メーカーが迫られるユーティリティモデルへの転換とは?販売・保守から機能提供へ
英語で「サービタイゼーション(servitization)」というビジネスモデルがある。直訳すれば「サービス化」だ。製造業のビジネスモデルであり、製造業が自社製品に関連した保守などのサービスを提供することである。
サービタイゼーションの事例は枚挙に暇がない。例えば、森精機製作所などの工作機械メーカーは自社が販売した工作機器の保守を行っているし、読者もリコーなどのコピー機メーカーが自社販売機器をメンテナンスする姿はオフィスで頻繁に目にしているだろう。石川島播磨重工業が自社製ジェットエンジンのメンテナンスを提供しているように、このビジネスモデルは従来、自動車の整備や時計のオーバーホール、コピー機のメンテナンスのような消費者を対象とする工業製品から、プラントや鉄道車両などの運行事業者が保守を行っている製品、さらに防衛装備に至るまですべての工業製品に広がりつつある。
自社製品の販売に加えて保守をサービスとして提供するというビジネスモデルは、なぜ一般的に成り立つのか?
その理由は、スキルの面では設計情報や純正部品を持つメーカーは、製品の所有者である顧客よりも保守を上手に行うことができるからである。経済的にいえば、製品製造と部品の仕入れを共通化することによる仕入価格の低減効果や、サービス要員や保守器具を複数の顧客で共有することによるリソース量の低減効果もある。
また、一般的に在庫というのはサプライチェーンの上流側が持つほうが、全体としての負担が小さい。単純に下流側の需要変動を相互吸収して在庫量を減らせるだけではなく、そもそも上流側マージンが乗らない分、在庫として滞る資本の量を低減できるからだ。メーカーとしては製品の寿命が尽きるまで顧客と付き合うようになるため、顧客の買い替え時期を熟知して提案することができ、場合により顧客の買い替え時期をコントロールすることも可能なのである。
顧客側から見ると、保守は恒常的に行うものではないため、保守要員を確保したり部品在庫を維持したりするマネジメントの負担は大きく、これがなくなるメリットがある。加えて、製品の再販売価格が上がるというメリットもある。メーカーが保守した中古品であれば、中古品の購入者にとって「lemon(腐っているかどうか外見から判断がつかない品物)」ではないことが確実だからだ。
●サービタイゼーションの落とし穴
このように、いいことずくめのサービタイゼーションなのだが、メーカーがサービス化を行うと初期的には劇的な利益率と売り上げの向上がみられるものの、その後利益額は増加するが利益率は横ばい、ないしかえって低下してきてしまうという現象が研究者によって報告されている。実は、メーカーのサービタイゼーションに限らず、規模が大きくなると利益率が低下してしまうというのは、サービス業ではよくある話なのだ。