ビジネスジャーナル > 企業ニュース > Claude×freeeが変えるバックオフィス

「手入力が消える日」は本当に来るのか…Claude×freeeが変えるバックオフィスの未来

2026.06.18 05:55 2026.06.17 13:58 企業
取材・文=昼間たかし

「手入力が消える日」は本当に来るのか…Claude×freeeが変えるバックオフィスの未来の画像1

●この記事のポイント
アンソロピック、freee、デジライズの登壇者が「freee統合ワールド2026」で語った、AIによるバックオフィス変革の最前線。Claudeを活用した経費精算や工数按分の自動仕訳、請求書作成や財務レポート配信の自動化事例を紹介しながら、「チャットからコワークへ」というAIエージェント時代の働き方と、手入力業務が消える未来の現実性を探る。

 AIがビジネスの不可欠なパートナーになったとされる2026年。AIエージェントや業務自動化ツールの普及によって、単なる文章生成を超えた実務利用が広がりつつある。だが「関心はあるものの自社で何をすればいいかわからない」という声は依然として多い。

 6月16日、東京・新宿住友ビルで開催された「freee統合ワールド2026」。経営×バックオフィス×AIをテーマに据えた年に一度の祭典として今回が3回目となるこのイベントに、アンソロピックジャパン合同会社アプライドAI本部長の菅野信氏、株式会社デジライズ代表取締役の茶圓将裕氏、フリー株式会社freee-mcpエバンジェリストの青山翔平氏が集まった。60分のセッションは、テクノロジーの未来論ではなく、今日から使える実践の話として展開した。

●目次

チャットからコワークへ――アンソロピックが描くナレッジワーカーの次の姿

 元ノキアのエンジニアとして11年フィンランドに滞在し、その後グーグルクラウドジャパンの立ち上げを牽引。2026年3月にアンソロピックに移籍した菅野信氏は、まず業務AIの歴史を振り返るところから話を始めた。

「2023年、業務でどうAIを使おうかと思ったら、チャットのインターフェースだった。質問をして答えをもらう、それが出発点でした」

 それがソフトウェア開発の世界で変容した。バイブコーディングという言葉が生まれ、命令一つでプログラムが出来上がる世界が2025年前後に現実になった。ClaudeCodeを開発したアンソロピックのエンジニア、ボリス・チャーニー氏が「自分ではもうコードを書かない。ClaudeCodeにClaudeCodeを書かせている」と語ったことは、その象徴だ。

「この動きを、今度はナレッジワーカーに持ってこようとしているのがCoworkの世界観です」と菅野氏は続けた。チャットとCoworkの違いは明快だ。チャットは「質問→答え→自分で作業→また質問」というループだが、Coworkはゴールを与えれば、AIが自律的に動いてアウトプットまで出してくれる。

 具体例として挙げたのが、クライアントミーティングの準備だ。メール、チャット、議事録、CRMシステム――散在する情報を複数のシステムから自動で収集し、ブリーフィングドキュメントを生成する。人間は指示を出すだけでいい。

 さらに菅野氏は、「Claude for Small Business」というプラグインを紹介した。スモールビジネスでよく使われるツールをバンドルし、よく使われるコマンドをパッケージ化したものだ。現時点では米国向けのため国内ツールとの互換性は限られるが、ソースコードはGitHubで公開されており、freeeのように国内サービスへの置き換えも可能だという。

「アイディアからアウトカムが限りなく近くなる。それが我々が今見ている世界です」

「優秀な新入社員」の育て方――freee-mcp活用の肝

 2日前に飛騨高山100kmマラソンを14時間で完走し、「AIが出てきても最後に残るのは長距離を走り切る力」と会場の笑いを取った青山翔平氏は、今年4月から実際に顧客先に常駐し、Claude×freee-mcpによる業務改革の最前線に立ってきた。

 青山氏がAIを表現する言葉は「めちゃくちゃ勉強ができる新入社員」だ。ネットで調べられることは何でも知っていて、50個アイデアを出せと言えば即座に50個出す。しかし、御社のログイン方法も、管理会計の考え方も、勤怠のルールも、何も知らないド新人でもある。

「だからこそ、教えて育ててあげる必要があります」

 freeeは2018年からAPI戦略を取り、現在382件のAPIを公開している。AIが業務システムを操作するためには、画面上のボタン一つひとつに対応するAPIが必要だ。この数は他社の数倍規模だという。

「AIが活躍するためのAPIが日本一なので、スモールビジネスの皆様がバックオフィスを変えていくとき、今の段階ではfreeeを選択いただくのは間違いない状況です」

 もっとも、AI活用の優位性はAPI数だけで決まるものではなく、実際には業務フローの整備やデータ品質、他システムとの連携環境なども重要な要素となる。

 実演で見せたのは、建替経費精算の自動登録だ。チャットで「建替」と打つと、AIが対象事業所・従業員名・振替日を順に確認してくる。ここでポイントになるのが、人間が無意識にやっている判断の言語化だ。「6月15日に前月末の精算をする場合、5月31日付で登録する」という当たり前のルールも、AIには明示的に教えなければわからない。教えれば、毎回同じように処理してくれる。

 さらに、受け取った領収書の確認画面の設計にも工夫があった。「人間が紙をチェックする時は左上から右下へと視線が動く。その並び順で出してください」と指示すると、Claudeはその通りの確認UIを返してきた。AIを育てるとは、こういった”当たり前”を丁寧に言語化していく作業だ。

 もう一つの事例が工数按分の自動仕訳だ。「プロジェクト太郎の5月の給与を、工数に応じて振替伝票を打ってください」という一文だけで、AIは給与データと工数データをそれぞれ取得・突合・計算し、仕訳まで完了した。手作業であればExcelと会計ソフトを行き来していた作業が、ワンライナーで終わる。

「スキル」として保存しておけば、次回以降は同じ指示で同じことをやってくれる。育てた成果が資産になるのだ。

請求書も財務レポートも自動化――デジライズ社内の現在地

 創業3年未満で560社以上のAI導入支援を手がけ、自身は毎月173億トークンをClaudeCodeに投入するという茶圓将裕氏は、自社の実践事例をテンポよく紹介した。

 まず請求書。GmailとClaudeCodeを連携させ、「メールが来たら自動で請求書の下書きを作っておいて」と設定している。気づけばGmailの下書きフォルダに出来上がっている、という世界だ。

 財務レポートは毎日自動配信している。freeeとSlackをClaude経由で繋ぎ、営業・採用を含む全部門の財務数値を毎朝送付する。Salesforceも連携済みで、「この数値が下がっているのはなぜ」と聞けばその場で分析結果が返ってくる。「定例会いらないんじゃないか」という感覚だと言う。

 さらに、freeeのデータとSalesforceの営業データ、手元の事業計画書を一括して読み込ませた財務アドバイザー的な使い方も紹介した。「下手な税理士より詳しい回答が返ってくる」と茶圓氏は笑いを交えながら話した。

「どうせ2、3年たったらほぼ全員使うと思うので、1日でも早く使ってみたらいい」

セキュリティ、海外製AI、そして仕事の未来

 Q&Aセッションでは、データセキュリティや海外製AIのリスクに関する質問が相次いだ。

 データが外部に漏れないかという問いに対し、菅野氏は「オプトアウト設定でトレーニングはされない。ただ、包括的に考える必要がある」と答えた。茶圓氏はより実務的な視点から、「SaaSを使っている時点で各社にデータは行っている。社内規定を作りプライバシーポリシーを照らし合わせて、経営判断として使うかどうか決めること。利便性とセキュリティはトレードオフです」と補足した。

 海外製AIを使い続けるリスクについては、菅野氏がクラウド黎明期と重ねた。「10年前、クラウドに対して危なくてしょうがないという抵抗があった。それが使ってくうちに傾いてきた。少し過剰に反応しすぎなのかなという感覚はあります」

 ホワイトカラーの仕事はなくなるのかという問いに対し、茶圓氏は日米の違いを指摘した。「アメリカは解雇しやすいのでどんどん減っている。日本は労働者が守られているので解雇できないが、社長は人を減らしたいと皆口を揃えている。新規採用を止めていけば中長期で自動的に減っていく」。菅野氏は別の角度を示した。「コスト削減のコンテキストだけで語られるのはもったいない。プロトタイプのリリーススピードを上げるとか、プラス側の議論も入ってくるといい」

「AIが社会全員を管理職にしていく」という問いへの答えは、どこか含みがあった。菅野氏は「マネジメントやリーダーシップも、かつては教えられないと言われていたのにビジネススクールができた。AIの時代に向けた新しい教育プログラムがこれからどんどん出てくるんじゃないか」と語った。

「感動は人で、無駄はデジタルで」——会場には宮島で観光業を営む経営者のこんな言葉が映し出されていた。繁雑な裏方仕事をAIに任せることで、人にしかできないもてなしに集中できる。それが「手入力が消えた」先に見える景色だ。

 AIが何でもできるわけでも、何もできないわけでもない。データを整え、業務のルールを言語化し、優秀な新入社員を育てるように向き合う。その地道な積み上げが、バックオフィスを変えていく。

(取材・文=昼間たかし)

公開:2026.06.18 05:55