カウンターの中にいるのはアルバイトの女の子と、『アウト×デラックス』(フジテレビ系)などでたびたび矢部美穂さんと親子共演をしている矢部ママ。「美穂の母でございます」と丁寧に挨拶してくれたママは美穂さんの面影のある顔立ちで、世話をよく焼いてくれる近所のおばさまといった雰囲気だ。
店内は白基調の清潔で落ち着いた印象で、バーらしいオシャレな空気感が漂い、ちょっと贅沢な夜を過ごしている気分にさせる内装である。店を訪れたのは平日の22時前だが、客席はかなりの賑わいを見せていて、ほぼ満員状態。年齢層は40代以上がほとんどを占める大人の空間だ。
カウンター席について、まずは屋号を冠した人気の「YABEKEサイダー」をオーダー。注文を待っている間にアルバイトの女の子に話しかけてみると、どうやらプロの雀士らしく、すでにイメージDVDを発売して芸能界デビューが決まっているそうだ。店内で販売されているそのDVDを、ママや他のお客さんが「買ってあげなよ!」と半分冗談、半分本気で勧めてくるのを笑いながらかわして「YABEKEサイダー」を飲んでみる。爽やかな微炭酸で、お酒が苦手な人でもどんどん飲めそうな口あたり。さすが看板メニューといった感じだ。
●本物の芸能人登場で豪勢な気分に
まったりと飲みながら過ごしていると、美穂さん本人と三女の美希さんが来店。美穂さんはさすが芸能人というオーラを身にまとっている。多少水商売っ気があるにはあるが、バーというシチュエーションもあって、まったく下品には映らない。妹の美希さんも、美穂さんに負けない美貌の持ち主で、この日は長女の美佳さんはいなかったが、3人揃ったらさぞ店内は華やかなのだろうな、とつい想像してしまう。
ママ、美穂さん、美希さん、バイトの女の子の4人が慌ただしくも楽しげに立ち働くところを眺めながら、ゆっくりとお酒を楽しむのはなかなか豪勢な気分だ。軽口をたたきながらテキパキと働く彼女らを見ていると、矢部家の仲のよさがよくわかる。
2人で「YABEKEサイダー」やカクテルなどアルコール5杯にチーズの盛り合わせ1品を注文して1万円超と、けっして値段は安くはない。しかし、初めての客にはいつもそうしているのか、帰り際に美穂さんと2人で写真を撮らせてもらえたのは純粋にうれしかった。
お客さん同士は常連が多いため、一見の客はかなり肩身の狭い思いをするのもやや難点ではあるが、夜が更けるごとに続々と来客があり活気が増す「YABEKE」。お店の繁盛の理由は芸能人に確実に会える、という点が大きいのだろう。本人のブログをチェックしておけば美穂さんの出勤日は概ね把握できるし、たとえ美穂さんがいなくても、頻繁にテレビ出演しているママにはほぼ確実に会える。
昨今、矢部ママだけでなく、スザンヌや友近、お笑いコンビ・TKOの木下隆行の母親や蛭子能収の息子など、芸能人の家族がテレビに出演し、そのタレントのサテライト化することはしばしばある。彼らは芸能人ではないものの、多くのテレビ出演をこなし、半芸能人化している状態だ。そんな半芸能人化した母親とうまく協力し、ビジネスとして見事に成立させた稀有な例である「YABEKE」。今後、タレントとその家族が店に立つことを売りとした飲食店が増加していくかもしれない。
(文=武田佑三/ライター)