では、なぜ最近になって彼女たちのようなニッチなアイドルが人気になりつつあるのだろうか?
その要因として、憧れの対象であったアイドルが、より身近な存在になっていることが挙げられるだろう。昔はアイドルというと、テレビなどでしか見ることのできない雲の上の存在であったが、最近は「AKB48」のように握手会や撮影会で会うことができるアイドルや、Twitterやブログなどでプライベートな情報を発信するアイドルが増えている。そのようにして、ファンにとって身近な存在であるとアピールし、「もしかしたら付き合えるかも」とファンに錯覚させることが最近のアイドルビジネスの主流となっている。
しかし、そのような手法を取るアイドルも増え続け、今では飽和状態となった。そこで新たに注目されるようになったのが、ニッチな分野の知識や趣味を持ったアイドルなのではないだろうか。虫やプラモデルのような、多くの女性があまり興味を持たないジャンルの趣味を持っていることで希少価値が生まれ、共通の趣味を持っている男性には親近感が生まれる。また、正統派のアイドルとは違って、一般人に近い感覚を持っていることで、女性のファンも獲得できるのだろう。
また、メディアとしては彼女たちのようなニッチなアイドルは“使い勝手が良い”というメリットがあるはずだ。例えば、歴史番組や鉄道番組は趣味に特化した番組なので、興味のない人にとっては退屈な内容になりがちだが、その分野に詳しいアイドルを出演させれば番組に華を添えられ、新たな視聴者を獲得できるかもしれない。また、それなりに知識も持っているので既存の視聴者から反感を買うこともないはずだ。もちろん、風変わりなアイドルとしてトーク番組などに出演することもできる。つまり、メディアにとって重宝する存在なのだ。
“憧れの存在”から“身近な存在”へとアイドル像が変遷している中で、ニッチなアイドルが登場するようになったのは自然なことのように思える。
大衆からもメディアからも好まれているニッチなアイドル。活躍の場が限られているため爆発的に売れることは難しそうだが、同分野に造詣が深いライバルが新たに登場しない限り、息の長い活躍が見込めそうだ。今後もしばらくはアイドルビジネスにおいて、ニッチな趣味に特化した“○○アイドル”はキーワードとなるだろう。
(文=千葉雄樹/A4studio)