昨年、安倍晋三首相が成長戦略の目玉として掲げた「サプリメントの機能性表示解禁」が、ここにきて暗礁に乗り上げている。消費者庁が「身体の部位」への言及を認めず、しかも表示基準の上限を「特定保健用食品(トクホ)に準じる」と主張し始めたのだ。
機能をうたえるのは医薬品――。薬事法にこのような一文がある以上、消費者庁の対応は一見するともっともではあるが、ここまでわかりやすい「岩盤規制」になってしまう背景には、厚生労働省、ひいては製薬業界からのプレッシャーがある。
「サプリの機能性表示解禁をめぐっては、製薬会社側からかなり強い抗議が厚労省に入っているようです。サプリが機能をうたえたら医薬品ではないか、というクレームはもちろんのこと、サプリ会社が海外の論文を引っ張ってきただけでエビデンスとするというのも、多額の費用をかけて臨床試験をしている製薬会社からすればおもしろくない」(厚労担当記者)
製薬会社がサプリメントを敵視しているのには、もうひとつ複雑な理由がある。それを説明するためには、国内最大手・武田薬品工業が2013年1月10日に発売した高脂血症治療薬「ロトリガ」が適当だ。
ロトリガは市販薬ではなく、医療保険が適用される医療用医薬品。中性脂肪値を下げ、血液をサラサラにするということで、13年度売り上げ実績は52億円、14年度は同120億円と順調に売り上げを伸ばしているが、実はこのロトリガの主成分はイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)という、市場にあふれる健康食品やサプリメントではおなじみの有効成分なのだ。このような「サプリまがいの新薬」が日本の製薬業界には増えてきており、それが製薬会社の中でも高い売り上げを上げているという現実があるのだ。
その背景には、日本ならではの特殊事情が関係している。国立大学病院の教授が語る。
「日本は世界で唯一、政府が薬価を決めるという特殊な国。どんなに画期的な薬を開発しても毎年の薬価改定で引き下げられていくので、製薬会社の開発力は落ちてきており、臨床系論文の数は世界で25番目とかなり低い。こういう状況の中、日本の製薬企業が生き残っていく道は2つしかありません。ひとつは海外の画期的な新薬の安全性が確認された後、似たような薬を開発していく。そしてもうひとつが、効き目は微妙だが副作用リスクの少ないものを医薬品として売っていく」
つまり、製薬会社が力を入れる「サプリまがいの薬」というのは「機能をうたえるサプリ」と真正面から競合してしまうというわけだ。もしほとんど変わらぬ「機能」ならば、安価なサプリに消費者は流れる。
●製薬企業によるネガキャンの歴史
事実、アメリカでもそのような現象が起こった。1994年、大規模な規制緩和をしたことで、米サプリ市場は一気に急成長。その牽引役となったのが、抗うつ作用があるといわれた「セント・ジョンズ・ワート」というハーブサプリメントだ。日本では「西洋弟切草」というほうがなじみ深いかもしれない。もともとは欧州では薬草として使われており、ドイツ国内などでは抗うつ剤として50%以上のシェアもあった。それがアメリカでも「抗うつ作用をうたうサプリ」として爆発的に売れたのだが、その一方で抗うつ作用のある医薬品、つまり抗うつ剤の販売が低迷するという現象が起きてしまったのである。