1つ目は、スマートフォン(スマホ)やタブレットの次の商材である新しい製品(アプリケーション)を開発できないことだ。そもそも成熟商品である情報家電は差別化しにくい上に、製品差別化ができない。
2つ目は、コスト競争力がないことである。スマホも先進国では成熟段階に入っている。新興国では、同等の品質でより低価格な製品を武器にした中国企業が躍進し、コストではまったく勝てない。採算月額人件費が2万円以下の競争である。とても国産では勝てない。
3つ目は、国内市場では利益が出にくいことだ。日本市場では、大手家電量販店の寡占化が進んでライバルも多く、メーカーが買い叩かれており、利益が確保できない。
これらの低収益構造は、テレビなどの黒物事業を持つ、すべてのメーカーが陥っている状況である。その中でも、この問題に最も苦しんでいるのが、白物や企業向けに逃げ場のないソニーだ。
ソニーの13年度連結売り上げは6.8兆円、営業利益は963億円である。そのうち黒物事業をはじめとするエレクトロニクス(エレキ)関連が約4.5兆円で6割以上を占めるが、1345億円の赤字。その一方、映画、音楽、金融などのコンテンツやサービスは、2308億円の利益を稼ぎ出している。ちなみに、音楽、映画と金融サービスの売り上げは約2.2兆円で、営業利益率は11%になる。投資家からエレキ事業の切り捨ての声が高まるのも無理はない。
●構造問題から逃げられないソニー
ソニーは平井一夫社長の下で、VAIOブランドのパソコン事業撤退、テレビ事業の分社化、5000人の人員削減、旧本社地域の資産を売却、年功序列賃金の廃止などのリストラを進める。一方で、Xperiaなどのスマホやタブレットへの集中、音楽や映像の新しい配信サービスの事業拡大、画像センサーへの350億円の設備投資を行っている。しかし、構造的な問題への解決策と生き残りの道筋は明確には見えないのが実情だ。
第1に、成熟製品に代わる新しい製品カテゴリー開発の見通しがない。ソニーは、スマホ、タブレットやゲーム機などの限られた製品分野に重点を絞り、高品質を武器にしたハイエンド市場の開拓とシェア確保を進めようとしている。高精細カメラ、高音質などのハードのスペック面、楽曲や映像コンテンツとの連動性などでどこまで差別的な価値を提供できるかが鍵である。
第2に、どこまでコスト差を詰められるかである。世界市場でソニーは、量産優位を構築することはできない。14年のサムスンのスマホの年間販売数量は約3.6億台、アップルが1.7億台とみられるが、ソニーは約4300万台にすぎない。情報家電業界には、販売数量が2倍になれば、1台当たりのコストは20~30%低くなる、という傾向がある。つまり、同じ部品ならば、サムスンはソニーの半分以下の約41%で、アップルも約56%のコストでつくれることになる。さらに現在、中国市場などの新興国市場を席巻しているスマホは1万円台の機種である。安さの秘密は、メディアテック(台湾)などのファブレスメーカーの格安チップセットを利用し、品揃えを絞った量産だ。