今クール(1~3月期)の連続テレビドラマ『明日、ママがいない』(日本テレビ系)の内容をめぐる騒動が過熱している。同局は番組の継続を決定したが、前途は大変厳しいものだ。今回はこの問題をマーケティングコンサルタントの立場から見てみたい。
●広がる批判
「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」を設置していることで有名な熊本の慈恵病院が、ドラマの内容が視聴者へ児童擁護施設関係者への誤解を与え、彼らの人権を侵害しているとして、1月16日、日本テレビに放送中止を求めた。その後、同局が放送継続を決定したことを受けて、22日、同病院がBPO(放送倫理・番組向上機構)に審議を求める事態に発展している。
●広告主の対応
第1話で提供スポンサーとして入っていたのは、花王(kao)、日清食品、富士重工業(SUBARU)、エバラ食品工業(エバラ)、小林製薬、三菱地所、JX日鉱日石エネルギー(ENEOS)、キユーピーの8社。番組スポンサーとは、1クール(3カ月、一般的には計11話程度)の期間、対象となる番組に対し制作費を提供する見返りとして、番組内で「ご覧のスポンサーは、」と企業名や自社の製品名などが伝えられ、提供クレジットが表示されるシステムだ。広告費は諸事情によって変動するが、一般的には月額3,000万円程度と推測される。
22日に放映された第2話では、提供会社名のナレーションもクレジット表示もなくなった。今まで筆者は20年近く、広告・PRを中心としたマーケティングの仕事に携わってきたが、番組内容がきっかけで提供企業の表示がないという事態は記憶にない。表示がないケースとしては、提供している企業に不祥事が起きた時に自主規制をしたり、日本全体に関わる不幸(震災や天皇崩御など)が起きるケースだ。今回の事態が異例中の異例ということだ。
提供企業には、花王や日清食品といったファミリー層を大きな顧客層として抱える企業も入っているが、第3話(29日)では全社がCM放送を見合わせることがすでに明らかとなっている。広告主としては、これだけ物議を醸している状況においては、提供への批判も起きかねないと判断したのだろう。ソーシャルメディアが浸透した今、小さな火種が大きな炎上につながる。そしてブランドイメージの失墜、不買運動の加速という事態は簡単に起きてしまうのだ。
●提供を決定した広告主の心理
本番組の提供企業にとって、ブランドイメージや業績への悪影響を考えれば、たかだか一番組の提供など微々たるものだ。一つの企業が提供表示を取りやめるという決定をした時点で、全企業の提供表示取りやめが決まったのだろう。提供表示を取りやめている企業が一つでもあるならば、取りやめない企業に対する世間の批判はより強くなる。こうして第二話の提供表示取りやめが起きたのだろう。