武田は4月1日付で元グラクソ・スミスクライン(GSK)幹部のクリストフ・ウェバー氏を次期社長とすべく、COO(最高執行責任者)として迎えた。同社は、「真のグローバル製薬会社への脱皮」という目的で外国人を大抜擢したとしている。
かつてソニー会長兼CEOだった出井伸之氏は2005年、業績不振にあえぐ中で、米国のメディア事業を担当していたハワード・ストリンガー氏を自身の後任に据えた。ストリンガー氏はエレクトロニクス事業における経験がなく、工場にはほとんど足を運ばず、さらに日本に滞在するのは1年のうちのわずか2~3カ月間だった。そしてソニーの業績は、ストリンガー就任から現在に至るまで長期低落を続けている。
●外国人主導が鮮明になる、武田の経営
武田の長谷川氏も財界活動と社長の二足わらじを履き続け、業績を落としてきたが、今回のウェバー氏起用は、ソニーのストリンガー起用時の状況と似ているため、「武田が第2のソニーの道をたどることになるのではないか」と懸念する声も聞かれる。6月の株主総会を経て、ウェバー氏は社長兼COOとなるが、GSK出身の米国人、米国籍である山田忠孝取締役の下で研究開発を仕切るメンバーはほとんどが外国人で、財務や人事のトップも外国人だ。武田にはグローバル・リーダーシップ・コミッティ(GLC)という組織があり、ここで経営の最重要事項を話し合うが、このメンバー10人中6人が外国人だ。
ウェバー氏は6月末の社長兼COO就任の1年後に、長谷川氏から社長兼CEOのポストを引き継ぐと公表されているが、英国人社長が就任直後に辞任した日本板硝子のようなケースもあり、日本企業において外国人トップへスムーズに権限が委譲されるのには難しい面を伴う。
そんな難しい事例の成功例といわれる日産自動車は3月27日、仏ルノーとの資本提携合意から15周年を迎えた。カルロス・ゴーン社長を筆頭に、国籍や性別などを問わず多様な人材を活用するダイバーシティ経営を推進しているが、ルノーによる日産の技術収奪が進んでいるとの指摘も多い。
ウェバー氏は4月2日の記者会見で、「3カ月程度で(武田の)強みや問題点を洗い出す」と改革に強い意欲を示し、武田に入社した理由について、「世界で最も古い企業の一つであると同時に『正直』『不屈』といったタケダイズムに感銘を受けた」と語った。
また、武田は大型買収を繰り返してきたことで、国内外のグループ従業員の3分の2を外国人が占めていることを受け、「世界80カ国にある拠点を足場に、グローバルリーダーを目指す。会社の魅力を高め、『武田で働きたい』と思わせたい」(ウェバー氏)と抱負を語った。
しかし、11年に1兆1000億円の巨費を投じスイスの製薬大手ナイコメッドを買収した時も、長谷川氏は「ナイコメッドが持つ南米や東欧の販売網を使って、武田の新薬を投入する」とその狙いを熱く語ったが、当初のもくろみは実現していない。
果たして武田は外国人トップの下、「武田」から「TAKEDA」に変身することができるのか。業界内の注目が集まっている。
(文=編集部)