2013年9月19日、85歳で死去した任天堂の山内溥・前社長の保有株式が4人の遺族によって相続された。任天堂が12月25日、近畿財務局に提出した変更報告書で判明した。溥氏は任天堂株の1416万5000株、発行済み株式の10.00%を保有する筆頭株主だったが、それを市場外取引で溥氏の家族4人が相続した。
※以下、相続人・所有株式数・所有株式数の割合
長男・山内克仁・429万1200株・3.03%
二男・山内万丈・429万1200株・3.03%
長女・荒川陽子・279万1300株・1.97%
二女・田中富二子・279万1300株・1.97%
溥氏の長男・克仁氏は任天堂の企画部長。長女の荒川陽子氏の夫は元米国任天堂社長の荒川實氏だ。克仁氏は将来、任天堂の社長になるという見方もあるが、「今すぐ、後継者というのは無理がある」(任天堂関係者)という。
任天堂の大株主の順位(13年9月30日時点)は次のようになっていた。
・1位:山内溥氏
・2位:米JP モルガン チェースバンク(所有株式比率8.98%)
・3位:米ステート ストリート バンク&トラスト カンパニー(同6.87%)
・4位:京都銀行(同4.50%)
・5位:野村信託銀行(退職給付信託三菱東京UFJ銀行口/同3.36%)
※自己株口は同9.74%。
今回の相続により、山内克仁氏と山内万丈氏は実質6位の株主となる。任天堂を世界的なゲームメーカーに育てた溥氏は莫大な遺産を遺した。上場株式の評価は死亡した日からさかのぼって2~3カ月間の平均株価をもとに算出される。亡くなった日の株価(1万1090円)で計算すると、遺産は株式だけで1570億円。07年11月に任天堂の株価は7万3200円の史上最高値をつけている。この時点での資産は1兆円を超えていた。
旧松下、ブリヂストンでも巨額相続発生
したがって相続税も巨額になる。日本で過去最高の遺産総額といわれているのは、松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助氏。1989年4月に94歳で死去した際の遺産総額は2450億円で、それまでの高額遺産の記録を更新した。遺産の97%以上が松下グループの株式だった。遺産相続者は妻、娘、娘婿ら7人。子供のうち4人は幸之助氏が認知していた婚外子だったことが話題になった。相続税額は配偶者控除があり854億円だったが、松下家は相続税の支払いのため、松下グループに持ち株の930億円分を売却して全額納付した。
史上最高の相続税額を記録したのはブリヂストン創業家の2代目、石橋幹一郎氏の遺産相続のケースだ。97年6月に77歳で死去し、遺産総額は史上2位の1646億円。相続税の納税額は配偶者控除がなく1035億円。長男・長女・次女の3人がブリヂストン株式を売却し、納税した。ちなみに幹一郎氏の妹は、鳩山由紀夫元首相の母親の鳩山安子氏である。
溥氏の遺産総額は、松下氏や石橋氏に肩を並べる額となった。配偶者控除がないため、相続税は莫大なものになるとみられている。親族は、相続税を納付するため、相続した任天堂の株式を売却することになる。市場で売却すれば株価に悪影響を及ぼすことから、任天堂がなんらかの対策を取ることになるとみられている。
岩田聡社長は1月17日記者会見で、溥氏の親族4人が株を売却する場合、自社株買いに応じる考えを明らかにした。松下氏の時と同じように、任天堂が株式の受け皿になる。
一部株式を親族から引き取りへ
任天堂は2月4日、自社株式950万株を1142億円で取得したと発表。3日の終値の1株1万2025円で立会外取引により買い付けた。取得した株式はM&A(合併・買収)を実施する際の株式交換に使う。適当な案件がなければ消却する可能性もある。
任天堂は溥氏から株式を相続した親族に対し、株式を手放す場合は自社で買い取る方針を示し、1月29日に1250億円を上限として自社株取得枠を設定していた。立会外取引で親族4人が相続した株式数の67%相当を、会社側が引き取ったことになる。
有力企業にとって、自社を成長させた創業者の巨額相続は、一歩間違えると経営に大きな影響を与えかねない悩ましい問題なのである。
(文=編集部)