「週刊東洋経済」(東洋経済新報社/1月18日号)は『うつの正体』という特集を組んでいる。「あなたの会社では何人がうつで休んでいるだろうか。公務員の統計では国家公務員の1%強、地方公務員の1%弱が、主にうつが原因のメンタル休職者だ。民間企業でもこれが目安となる。うつ休職者が、公務員並みの1%くらいに抑えられていれば、その企業の人事部は優秀だと見なされる。『IT企業なら3%台で上出来』というのが人事関係者の認識である。1カ月に100時間も200時間も残業するSE(システムエンジニア)でうつの発症が多いからだ」「一方で、製薬会社の啓発キャンペーンやメンタルクリニックの急増が、うつっぽい社員をうつ休職に向かわせている側面もある。会社を悩ませ、社員の人生を狂わせかねない、うつの正体を追う」という内容だ。
ここにきてのうつ特集の背景には、うつの原因のひとつとされるストレスをチェックすることが法律で義務化される方向にあるからだ。国は1月下旬からの通常国会で労働安全衛生法を改正し、すべての事業者と従業員に対し、2015年度にもストレスチェックを義務付ける方針だ。
また、18年度には、昨年6月に成立した改正障害者雇用促進法により、一定規模以上の企業では、身体、知的、精神の通常3障害者を2%以上雇用しなくてはいけなくなる。この中には、医師の診断をもとにした精神障害者保健福祉手帳3級(2年更新)が取得できるうつ病も含まれるのだ。
●誰もが簡単にうつと診断される可能性がある
特集記事PART1『うつになる』では、米国精神医学会が作成した診断マニュアル「DSM」が診療を効率化させたが、「単なる気分の落ち込み」といった、うつでない人までうつと診断される弊害が指摘されているという。さらに最新の「DSM-5」では「肉親が亡くなって2週間ぐらい、くよくよと泣いて仕事が手につかない」といった状態でも、うつ病と診断される可能性があるようだ。
特集記事PART2『うつを治す』では、重症のうつであれば、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ剤を飲む従来型の治療となるが、ただし副作用もあると警告する。軽症であれば、薬は効かないので不要な場合もある。また米国では副作用のない磁気刺激を脳に与えて治す新型療法・経頭蓋磁気刺激法(TMS)もあるが、保険適用外のため、日本では合計で180万円程度はかかるという。
特集記事PART3『職場に戻る』では、うつは再発しやすく、うつ休職者は復職と再休職を繰り返しがちだとして、各企業の対策を紹介している。日産自動車は社会復帰をサポートするリワーク施設を、ホンダも専門組織をつくり、全社で統一的なメンタルヘルス対策を行っている。
また、国内最大規模のIT企業、社員の休職率が1.2%に上るNTTデータは長期間にわたり負荷がかかる職場のため、常勤の産業医4人などといった他社にない陣容でメンタルヘルス対策に臨んでいる。うつ病は短期間ではなく長期にわたるストレス蓄積で症状が表れる。NTTデータが分析したところ、入社3年目からの発病者が多かったため、3年目を迎える全社員を健康推進室が面接・フォローする仕組みにして、不調者の増加を抑制することに成功している。
なお、うつと異なるものに、自閉症や注意欠陥・多動性障害などの発達障害がある。うつかと思いきや発達障害といったケースもあり、一般的に発達障害は2~5%の比率で社内にいるとされている。社内の無理解から、発達障害が要因になってうつになる場合もあるという。
若干複雑な心境になるのは、人材派遣大手・アイエスエフネットの取り組みだ。同社本社のスタッフは約3分の1が障害を抱えており、社員は首に掛けるストラップで自らの病名を周囲にわかるようにしたことにより、「色分けしたら、社内でのトラブルが減った」という。たいていの職場では、コミュニケーション不足がトラブルの原因となるが、この職場では対人関係がうまくいかないことが前提となっており、その症状を周囲が初めからわかっているために、配慮が働き、トラブルが予防されるというわけだ。
また同社では、「なかなか職を得られない精神障害者ならば、離職率が低く、与えられた業務を一生懸命こなす」傾向があるので、精神障害者を雇うという。弱みにつけ込んだ感がなくはないが、うつにして辞職に追い込むブラック企業とは対極に位置しており、「社員は家族同様なので決して辞めさせない」という同社専務の言葉を信じたい。