だが、同専門家はジャストシステムの釈明について、次のように疑問を呈する。
「その契約とは、不正な手段で取得したデータであることが後からわかった場合に、データ購入契約を解除し、代金を返してもらえるというもの。これから買おうとしている情報が、本当に適法かつ公正な手段で入手したものかどうかを確認することは、現実問題として不可能に近い。子供の個人情報という最もデリケートな情報であれば、今や不正な手段を使わず集めたものが市場に出回るなどということはあり得ないと考えるべき」
結局、現時点で個人情報の流出先として名前が出た大企業はジャストシステムのみで、塾や教材販売会社の名前は出ていない。その理由について同専門家は次のように解説する。
「塾は各教室ごとにいかに生徒を集めるかの勝負。集客の対象となる地域が極めて限定されているので、実際に在籍した生徒だけでなく、模試だけ受けに来た生徒も含め、同級生や兄弟、親戚、隣近所の後輩などを紹介させたりして、自力で集めた情報のほうが精度も価値も高い」
ジャストシステムは8月7日、購入したベネッセの全顧客データを削除したことを公表した。事件発覚後すぐに、購入したデータの削除を宣言したが、これに真相の解明や捜査の妨げになりかねないとしてベネッセが難色を示したため、削除はいったん見送っていたが、今回は警視庁に確認をとった上での削除だという。
同日発表されたジャストシステムの15年3月期第1四半期の業績を見る限り、本流出事件の影響は見受けられない。営業利益、経常利益ともに12四半期連続で株式上場来の過去最高を更新した。
だが、今回のベネッセの問題とはまったく別に、ジャストシステムはもう一つ別の火種も抱えている。マイクロソフトから不正競争防止法と著作権法に抵触しているとして、抗議を受けているのである。
●もう一つの火種
マイクロソフトが問題視しているのは、ジャストシステムが販売している「JUST Office」という、ワープロ、表計算、プレゼン用のソフトを1つにまとめたパッケージソフトである。マイクロソフトの「Office」と名称も同じだが、Wordの代わりにJUST Note、Excelの代わりにJUST Calc、PowerPointの代わりにJUST Slideというソフトで構成されている。ATOKやPDFの出力・編集、エコ印刷が行えるソフトも一斉導入できるという。
ワープロソフトはNoteではなく一太郎が組み込まれているタイプのほうが主力なのだが、マイクロソフトはNote、Calc、Slideのインターフェースに、いずれもマイクロソフトがOfficeに採用しているリボンインターフェースとそっくりなものが使われており、これが不正競争防止法と著作権法に抵触する、という内容の警告書を送っているのだ。