第3に、利益が取れるように、家電量販店との価格交渉力を持つことである。しかし、ソニーストアなど独自のインターネット直販チャネルも持つが、製品差別化とブランド力以外に、交渉力はないのが現実だ。
つまり、これらの業界の構造的問題への解決策が見いだせていない。この泥沼から抜け出す方法は3つの選択肢しかない。1つ目は、エレキから撤退し、音楽、映画と金融サービスに集中することである。2つ目は、エレキの高級品市場を開拓することだ。自動車にベンツやBMW、レクサスなどの高級車市場があるように、世界のハイエンド市場だけにターゲットを集中することである。3つ目は、ソニーの独自の強みであるエレキとコンテンツ、両事業の相乗効果を生かすことである。ネット時代を迎えてソニーは、この3つ目のオプションを追求し続けているが、成果を生んでいないのが現実だ。
●エレキとコンテンツの融合への答え
ソニーの最大の問題は、エレキなどのハード事業と、コンテンツやサービスなどのソフト事業の相乗効果を追求できるビジネスモデルの構築である。ソニーは、これまではエレキで稼いだキャッシュをコンテンツなどのソフト事業の買収や投資に費やしてきた。音楽や映画では世界で有数のコンテンツホルダーである。現在はソフト事業の収益でハード事業の赤字を補填している。ソフトとハードは相互補完関係にある。手袋や靴下と同じで、左右両方がなければ役に立たない。ソニーには、この両方の事業があることがユニークである。しかし、現実には相乗効果をうまく引き出せないので、マイナス効果のほうが大きい。
ハードを売るには、ソフトはたくさんあって、なおかつ無料がいい。テレビなどのエレキ=ハードが普及したのは、放送=コンテンツが豊富で無料だからだ。一方で、ソフトを売るには、ハードは選ばず、利用できる端末が多いほうがいい。グリー、DeNAやガンホーなどゲームのプラットフォームビジネスの収益性が高いのは、携帯電話やスマホなどの端末=ハードを選ばずに、専用端末を購入しなくていいからだ。
ソニーは、ソフトとハードの両部門があるので、両者の収益性を追求せざるを得ない。そのため、端末に固有のキラーコンテンツを開発して、互換性のない端末を販売するという「バインド(一括販売)モデル」にこだわり、顧客を囲い込むことになる。
例えば、分社化の決まったテレビ部門も4Kテレビで品質優位性を持つが、普及に不可欠な4Kコンテンツは提供されていない。そうなると、自社コンテンツを武器に、独自の4K配信によって持続的な差別性をつくろうとする。オーディオ事業の「ハイ・リゾリューション」規格の高音質追求も、同じバインド路線である。このバインド戦略の行き着く先は、「ソニーの4Kコンテンツはソニーの4Kテレビで」という、ユーザーにとっては利用が制限される囲い込みになる。コンテンツ部門にとっては、ハードの売り上げ支援のために、コンテンツの販路が制限されることになる。
ソフトとハードの融合は難題である。近年、端末(ハード)に参入したマイクロソフト、アマゾン、グーグルなどのソフトやネットワーク企業は、ソニーと同じソフトとハードの融合によるビジネスの相乗効果を狙っている。しかし、どの企業も成功しているとは言いがたい。
ソニーは、さまざまなアカウントを「ソニーエンタティメントネットワーク(SEN)」に統一して、ゲームソフトの配信をテコに、音楽や映像コンテンツを配信するクラウド型の定額有料配信サービス、「ミュージックアンリミテッド」や「ビデオアンリミテッド」などを拡充させている。スマホ、タブレット、オーディオ、テレビなどの端末で共通に利用できるエンターテインメントサービスであり、ソニーの難題への最新の答えである。これがソニーを復活へ導く導火線となるか、大きなカギになるといえよう。
(文=松田久一/JMR生活総合研究所代表)