いずれも13年3月期)。ここでのシェアはわずか2%台半ばとはいえ、富士重にとって北米は「スバル」の生死を決する市場と言っても過言ではないだろう。
この北米市場で、「スバル」の快走ぶりを物語る興味深いエピソードがある。昨夏、富士重の財務担当役員がIR活動のため渡米、機関投資家を巡回訪問していた時のこと。ある大手機関投資家は「富士重の業績より『スバル』の話を詳しく聞きたがった」と富士重関係者は次のように明かす。
「この投資家は業績説明を始めた富士重役員の口を『それはレポートを見ればわかる』と遮り、自分が愛用している『スバル』がいかに魅力的かを得々と話し、商品戦略と今後の開発計画を詳しく聞きたがった」
低重心により走行安定性が高いスバルは、高速運転好きが多い北米では『スービー』と呼ばれる熱狂的なスバルファンが少なくない。くだんの投資家はその一人だったわけ
だ。こうしたオンリーワンの追求が、スバルの収益力の高さの裏付けになっているのは疑いがなさそうだ。
●身の丈に合った経営でリスクを回避
だが、スバルのビジネスモデルが注目されているのは、収益力のみならず財務内容の良さもあるようだ。
例えば、富士重の14年3月期中間連結決算(13年4-9月)は売上高、各利益段階とも半期単位では過去最高の業績になった。売上高営業利益率に至っては13.4%と、2桁に乗せるほどだ。円高是正と北米市場の快走が要因だが、「プレミアムブランドメーカーの太鼓判を押せるほどの高収益」(証券関係者)といわれている。